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ランドマーク(102)

それから試験当日まで、文字通り味気ない日々が続いた。わたしの腕には何本かの針が刺され、何枚かの電極が貼り付けられ、口からは何ミリリットルかの唾液が採取された。母の声は聞こえない。わたしはすでに孤独だった。この壁に囲まれた部屋の外側にいる人々、別の生き方、広い空。人の気配を感じるからこそ、わたしの孤独は深いものとなった。まるで、それは初めから意図されていたかのように。わたしは枕と布団を友とし、浅い眠りに救いを求めた。
 どれだけの覚悟があったか。それなりに、残念なことに、わたしはわたしの特別さを自覚していた。それからわたしが、この国のために犠牲になるということも。どうしても理解しきれなかった。犠牲という言葉。両親が望むことだから、それだけではもはや不十分だ。父の姿ばかりか、母の声も失われた。眠れない夜が少し増えた。感情抑制は上手くいっていないだろう。だってこんなにも。
 目が覚めるとまた別の天井があった。掛け布団に潜り込むとワープできる能力か。もちろんそうではなくて、今回の移動については委員会から告知があった。北部で県境を接する本州最北端の県。その東部に飛行場がある。かつて米軍の駐留時に使われていたものだ。

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