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ランドマーク(134)

 ここに来たかったのか。わたしは、望んでいた? どこまでが自分の意志で、どこからが成り行きなのか。ふかふかとした山道へ足を繰り出すたび、じゅわりと雨水がにじんでくる。まず考えるべき事がある。わたしはこれからどこへ向かうべきなのか。衝動はわたしを地獄へだって連れて行くだろう。立派な脳味噌の出番だ。

 選択肢を挙げることにする。ひとつ。このまま頂上へ向かう。日帰りであればこの軽装は向いている。昨日が雨だったんだから、おそらく今日のうちは天気が崩れることもないはず。
 ただ、この行動には目的がない。山があるから上まで行こう、その純粋な欲望に突き動かされているだけだ。道を行けば何かしらの情報を得られる可能性はあるが、確証は何もない。

 ふたつ。山道を横切って、調査会のいるはずのもとの登山道へ合流する。もといた登山口付近までわざわざ戻ってくるのは馬鹿らしいようにも思われるが、二つある登山口の位置関係を考慮すると、横切るのにそこまで時間はかからない。調査会が通るはずの道なのだから、それに沿っていけばほぼ確実に彼らの行動を観察できる。わざわざ登山道が合流する八合目まで登る必要だってないかもしれない。
 この案の問題点として、登山道から登山道へ移るための道がないことが挙げられる。「塔」の倒壊によって植生は半壊したが、この十年で山麓における驚異的な回復が見られた。笹藪は身を隠すのに好都合だが、わたし自身が道に迷うわけにはいかない。

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