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一期一会 思い出の人達④小さな幸せを求めたはずが大きな悲劇を生んだ人の話

〜人は時として避けてきた運命と出会う時がある〜

 これからご紹介するご夫婦は、都内で有名大学を卒業し、スーパーゼネコンに就職したご主人(30歳)と、奥さんが陥った悲劇のお話です。

 ご主人は、仕事も充実し、これからの目標として、ご自分の家を持ちたいと考えました。都内に家を購入すると費用が高額になると考えて、地方で新幹線通勤をするのに便利な、駅の最寄りの場所に家を購入することにしました。

 調べていくうちに、条件に合う分譲住宅地を見つけました。地方都市のデベロッパーが扱う分譲住宅地で、新幹線が停まる駅も近い、お隣も同年代のご夫婦で、話が合いそうだ。と、人気の分譲地ということで、早速購入しました。

 ご夫婦は、家を購入して約3年経ちましたが、子供には恵まれませんでした。お隣のご夫婦には、息子ができて今年で3歳になりました。
 ご主人は、趣味としてメダカを飼っていました。最初は水槽に買っていましたが、メダカの数が増え、火鉢を水槽がわりに外で飼う事にしました。そうするとお隣の息子がメダカを観に来る様になり、子供のいないご夫婦もそれが一つの楽しみになりました。
 近くにあるホームセンターに買い物に寄った際に、大きさ畳一畳ない位、深さ30センチ位だろうかのプラスチックで出来た池の、いうならばたらいの様なものが売っていまして、これを庭に埋めれば、小さいメダカの池ができるだろう。お隣の小さい息子も喜ぶに違いない、と、休日を使い池を造りました。分譲地の小さい庭なので狭くはなるが、子供のいない夫婦にとってお隣に住む息子の笑顔が可愛く、それが見たくてしかたがないという事でした。

 悲劇はそこから起こりました。ある日そこの小さな池で、お隣の息子が溺れて死んでいたのです。深さ30センチ位しかない小さな池なのに…

 事故後、数年経って用事があり、僕は久しぶりにそのご夫婦の家に寄ってみました。まだお隣も当時のまま住んでおり、変わったことといえば、家とお隣の家の間に高い塀ができていました。
 ご主人は亡くなっていました。奥さんの話によると、進行性のガンで、発見した時にはすでに末期のステージ4だったそうです。ぼくは仏壇に手を合わせ、遺影を伺った後、その場を立ち去りました。その後は1度もその場を訪れてません。

 

 


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