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ランドマーク(128)
舘林から連絡があったのは、盆明けすぐのことだった。わたしは先祖の墓も先祖の顔も見たことはないので、弔うべき対象を持たなかった。それが父になる可能性はあったにしろ、父親が既にこの世界に存在していないとはどうしても思えなかった。別々の学校へ進学した友人のような風体で、どこかのスーパーマーケットで再会できるような、くだらない物語を育てている自分もいた。
目覚まし代わりのコール音は、わたしを夢から現実へと急速に引き戻していった。
「おはよう、暇か」どうしてわたしの周囲の人間は、こうも唐突に干渉してくるのだろう。
「何」
「元気、してた」
「まあ」
「うん」
メッセージでもいい、と口に出かかったのに合わせて、舘林は
「山が閉鎖される」
「え」
目が覚めた。
「なんで」
「分からない、なにも」
「なんでそれは知ってるの」
「ネットで、それだけ」
「だから、コール?」心臓の音が聞こえている。わたしの。
調査会が調査を実施しているのだろう、と浅い呼吸のなかで気付く。これまでにも数度、そんなことはあった。ただしそれらは全て、事前に告知がなされたものだった。
「通知がないのはおかしいよな」
小野里先生との会話がよぎる。夏休みが延びたのは、優等生が劣等生と差を付けるため。
「行く」
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