死にたい人を救う
私は手術室の経験しかない状態で救命センターに移ったので
「精神疾患患者」との濃い関わりは、ほとんど経験がなかった。
もちろん、学生の実習では精神科実習はあったけど、
精神科病院の入院患者は症状が固定された感じなので、妄想や幻聴と共存しながら日常を過ごし、普通にテレビを見たり卓球したりしていた。
急性期は独房の様な隔離室に入るけど、命に別状はない。
手術室に入ってくる精神疾患患者は
「うつ」とか「統合失調症」とか既往に書かれているだけで
普通に歩行入室もできて問題なく会話もできる、特別待遇は必要ない、麻酔導入までスムーズに行く患者がほとんどだった。
救急に運ばれてくる精神疾患の患者は
これらとは次元が違う。
そもそもどんな患者が運ばれてくるのかというと
ダントツに猛烈に多いのは大量服薬=オーバードーズ。
ほんで、何故そんな大量に薬持ってんの?という話なんだけども、
これは精神科の受診頻度とか
薬の処方システムとか色々
精神科素人には全然わからないレベルの根深い大問題がある思うので
ここではそっとしておく。
とりあえず
まず救命センターでオーバードーズの患者を見て思ったのは
睡眠薬を色々ブレンドして90錠〜100錠くらい飲んで
2日くらい意識不明の状態で救急搬送されても
人は死なないということ。
「人はあっけなく死ぬ」という記事を書いといてナニですが
この人達は簡単には死なない
同じ自殺でも
本気の人はビルの10階以上から飛び降りる。
もしくは線路に飛び込む。
もしくは洗剤とかを一気に飲む。
オーバードーズやリストカットの目的は、「死ぬ」という事とは全然違っていて、これを書き出すと多分5000文字くらいになるので
ここではそっとしておく。←again
この大量服薬にも度合いがあって、なんかちょっと朦朧としてて呂律が回らない・・・くらいのレベルも居れば、ほぼ呼吸停止している状態もあるわけで、救命センターICUに緊急入院してくるのはもちろん後者だった。
普通、どんな病態で気管挿管をする場合でも、持続の鎮静や鎮痛はうっすらでもかけるけど、大量服薬の場合の気管挿管だけは無鎮静でいく。
そもそも薬が入ってるんだから何の薬も投与せず、ただ呼吸の補助をして胃洗浄をジャブジャブして、活性炭を入れたのち、ひたすら起きるのを待つ。
ほぼ全員が大暴れで覚醒
挿管してるから、暴れられたらもちろん困るんだけども、
静かに、穏やかに、ぱちくりと目を覚ます患者はまぁ居ない。
挿管は苦しいから、喉も口の中も何もかも痛すぎるから、無鎮静だったら苦痛のあまり飛び起きるに決まっている。
全員が劇的な覚醒を果たし、生きてることを悟ってさらにパニックに陥る。
それでも救う意味とは
飛び降り自殺でも焼身自殺でも大量服薬でも、
ともかく「自傷行為」で救急に運ばれてくる患者は沢山いる。
死にたかったのに
勇気を出して飛び降りたのに
覚悟を決めて灯油を被って火を付けたのに
絶望して薬を飲んだのに。
私達は全力で
その勇気と覚悟を踏みにじって救命する
絶望を思い出させるために救命する
命を救うことに理由はなくて
命の重さに優劣はなくて
そこに命があるから、ただ救う
医者も看護師もMEも救命士もみんな
救命医療に携わったことのある人はだいたい同じ考えだと思う。
どうしても生きていたい人
死にたくない人でも、人は死ぬ時は死ぬ。
結構あっけなく死ぬ。
こんなにやってもダメだったか、とか
絶対立ち上がると思ったのにダメだったか、とか
そこそこ医療が無力なことは、医療者なら誰でも知っている。
命を軽く考える人に無駄な医療費を使うな!
なんて思わない。
人は、何をやっても死ぬ時は死ぬんだから
生きてたんなら、もっかい生きてみてよ。
今回死ななかったんだから
もっかい生きてみたら何か変わるかもよ?
そんな風に、自殺患者が生き延びた時はいつも思っていた。
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