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デザインリサーチについて、今年、個人的に新鮮だったこと

この記事は、freee Designers Advent Calendarの15日目です。

こんにちは、freeeのエクスペリエンスデザイン(XD)チームにおります、応用エスノグラファのawa(@n_awamura)と申します。
XDチームの中のXD基盤チーム(謎)のAssociate Managerです。
インドカレー屋の謎ドレッシングが気になっています。

これまで、入社半年、1年の節目で記事を書いてきました。
半年めの記事は、freee楽しいよ!キャッキャッ!という記事でした。

1年めの記事は、freeeのデザインリサーチチームの現在地の紹介記事でした。

だいたい入社1年半経った今回は、視点をふたたび個人にもどして、
「デザインリサーチについて、今年、個人的に新鮮だったこと」を書いてみようと思います。
あくまでも僕が自分の実践の中で気づいて新鮮に感じたことであって、内容それ自体は平凡だと思います。
ただ、ある企画の結果ではなく、そのプロセスの中で実践者がどのようなことを考え、自己の思考の枠をアップデートしていくのかの一例を記述するのにも意義があるのでは、と考えたのです。
事業会社でデザインリサーチを元にしたプロダクト企画をすること、ないしそういう人と一緒に働くことに興味のある方には、あるいは面白く読んでいただける場合もあるのかもしれません。

ところで、前回の記事を書いたころはデザインリサーチチームだった僕のチームは、現在、エクスペリエンスデザイン(XD)チームになっています。
チーム視点での記事(つまり、なぜXDにしたのか、についての説明)は、また2年めのタイミングにでも書こうかと思っているのですが、取り急ぎ、いまのXDの役割は自分なりに以下かと思っています。

  • おもにデザインリサーチを武器に、PMを中心とした他ロールと協働してプロダクト企画と意思決定を行なうこと

  • プロダクトマネジメントにおいて、他ロールのよき壁打ち役となること

  • freeeに所属するメンバーがデザインリサーチを行なえるような環境整備を行なうこと

それでは、始めていきましょう。
今年、個人的に新鮮だったことは、以下の2点です。

  • デザインリサーチにおいて「発掘」が重要であること

  • デザイナーにとって、ドメインリサーチが重要であること

それぞれ書いていきますね。

「発見」と「発掘」

デザインリサーチとは、通じて一種の「編集」行為と言えるのかな、と感じます。
その時点までに得られている情報を統合・総合し、企画化をしていくことは、つまり継続的に紡いでいくことだと思うためです。
その「編集」の対象となるのは、大きく「発見」と「発掘」の成果です。

ここでいう「発見」とは、社外にいるヒトへのリサーチです。ユーザーインタビューとか、ユーザビリティテストとか、エスノグラフィとか、プロトタイピングとかという語を使って、想起されるだろう内容です。
もうひとつの「発掘」とは、社内のヒトおよび過去の社内資料のリサーチです。
(語の区分はもちろん便宜的なものです)

このうち、「発掘」の重要性が真にわかってきたのが今年でした。
デスクリサーチの重要性はわかっていたつもりでしたが、さらに深くわかったぞ、という感じです。

「発掘」できるようになるには時間がかかる

リサーチを意味のあるものにするためにはどうすればよいでしょうか?
その計画の時点でよく考える必要があるし、よく考えられるようなスケジュールを引く必要があります。
考えるためには、社内の過去検討をしっかり解釈する必要があります。
しかしながら、社内資料を「読める」ようになるには時間がかかるのです。

社内資料を「読める」とはどのようなことでしょうか?
ある資料が置かれたコンテクストも含めてその資料の意味するところを理解でき、次のアクションが思い浮かぶことだと言えるでしょう。
その前提として、B2Bにおいては、少なくとも「ドメインの理解」と「プロダクトの理解」と「会社の理解」が必要です。

「ドメインの理解」とは、freeeにおいては会計や人事労務などバックオフィスの理解です。
それぞれ、取得に何年もかかる難関国家資格が存在する領域です。
これについては、ずっと勉強し続けるしかないと思います。

「プロダクトの理解」とは、freee会計とかの理解です。
このために行なったのは、freeeの導入支援の社内教育プログラムと、導入支援に同席して見せていただきながら、導入支援を数年担当していた方に来る日も来る日もプロダクトやユーザーについて聞きまくる、ということでした。
その方は1日に何本も導入支援をする日々を数年続けていたのだから、彼に聞くことはインタビュー100回分に相当するはずだ、と思ったのです。

「会社の理解」とは、どこになんの情報があるのか、どの局面で誰を頼ればいいのか、ということの理解です。
freeeは創業10年で、その間に無数の試行錯誤が行なわれてきています。
とくに会計などの創業時から取り組んできている領域についてまったく検討されていないことは基本的にない、という前提で動いたほうがよいと感じます(逆に見つけられたら成果とも言える)。
実際、着想はいいものの、その時点の開発面の前提が整わなかった、世の技術普及状況と合わなかったなどの理由で、モメンタムに恵まれなかったアイデアをたくさん目にしてきています。
いま取り組むとどうなる?という発想につながります。

このようにして理解が進むと、会社を徐々に「鉱脈」として利用できるようになっていきます。
(ドキュメンテーションツールや心理的安全性によって、ある人にとっての会社の「鉱脈」化の速度を上げる支援はできますが、やはり本質的に時間はかかるものだと思っています)

「発掘」の質が上がれば、より進んだ地点から「発見」に移ることができますし、いまリサーチなんてしてないでさっさと作って出そう、という意思決定もできます。
一刻も早くユーザーの皆さまに価値を届けたい。というなかで、いかにリサーチをするか、ではなく、いかにリサーチをしないか(しかし必要十分な判断材料で意思決定を行なうか)、がプロダクト企画における戦略の本質の1つであり、その判断に主要な責任を負うのがデザインリサーチ実践者なのだと考えます。

なぜいま「発掘」を新鮮に感じたのだろう

「発掘」をいま新鮮に感じた理由として、キャリア的な背景といまのUXリサーチ機運の盛り上がりがあると思います。

キャリア的な背景とは、自分がクライアントワーク出身である、ということです。
クライアントワークにおいて「発掘」に本格的に取り組めることは現実的には少ないのでは?と感じます。
クライアントとの関係は原理的に契約期間に規定されるためです。
そのようなわけで、これまであまり意識することがなかったのでしょう。

次に、UXリサーチ機運の盛り上がりです。
昨今のプロダクトマネジメントの現場において「ユーザーに会うことは大事だ」、「ユーザー解像度を上げることが大事なのだ」ということが至るところで言われています。
そして、様々な手法が紹介されます。
どこまでも正しい、のですが、そのような正しさによって生まれる重力のなかで、ユーザーに会うことは双方にとって非常にコストの高い方法である、ということが知らず知らず見えづらくなりがちに思います。
「自分で実査をしたほうがなんだか進んだ気がする」という人間の性もありそうです。

なお、「発掘」について輪郭を持って考えるようになったのは、カスタマーサクセスのマネージャーの1人に下記のように言ってもらったことがきっかけです。

「awaさんはちゃんとカスタマーサクセスに聞きに来るのがプロですよね。普通の人は、まずユーザーに会いに行ってしまうんです」

そうかー・・そうかもなー・・そうだよなー・・でも考えたことなかったなー、とそのとき思ったのです。
大きな学びでした。

余談ですが、上記のようなことが、デザインリサーチャーやUXデザイナーにとっての転職の難しさの一端を示しているように思えます。
転職初期は、実査を通して「発見」しかできないし(過去資料読んでも、本当にはわからないから)、その「発見」は本人にとって新しくても他のメンバーにとっては新しくもなんともないので組織的には「発見」たりえていない。しかし、立場上なにか新しい知見を出すことは期待される。パフォーマンスが上がるまでの期間が長い。だから苦しい。
というわけです。
企画系のロールに共通する悩みな気もしますが・・。

デザイナーにとって、ドメインリサーチが重要であることの理解

もう1つの話題に移りましょう。

僕はいまでこそエクスペリエンスデザイナーというロールでデザイン組織の一員として活動していますが、出自はデザイナーではありません。
新規事業文脈の仕事をエスノグラフィの立場から長くしていたので、プロダクトマネジメントやプロダクトデザインはこの数年でベンチャーに飛び込んで体当たりかつブートキャンプ的に身につけてきたものです。
なので、まだ知らないことは多々あり、出くわすと「おおー」と思います。

今年、freeeで、Designing Connected Contentの輪読会がありました。

その4章が「主題領域の調査」だったのですが、初読時にリサーチの進め方にちょっと違和感があり(たとえば、なんでここでカードソーティングするんだ?とか)、でもその違和感がむしろ気になって、なんでだろうな?と考えていたのです。
そして今更ながらに気づいたのが、「デザイナーは設計の一環としてドメインリサーチをするのだ」ということでした。
確かにドメインの解像度が高まらないと具体的な設計はできないよな、と。
リサーチそのものがデザインとして行われている、と思って読むと、リサーチの仕方にも筋が通っている。
そういうリサーチの世界があるのか!と思いました。

それ以来、デザインリサーチには大きく以下の2種類があるという理解をしています。

  • 設計のために「ドメイン」の解像度を上げるためのリサーチ

  • 取り扱うべき「ドメイン」を探し、特定するリサーチ

僕が行なうリサーチは役割上、後者の場合が多いので、抽象度が高いと言われがちなのだな、ということもわかりました。

なお、この本、デザインの世界にリサーチや企画側から入った人には、とりわけ一読をおすすめします。
日頃のなんか通じないモロモロが、いろいろ腑に落ちるかもしれませんよ。

最後に

お付き合いありがとうございました。

繰り返しになりますが、自分なりの内省と言語化がどのように進んだか、という話の共有であって、目新しいことはなかったかと思います。
他方で、人に聞いたことではなく、自分で経験したことに基づいて内省を跡づけられると自信がつくな、とも思います。
ただ教科書やフレームワークの引用をしているうちは、自分のものにはなっていないので。

ところで、僕は応用エスノグラファと名乗っているのですが、今年たどり着いたことばの一つが「発掘」で、結果とてもエスノグラフィっぽいなあ・・と苦笑いしたりしました。
お里は、最後までお里であるようです。

今回書いたことは自分なりの内省と気付きの軌跡なのであって、何が新鮮なのかは人によって違ってくると思います。
とはいえ、自分なりの内省が進むには、着実な、そしてちょっとストレッチな実践ができる環境がすべからく必要だと考えます。
ある程度の期間、自分なりにデザインリサーチだとかUXデザインだとかをしてきて、しかしながらそれを自分流にあらためて体得していきたいフェイズの方にとって、いまのfreeeは面白い実践環境なのではないか、と感じています。
当たり前なことを問い直すことを蔑ろにせずむしろリスペクトし、面白がっている人が多いようにも思います。

持論となりますが、一概によい会社というものは存在しないと思っています。
「あるフェイズにある、ある会社」と「ある人生フェイズにある、ある個人」の利害が合うときに、お互いにとってのよしあしが決まります。
もしfreeeにご関心をいただけるようでしたら、そして僕がキャリア上の選択の対話相手となりうると思っていただけるようでしたら、お気軽にご連絡ください。

とりあえず、XDのリンク貼っときますが、なんでもどうぞ。
僕もまた、次のステップどうするかなーと常に考え続けている1人です。
ちなみに、カジュアル面談ではガチの居酒屋トークをします。シラフで居酒屋出せます。

さて、明日は、22新卒のyoshi2くんです。
彼にGoogle Apps Scriptを手ほどきしてもらい、JavaScript書けるようになりたいなーと思うようになりました。
来年の目標です。
あと、共通の趣味が服で、おそろいのフランス軍のリザードカモのパラトルーパーパンツ持ってて、被らないように気配をうかがい合って日々過ごしています。

それでは、また、どこかで。
次は自分が企画をリードして最近リリースに至った機能について書きましょうかね。


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