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ランドマーク(57)

 サメって、そういえば泳ぎ続けないといけないんだっけ。マグロとかもそう。回遊魚に分類される魚は、エラを動かして酸素を取り入れるために泳ぐ。止まったら死んでしまうなんて、わたしからしたらまさに息苦しくてしかたない。常に強迫観念に駆られていたとしたら、どこかの時点で頭がおかしくなってしまうだろう。
 でも、サメにとっては生まれてこの方、あたりまえのことなのかもしれない。わたしたちが普段呼吸や瞬きを無意識にしているのと同じ。当然だと思い込むことで、苦しみはいくらか軽減される。先天的にそうなら、何の不自由もないだろう。でも例えば、それが後天的に獲得された認識だったとしたら?「呼吸を止めないでください、止めると死んでしまいます」と教えられ、意識しなければ窒息死してしまうような世界だったら。意識を無意識へ移行させるのはどれほど大変なことだろう。一部の意識を麻痺させて、無意識が認識上へ二度とは登らないようにする。一度そうすれば、いままでどれほど苦痛に感じていたことだって、麻酔を打ったように無感覚でいられる。どれほど苦しくとも、どれほど辛くとも。

 でもそれって、幸せなんだろうか。わたしは問わずにいられない。苦しまないことは必ずしも幸福に直結しない。だってさ、苦しみから逃れようとしたら、つきつめるとわたしの場合、きっと死ぬことを選んじゃうと思うから。セルフ安楽死。そんなにバッドエンドかな、これって。

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