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アイアコッカ わが闘魂の経営 7      リーダーを生み、犠牲も残った

銀行との闘い                                    すさまじい攻撃の刃をくぐってようやく政府保証を獲得。でも銀行は黙って融資や金利減免、返済猶予に応じるわけではなく、1行づつ交渉しなければならない。それがまたもやダムのような障壁に。「その交渉の困難さに比べれば、議会の公聴会など春の日にパンクしたタイヤを取り換えるようなものだ」 タイヤ交換だって大変ですが・・・      

”できる”、しかも爆弾クラスのジョーク                        交渉相手は膨大な数で条件もまちまち、各銀行にも事情があって事態は複雑そのもの・・・ ごまんと苦労話が続く中、面白かったのは ”できる部下”の一人、スティーブ・ミラーという人物。 海外も含む多くの銀行との折衝で凄まじくタフな仕事ぶりとケタ外れのユーモアを発揮。例えば・・・

 ジョーク しくじったらどうなる?                                   ★ある時、会議中に銀行同士が揉めて大喧嘩に・・・              するとミラーは玩具のピストルを出して頭にあて「好きなだけ喧嘩してください」「私はこれから自殺します」これで落着。 しかし、こんな会議で玩具のピストルなんて、何のために用意したのでしょうか?

 直前の思いつき                          ★紛糾する銀行団。一堂に集まってもらうと、「昨夜臨時役員会を招集」し、深刻な不況、業績悪化、融資も得らえないことで「今朝9時に破産を申請いたしました」と宣言! 同席の同社役員さえ知らず仰天!      さっと青ざめる銀行家達。そして一言「本日はエイプリルフールの日であります」このジョーク、思いついたのは会議5分前とのことで・・・  

しかし効果てきめん! 銀行家たちはクライスラー倒産で自分達が陥る深刻さを一瞬で現実に感じ取ったそうで。結局協定OKとなります。 

最終直線コース・しかし難儀はまだ                  しかし合意を渋る銀行はまだ他にも。ミラーは超人的にも思える粘りで各個撃破し、遂に全銀行の承諾をゲット!                   

ゴール前のインフェルノ!                                膨大な契約書類はビル7階まで積み上がる枚数だそうで、宣言に間に合わせなければ苦労もフイになります。とりまとめ作業はマンハッタン、パークアベニューのビル。しかし、宣言前日に火災発生という大アクシデント! そのビルにいたミラーも、やはりこんなことをしなければ良かった! の想いがよぎったといいます。しかし彼らは鎮火後、警察と消防の制止を振り切って煤けたビルを上り、書類を回収。なんと、奇跡的に書類は全て無事!       

本当に最後の最後まで、試練が重なった経営再建。しかし瀕死のクライスラー社はキャッシュの追加補給を受けて遂に立て直しをはかり、関連企業も含めて膨大な人員の雇用が守られることになりました。 会社を救い、従業員を裏切らなかったことで、「私は英雄になった」

言葉                                この再建劇。彼が想いを綴ったところをいくつか挙げてみます。                 

=自身の年俸を1ドルに下げたことが評判になったことについて=              ◎「それはクライスラーが一致団結していることを示した」        =そして指導者として=                        ◎「リーダーシップとは、模範を示すことである」「リーダーシップをとるのに成功すれば、部下は、すべての点で指導者に倣おうとする」一方、「だからこそ、トップは言動の一つ一つに注意が必要である」                                               =振り返って=                              「クライスラーの3年は、フォードでの32年より、人間についてはるかに多くのことを私に教えた」「仲間が同じ艱難を分かち合うなら、人間はかなりの苦痛をも耐えるものであることがわかった」                                     

☞改めてこの本を読むと、当時はなかったコロナ禍で、今の日本の政治、リーダーシップ像のバラツキが情けなく感じられて仕方ありません。この本以外の部分で、彼はイタリア系企業との強度のこだわりや経営上の独断が批判されていたようです。しかし彼がいなければ、クライスラー社は2000年を迎えられていませんでした。コロナ禍ほどの危機に直面して、危機管理と戦略を引っ張るリーダー不在では、日本はどんな姿で将来を迎えるのでしょうか。

=一方で犠牲も=                              ◎「苦痛は甚だしかった。生活に困って子供に学校をやめさせたり、酒に溺れたり、離婚したり、多くの家庭が破壊された」「結果的に会社は救われたが、そのために実に多くの人々の、深い個人的な痛みがあった」      ● ☞以前にも人をクビにする苦痛を書いていましたが、それこそ無数に人を切る立場だったはず。自身もフォードで切られる苦痛を体験し、奥さんも病状が悪化。奥さんの病状進行についても経過を書き綴っていて、それは胸をえぐる内容です。家庭の苦しみも良く分かっていたでしょう。

ともあれ、クライスラー再建の英雄となった彼。本では高度経済成長を続けた日本経済の強味についても言及しています。政治のことだけでなく、少子高齢、人口減少、コロナ禍、米中対立のはざまなど、苦境に直面している今の日本から視点を戻し、見つめ直す良い題材と思うので、次号で紹介しようと思います。                        =続く=




                    

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