見出し画像

ランドマーク(52)

「この前、屋上よく行くって言ってたじゃん」
「ああ、だったっけ」
「デブリの日」
「たぶん」
「俺も屋上行きたかったんだけどさ、鍵、ないし」
「わたしは持ってる」
「持ってんのかよ」
 と舘林はやるせなさそうにわざとらしく溜め息をついた。
「じゃなきゃ屋上、行けないじゃん」
「職員室から持ち出してんの」
「合鍵」
「海良って、賢いんだな」
「ん」
「登る?」
「登る」

 パーティーは二人になった。わたしたちは別々の目的と同じ手段を持っている。二人の方が体感時間はずっと早い。会話が弾めば、の話だけど。ただ、街と同じ格好をした人間を連れて登ったことはないから、そのことだけが不安要素だった。だからしばらく歩いた後、わたしは後ろの舘林に語りかけた。
「舘林」
「ああ、何」
「舘林はなにしに来たの」
 手段は同じでも目的は違う。あくまでわたしの妄想にすぎないが、舘林が墓参りなんかに来るはずがない。わたしみたいに、中に親族でもいないかぎり。

 そう、わたしの父はここで死んだ。当日まで研究とモニタリングを続けていたプロジェクトの面々と共に、〈塔〉の崩壊になすすべなく巻き込まれたのだった。死体さえ残らない。まるで旅の途中で壊血病にかかった船乗りみたいに、まるで国境紛争の調停に向かい通信を絶った部隊員みたいに、家族には骨の欠片も残されない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?