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ランドマーク(127)

「今は委員会の代わりに事故調査会が活動を続けているけど、何をしているかは詳らかにされているわけではない」

「その調査会が、実質的に委員会と同じ立場を占めていると」

「僕はそう考えている」

「夏休みも、じゃあ調査会が」

「さあね」沈黙が流れて、それからふいに、強烈な陽光が窓から差し込んだ。


「僕は、この国の歴史までもが間延びしないことを願うよ」この仕事を選んだ理由の一つでもある、と小野里先生はわたしに告げ、それから一週間もしないうちにほんものの夏休みがやってきた。わたしは机の傷をまだ忘れてはいない。

 山を下りてからというもの、わたしは夏休みを持て余していた。同級生達は何をしているのだろう。部活に精を出したり、少し早めの受験勉強に取りかかったり、ARに入り浸ったり、きっとそんなところだろう。小野里先生は去り際に宿題をやっておくよう告げたが、自分でも驚くほどに気分が乗らなかった。

 怠惰は病であり、わたしは患者だった。ほら、なにも変わらない。どれだけ夏休みが延びたところで、結局のところ堕落した人間はいつまでも堕落したままなのだ。

 優れた人間はなにをすれば良いか分かっている。

 わたしは分からない。

 こうして彼らはわたしから遠ざかっていくのだ。そう、まるで小学生の頃、休み明けに再開した同級生の背丈がぐんと大きくなっていたように。

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