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経営チームのデザイン入門

「CTO以外のCxOってなにやってるの?」

この前聞かれたので、この問いにできるだけ簡単に答える。

組織図の話はこちらを参照のこと

株式会社

会社の内と外

そもそも会社には内側から見た景色外側から見た景色がある。言い方を変えよう。お金を得る方法は内側から生み出す方法(売上)と外側から獲得する方法(調達)がある。

外側を構成するのが株主、内側を構成するのが社員、この境界が取締役会である。資金の調達や株主構成に係る計画を資本政策、事業を実行するために具体的な費用や売上を計上する計画を事業計画という。それぞれ、取締役会を境界として外側と内側の計画になっている。

役員と経営チーム

取締役会は外側から見ると株主の代表、内側から見ると社内の意思決定を担当する。取締役会を構成する役員も大きく2つに分けられる、社内を見る(事業計画を実行する)執行役と社外から見る社外取締役である。そして、執行役員から構成されるチームを経営チームと言う。

※ このあたりの説明はわかりやすさのために厳密性を端折っている。日本は会社の体制を実態に合わせて選べるようになっており、執行役員の意味は会社によって違うかもしれない(一例として法的な意味での役員と役職としての役員は意味が異なる)。

経営チーム

基本構成

最初に一番原始的なチームをつくってみる。2つの事業本部と1つの管理本部がある場合を考えてみよう。

社内と社外があることを意識しつつ、次の5人から構成すればよい。

  • CEO:代表

  • 本部長(事業責任者)× 2

  • 管理部門の長

  • 調達役

最後の1人はCFOと呼ばれることが多いだろう(スタートアップで社外からの調達と社内のコスト管理を同時に行わないのはありえない)。

兼任

会社の規模が大きくないなら、CFOが管理本部の長を兼任してしまってもよいかもしれない。

兼任するメリットとデメリットは明白で

  • メリット:一人あたりの権限が大きくなる

  • デメリット:一人あたりの負荷が大きくなる

他の役職も同じだがこのあたりは会社やチームの状況にかなり依存するのでこれという正解はない。

機能

事業計画の中で影響が大きくかつ達成が難しいKPIがいくつかある。マーケティングはこれの典型例に該当する。普通、事業計画はそれぞれの本部の計画をまとめたものになると思うが

  • 事業責任者がマーケティングのプロフェッショナルであるとは限らない

  • マーケティングは一貫性をもって同時に行うほうが効果が高い(それぞれの事業部でバラバラにマーケティングを行うことはないだろう)

経営チームはチームとしてフルスタックでなければならない。事業計画を達成できない経営チームはチームとしては不足である。

このために、経営メンバーを補間することがある。これの領域がマーケティングでそれに対してメンバーを追加するとき、そのメンバーはCMOと呼ばれる。

CTOもこれらの同様のアーキタイプである。事業計画上で多くの事業責任者が苦手なものは

  • 開発計画の実行(売上に係る計画)

  • エンジニアの採用計画(人員に係る計画)

  • インフラの管理と最適化(費用に係る計画)

しかもほぼ確実に計画上のボトルネックになる。

逆に運良くCxOが事業責任者を兼任できるなら、兼任してしまっても良い。その場合は負荷が大きくなるが、スタートアップの創業期はこういう状況は避けられないかもしれない。

CxO

スタートアップの創業期は事業が一つしかないから本部長は2人もいらないだろうし、CEOは事業にフルコミットしているはずだ。するとこうなる。

マーケティングのメンバーはいないだろうからCMOはマーケター兼任、エンジニアも少ないだろうからCTOはエンジニア兼任になる。

強化

事業計画で直接説明できない課題についても、経営チームの実行効率を上げるためにメンバーを追加することがある。経営チームの使命は企業価値を最大化することだから、経営チームの意思決定能力と実行能力は常に最高でなければならない

いくつかのアーキタイプを挙げる。

  • COO

    • 一般論としては「CEOの苦手なことをやる」あるいは「他の経営メンバー全員が苦手なことをやる」(もしCEOが苦手なことに多くの時間を費やしているならそれは経営資源の浪費である)

    • 事業全体を見る場合と会社全体を見る場合がある

  • CHRO

    • 事業計画上は人員計画および採用計画に責任をもつ

    • 事業計画に含まれない組織文化の構築、マネジメント層の構築を担当することもあるだろう

  • VPoP / VPoE

    • CTOの役割をさらに分割する場合に相当

    • プロダクトオーナーをVPoP、チームマネジメントをVPoE、技術戦略をCTOという形で分担する

    • 情報やセキュリティをさらに分担する場合にはCIOやCISOが入る

  • CXO

    • 理論的には適当な役員にCXOの呼び名をつけて良い

    • 事業や財務に直接的な影響を及ぼさない人材をCXOにできる理由の一つは、その人が参画することで参入障壁を築き競争優位を取ることができる場合だ。この場合、そのCXOの管理能力は多少弱くても良いかもしれない(問題は起きるかもしれないが、そのCXOがトッププレイヤーであること自体が参入障壁になることがある)

アーキタイプの分類

まとめるとこうなる

役員は大きく分けて次のいずれかになる

  • CEO、COO(特定の役割をもたない広域担当、全責任者)

  • 事業責任者(横串組織の長)

  • 機能責任者(縦串組織の長)

  • CFO(資本、財務の担当、会計の長)

経営チームを決めることは経営チーム以外を決めることと同義である。

  • 機能責任者(CMO、CTO)の役員を多くして、本部を経営チームの下につける(事業責任者を役員にしない)

  • 事業責任者(本部長)を役員にして、マーケティング室や技術室を経営チームの下につける(機能責任を負う役員を置かない)

実際には両者の組み合わせになるだろう。経営チームも一つの組織だから何かを優先すると別の何かが犠牲になる。何を優先するかを決めることが大事で、それがデザインだ。

おわりに

冒頭の質問に戻る。

「CTO以外のCxOってなにやってるの?」

むしろ逆でCTOは経営チームの中で特殊なポジションである。これはたぶんこういう質問に似ている。

「(サッカーで)FW以外の選手ってなにやってるの?」

答えは「サッカーをしている」。経営はチームで行うものだから、先の問いの答えとして適当なのは「経営をしている」だろうか。

参考

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