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電車について

時々電車を利用する。

普段は車移動が多いが、飲みに行く時や、ややこしそうな道を通る時は電車を利用する。


これは車にも言えることだが、人が電車を乗る理由は2パターンある。

一つは電車そのものが好きな人。電車の内装や線路が好きな人。外装や車両が好きな人は電車に乗らず外から写真を撮る。言わば乗ることを目的とする人。


そして、もう一つは移動手段として電車を利用する人。通勤、通学。正確に発着する交通機関として知られ使い勝手がいい。多くの人は電車を利用する目的はこれであり、僕もこれである。

となると、問題となるのは移動する間の時間の過ごし方である。
何もしなければただその時間は苦痛である。だから人はその持て余した時間を埋めようとする。
友人と話す人もいれば、ケータイを取り出す人もいる。

とても便利な時代だ。一人で乗って話し相手がいない場合の時間の埋め方はたくさんある。
本や音楽といった従来のアイテム。それに加え、スマホの普及率によりその世界は格段と広がった。読書や音楽鑑賞、ゲームをしたり映画を見たり、仕事もできる。あの小さなアイテムの中に世界が広がっている。

最近ではタブレット端末を利用する人も多く見かける。小さな画面では物足りないだろう。大きくてもノートパソコン程度のそれは持ち運びにも良い。


ある日、僕は友人と一緒に飲みに行くことになった。飲みなのでこの日は電車移動だった。
友人ととある駅で待ち合わせて電車に乗り込む。二名掛けの椅子に座り談笑していた。

僕は電車に乗ると「この車両には何人ケータイを触っている人がいるのだろう」と無意識的に数えたりすることがある。数えたからってどうにもならないのだが、時々俯瞰して周りを見ているのだ。

だからこの日も友人と喋りながらも無意識的に周りを見渡していた。
すると通路を挟んで斜め向かいの席から真横の二名掛けの椅子まで通路側三人の人がタブレット端末を扱っていた。ちらりと見ると学生風の男性が話題のアプリゲームをしているように見えた。大きい画面でするゲームはさぞかしやりごたえがあるだろう。楽しそうだ。


二人目の男性の人はサラリーマン風で何やら画面と睨めっこして難しそうな顔をしていた。「ああ、この人は仕事をしているのだな」と思った。電車の隙間の時間を利用して仕事に勤しむ。お疲れ様である。


そして、三人目。三人目の人はスーツを着ていて、これまたサラリーマン風であった。年齢は50代だろう。この人も仕事をしているのだなと思ったが、少し様子がおかしかった。
膝の上にタブレット端末を置いてそれを囲うように両手の手の平を添えていた。そして顔は少し覗き込むように屈めていた。

不審な動きに見えた。何も盗み見しようと思ったわけではない。何かを隠そうとしている行為が余計に僕の注目を浴びることになったのだ。

何を見ているのだろう。僕は単純に興味が湧いた。彼は手の平で万全に隠したと思っていたのだろうが、まるでそんなことはなかった。僕は特に努力をすることもなく、彼が見ている映像を確認することができた。

彼が周囲に気遣いながらも見ていたもの。


それはエロ動画だ。

彼の気遣いは、全くの無駄であった。僕の視覚からはフル画面で確認できた。
裸の男と女が淫らに絡みあう。それもあろうことかモザイクの無い裏ビデオというやつだった。家まで我慢ができなかったのだろうか。それとも電車の中で見ることに興奮を覚えていたのだろうか。どちらにせよ、僕の想像には及ばない行為だった。

これが中高生が友人たちとふざけ合いながら見ていたのならネタなのだろうと思うのだが、中年のおじさんが公共の場でコソコソとエロ動画を見る行為はなんともお間抜けな姿である。

しかし、そんなお間抜けな人のおかげでこうしてネタにすることができている。
彼の行為も決して無駄ではなかった。彼との出会いに感謝したい。


次回は「白い靴について」


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