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真夏に採れたての白菜を食べる③

 人生で成功するには、明確な目標を持てとか、計画を立てろと成功指南本では言う。

 しかし、人はそれほど成功を常に考えて生きている訳ではない。 生活できるお金と幸せがあればそれで良しとする人もいる。

 前者はまさに太郎の父親、後者は太郎である。
太郎の父親は常日頃から太郎の不甲斐なさが気に入らなかった。一方の太郎は気持ちの優しい男だったので父親の成功のためなら他人を蹴落としてでものしあがる生き方が嫌だった。

 桜子の父親はどんな人なのだろう。太郎は興味を持った。

 桜子の実家で父親と話をするうちに、太郎が感じたのは、彼(桜子父)は覚悟という言葉が当てはまる人物だということだった。

田舎で大手スーパーやコンビニチェーンも少ない不便なこの土地に生まれてそこで生きる覚悟。稲作や野菜作りを毎年淡々と続けていく覚悟。

若い太郎にはそれが諦めに似た生き方に思えて、太郎の父親とは真逆の性格なのかなと感じた。

 「太郎くんにはさっそく明日から家の修理の仕事を手伝ってもらうよ。もちろん手間は払う。まずはこの茅葺き屋根の補修だ。」

 桜子の父親は髪の毛を後頭部で縛っていた。歳の頃は50歳なかばに見える。昔から髪の毛は長くしていたのかと聞いたところ、年に一度、長くて鬱陶しくなったら丸刈りにするのだそうだ。

「足場は明日、近所の足場屋さんに頼んであるから。確か太郎くんは高所作業者の講習は受けたと聞いたよ。」

 「授業の一貫で取得しました。フルハーネス(安全帯)の講習も受けました。」

「今は労働基準局が厳しいからね。それよりも怪我をしたら大変だ。」

太郎は頷いた。父親は話を続けた。

「茅葺き屋根の茅っていうのは、いわゆるススキなんだよ。昔は茅場っていうのがどこの地区にもあって、ススキを生やしてあったんだ。」

そういえば、カヤバって地名を聞いた事があるけど、カヤバってなんなのだろうって思った事があったな。と、太郎はふと思った。


 「太郎ちゃん、用事があるんだけど、そこまでひまわりをオートバイで乗せていって。」桜子がひまわりと台所から顔を見せた。

「オートバイでいいの?」

「オートバイの後ろに一度乗ってみたいんだって。」

オートバイの後ろの座席にひまわりを乗せるのは不安だったが、桜子を後ろに乗せるのは慣れてるし、安全運転に徹すれば大丈夫だろうと太郎は判断した。

 「片手でぼくの腰を持って、あとの片手でオートバイのバーを持って。ぼくがカーブで身体を傾けたら、同じ動きをして。決してぼくの身体の反対の動きをしない様にね。」

 「うん。」

オートバイはカーブを曲がる際に、後部搭乗者が恐怖感のあまり身体を起こそうと本能的に動いてしまうが、そうするとオートバイはカーブを曲がらないで直線に走ろうとしてガードレールに追突しそうになる。

 オートバイで二人で走行中、ひまわりの女子高の同級生とすれ違った。

 「ひまわり!」

同級生は自転車に乗りながら歩道からひまわりに手を振っていた。

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