見出し画像

ランドマーク(53)

 物言わぬタンパク質とリン酸化カルシウム、その他いくつかの化合物からなる生体組織。そんなものに執着しているのは、我ながらばかばかしいことだと思う。ロケットやペンダントはわたしに似合わない。砂漠に落とした一粒のダイヤ、わたしはもとから見つけるつもりなんてなかった。どこかで区切りを付けたかった。歳を重ねるごとにぼやけていく父の輪郭を追いかけるのは、もうやめにしよう。
 これがわたしの目的。舘林は?

「幽霊って興味ない?」

 ふざけてる。

「は?」

「出るらしいんだよ、幽霊」

「幽霊?」ふざけてる。だって、

「屋上にも出るらしいんだけどさ、知ってるか」

「知らないよ、そんなの」

「〈塔〉が倒れたときにさ、行方不明者が

「ごめん、先行く」

 わたしは舘林の話を遮って歩き始めた。パーティーはこれにて解散。もうなにも、考えたくない。だから下を向く。足もとでは登山靴の紐がぶらぶらゆれる。小さいころの通学路のように、一歩。ぶらぶら。もう一歩。ぶらぶら。自己催眠をかけるように、揺れだけに意識を向けた。別に転んだって平気。それよりも、意識が外側へ向かうことの方が怖かった。舘林は後ろに置いてきぼり。なにか言ったみたいだけど、わたしは聞き取ることをやめた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?