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Ars Electronica(アルス エレクトロニカ)ってなぁに?

Ars Electronica とは、オーストリア(オーストラリアじゃないですよ)のリンツというところで毎年開催される、芸術・先端技術・文化の祭典で、メディアアートに関する世界的なイベントです。

元々は、「インターナショナル・ブルックナー・フェスティバル」の一環として1979年に始まり、1986年には独立したイベントとして開催されるようになりました。

フェスティバル期間中には、美術館での展示という形式だけでなく、ライブ演奏やイベントの開催、またシンポジウムにおける研究発表や討論など、さまざまな形式で作品発表や情報交換が行われます。

会場は、アルスエレクトロニカセンターをはじめ、ブルックナーハウス、OKセンター、レントス現代美術館、リンツ美術工芸大学など、複数地点の同時開催という形式が取られています。

Ars Electronica は、リンツ市内のドナウ川を中心に、街全体を会場としたアートフェスティバルであり、地域密着型のイベントとも言えます。
クラングボルケというドナウ川での大コンサートと連動することで、リンツ市民を中心に多くの参加者を集めています。

歴史的背景

どうしてオーストリアのリンツで Ars Electronica のようなイベントが行われるのか。
それは、リンツという街の発展に注目すると、知ることができるようです。

リンツは近隣にドナウ川があるという利便性から、商工業で栄えた街でした。しかし、第二次世界大戦中にナチス・ドイツによってリンツは征服されてしまいます。

この時、ヒトラーは、リンツを自らの理想の芸術都市「ヒトラポリス」にすることを計画していたそうです。(結論を言えば、「ヒトラポリス」計画は達成されませんでしたが。)

第二次世界大戦後、リンツはミュンヘンとウィーンの結節点として重工業を中心に再び活気を取り戻していきます。しかし、1970年代のオイルショック等で重工業は下火になってしまいます。

高い失業率、大気汚染、福祉サービス等も縮小されリンツは方向転換を迫られました。その解決策として、リンツがとったのが文化政策としてのアートとテクノロジーだったそうです。

つまらない職業訓練を実施するのではなく、市民自らが主体的に参加をする機会を生み出し、新たな価値観とスキルを普及させ、産業構造の転換を図りました。

そういった思惑から、1979年に行政と市民が中心となり Ars Electronica は始まりました。初期の活動では、市民が同時刻に窓際にラジオを置き、ブルックナーを街中に響かせるといった取り組みも行われていたそうです。

"文化政策としてのアートとテクノロジー"戦略は35年をかけて功を奏し、いまや街の文化・教育水準の発展に深く寄与しています。2009年には欧州文化都市に、2014年には UNESCO の創造都市(Creative Cities Network)にも指定されました。

Ars Electronica には毎年テーマが掲げられます

1987年から、Ars Electronica では、フェスティバルの開催に合わせてテーマワードを発表し、そのテーマにあった展示作品の選択や、展示構成が行われます。
過去のテーマワードは以下のようになります。

1987年・・・フリー・サウンド
1988年・・・シーンの芸術
1989年・・・ネットワークシステムにおいて
1990年・・・デジタルの夢-仮想世界
1991年・・・コントロール不能
1992年・・・内とナノ-内面からの世界
1993年・・・遺伝子の芸術-人工生命
1994年・・・知能的環境
1995年・・・ワイヤードの世界へようこそ
1996年・・・ミームシス-進化の未来
1997年・・・肉体要因-情報機械・人間
1998年・・・情報戦争-情報.権力.戦争
1999年・・・生命科学
2000年・・・ネクスト・セックス
2001年・・・乗っ取り-明日の芸術をするのは誰か
2002年・・・アンプラグド-地球規模の衝突の情景としての芸術
2003年・・・コード-私たちの時代の言語
2004年・・・タイムシフト-25年後の世界
2005年・・・ハイブリッド-パラドックスを生きる
2006年・・・シンプリシティ-複雑さの芸術
2007年・・・グッバイプライバシー-すばらしい新世界へようこそ
2008年・・・新しい文化経済-知的財産権の限界
2009年・・・人間性-人類世
2010年・・・修復
2014年・・・C…変化に必要なもの
2015年・・・ポスト・シティ-21世紀のための生活空間
2016年・・・ラディカルアトム-我々の時代の錬金術
2017年・・・人工知能-もう一人の私
2018年・・・エラー-不完全の手法
2019年・・・アウト・オブ・ザ・ボックス-デジタル革命のミッドライフ・クライシス

示唆に富んだ作品には賞が与えられます

Ars Electronica には、Prix​​ Ars Electronica というコンテストがあります。これは「デジタルメディアの使用における創造性と革新性を称える」という、複数のカテゴリーで毎年授与される賞です。この Prix​​ Ars Electronica は、メディアアート界のオスカー賞ともいわれ、とても権威があるものだそうです。

続いて、賞のカテゴリーについて説明します。
Prix​​ Ars Electronica には、「ゴールデン・ニカ賞」が1作品に、「特別賞」が2作品に「名誉賞」が12作品に送られ、下記の部門ごとに受賞者が選出されます

・コンピュータアニメーション/映画/VFX
(3DCGや2DCGなどを利用したアニメーション・映画・CF・ミュージックビデオ、およびVFXを対象とする部門)

・デジタルミュージック

・ハイブリットアート
(メディアアートなどに彫刻、建築、インスタレーション、パフォーマンスアート、社会運動、研究活動、評論、ポップカルチャーその他を複合させた作品を対象とする部門)

・インタラクティブアート

・デジタルコミュニティー
(革新的なネットコミュニティを対象とする部門)

・U-19
(19歳以下のアーティストのための部門)

上記の6部門のほか、メディアアートリサーチ賞(メディアアートの研究や評論に関する賞)が存在します。また、これらの部門は頻繁に見直しが行われており、もっとも新しい部門情報について Ars Electronica 公式サイトでの確認をおすすめします。

最後に

徐々に名の知れてきた Ars Electronica ですが、まだまだ知る人ぞ知るという立ち位置からは抜け出せていないように思います。(というか僕もあまり知らない...)私ごとではありますが、2020年9月頃に、この Ars Electronica に興味がある人たちでイベントを開催しようと思っています。もし興味がある方がおられましたら、僕の Twitter などフォローしていただき、動向を追っていただければと思います(僕としても趣味が合う方との繋がりが増えればいいなと思っています)。

長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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今回参考にさせていただいた文献等↓
https://en.wikipedia.org/wiki/Ars_Electronica
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AD%E3%83%8B%E3%82%AB
https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej/63/2/63_2_173/_pdf
https://100banch.com/magazine/13031/


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