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ランドマーク(80)

 体勢につられて心持ちまで内向きになってくる。ネガティブな想像力は留まるところを知らず、まさに奔流のような激しさでわたしの胸を突き動かす。一筋の落雷、わたしの心臓はぴたり。青天の霹靂と表現したらごちゃついてしまうな。とにかく雷に打たれて死ぬのはごめんだ。死にたいのか死にたくないのか自分でもよくわからない。消えてしまいたいという願望はたしかにある。でも、その具体的な方法について想像すると途端に恐ろしくなってしまう。

 そうだ、舘林は。顔も想像したくはなかったが、やはり心配にはなる。人間性に関わらずその生命は尊重されるべきだ。それに、わたしはそれを判断できるほどできた人間ではない。おそらくこの雨だ、早々に下ることを決めたはずだ。となると、舘林はわたしの安全を顧みることはなかったということか? 勝手なやつ。自分自身に向けた言葉だ。その場の衝動に任せて舘林を見限っておきながら、都合が悪いからと助けを請うなんて。とにかくわたしはわたしの安全を最優先しなければならない(生きたいのなら)。

 祠まで向かうのはどうだろうか。先に身体を動かすことにした。立ち上がり急ぎ足になりながら考えを整理する。大きさは分からないが、もしそれが木造であるならばわたしの肩くらいまではあるはずだ。屋根の下に入れば雨宿りできるんじゃないか? それにわたしの目的も(おそらく)果たせる。ARグラスの情報は視界になかった。

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