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ランドマーク(124)

「繋ぎ目はなるべく少ないのが理想なんだけどね。いくら『遊び』があったって、歪みの許容量を越えれば脱線事故に繋がる」

 わたしは空へと伸びてゆく鉄道のレールを思い浮かべた。わたしの生まれたこの街、この県にも、そんな話があった気がする。鉄道がリニアでもなく、ましてや電気でもなく、石炭を食べては煙を吐き出していた、それくらい昔の話。エレベータよりもいくらかロマンチックに思われる。

 先生は点線の横に枝分かれのある構造物を描いていた。進化の系統樹、三角州、あるいは珊瑚。そうだ。「塔」の構造は

「植物の枝に似せた構造」小野里先生はそう言いながら、収束した一端に山頂のように見える三角形を描いた。

わたしはそれだけを知っていた。逆に言うならば、わたしはそれ以外のほとんど一切を知らなかった。徹底した情報統制のせいにしていたつもりだったが、わたしはここに来て、自分が恐れていることに気が付いた。

 知ることだ。

「枝と異なるのは、『塔』は繋ぎ目を介してある程度の可動域が確保されているということだ」

 わたしは席を立った。そもそも、わたしは一体いつ席に着いていたのだ?

「もう、いいのか」小野里先生は拍子抜けしたような顔をしている。それでわたしはますます申し訳ないような気持ちになった。これはわたしの良いところでもあり、悪いところでもある。

「いえ、やっぱり」わたしは再び腰を下ろした。木製の椅子にはさっきまでの温もりが残っていた。「知りたいです」

 わたしは、嘘をつくのが上手くない。

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