今村夏子「ピクニック」で学ぶ虚言癖の行動②
というわけで、ルミたちと七瀬さんがどういう違いがあるのか、見ていきたいと思います。
■「ルミたち」とはなにか
「ルミたち」はローラーガーデンの主力メンバーで、ビキニになれるくらいスタイルが良く、美しい女の子達だと想像できます。タバコを吸い、コーヒーを飲む。ダンスは適当だけど、ローラースケートを履いている分危険とは隣あわせ。だけど、キャバクラなどの水商売まで踏み込む度胸はない。常にタメ口なのでマナーがなさそう。学歴は高卒以下のようで学生もルミたちの中にはいなさそうです。若さを貪って生きてる。
でも、ダンスレッスンに参加したり、日焼け止めを塗り、紫外線指数をチェックしているあたり、それなりに仕事には真面目に取り組んでいるようです。
■七瀬さんとは何者か
それに比べて、七瀬さんはどうでしょう。
ルミたちは七瀬さんを一目見て、自分たちの仲間、つまりローラーガーデンのウェイトレスではないと確信していますね。それは裏切られるのですが…。
つまりそのくらいの容姿レベルの人だということ。
年齢は「秘密です」ということですが、春げんきが33歳なので、話の内容からそのくらいの歳だということがわかります。
ドブそうじをしている時、日焼け止めを塗らず真っ黒に日焼けしていることから、美容に関心が薄い、もしくはその発想がない。でも、ローラーガーデンの支配人がビキニを手渡すくらいには、女が残っていて、胸が大きい。しかし、美しいとは言い難く、虫刺されの跡のような副乳がある。
そして、春げんきとのなれそめは壮大な話で、年下なのに先輩のルミたちに敬語を使っているところから、マナーもあり、話術もある所が窺えます。
■何故、バレる嘘をつくのか
ここまで「ルミたち」と七瀬さんを比べてみました。なぜ七瀬さんが、人気お笑い芸人と付き合っているという、大スペクタクルを創造するに至ったか、経緯を辿っていきます。
まず、七瀬さんは年齢が若くないという負い目があります。本人も厨房希望だったのに、支配人にビキニを着せられてしまいます。この時点では、七瀬さん本人もこの格好がおかしいと感じている自覚があるのです。
そして、ルミたちに似合ってると言われて丁寧にお辞儀をする。ルミたちは面と向かってビキニの七瀬さんをおかしいと言えません。でも、七瀬さんはルミたちのお世辞を、真正面から受け取って調子に乗ってしまったのです。
本来なら、厨房に行くはずの女の自意識が爆上がりしてしまった。
私は、適材適所で、七瀬さんが本人の希望のまま皿洗いをしていたら、ルミたちに嘘をを付かなかった気がするんです。
そして、自分がいつもしている春げんきとの妄想話を披露して、芸能人の彼女という、絶対羨望ポジションに自分がいるということをルミたちに知らしめます。
何故知らしめないといけないのか。
嘘つきたちは、自分が空っぽなのに耐えられないので、内部のバランスを取るために自己陶酔を必要とするんです。
大抵の人は自己陶酔ではなく、自己実現することで(志望校合格、貯蓄、ダイエット成功など)自信を付けていきますが、嘘つきの自意識は壮大なので、努力するという発想がありません。
ここで、七瀬さんは頑張ってローラーシューズを履けるようにする、という発想がありませんよね。
つまり、春げんきの恋人という虚偽の発言をするのは、自分が何も無い、空っぽの存在だとバレたくないからなんですが、自意識だけは壮大なので、若くて見た目だけのルミたちと違って私は芸能人の女だから、崇め奉れ、と、マウントを取りながら、自分に酔っている。
そして、虚言癖のひとは「嘘はいずれバレるもの」という常識がありません。だから平気で嘘をつけるのです。そして、ルミたちを見下して明らかに人を見て嘘をついています。
どうでしょう。
③からは、実際に七瀬さんがどうルミたちを陥れたのかを読んでいきます。