エアコンと圧力鍋で理解するボイル・シャルルの法則
今日はたぶん熱力学、化学ではなく物理の側から
熱を制するものはQoLを制するのだ
ボイル・シャルルの法則
圧力と体積と温度
wikipediaによると
$${P}$$を圧力、$${V}$$を体積、$${T}$$を温度とすると次が成り立つ。
$$
\displaystyle \frac{PV}{T} = k
$$
ただし、$${k}$$は定数。これら3つはどれかが変化すると別のどれかも変化する、そしてそれらをまとめたものは一定であるということを意味する。体積については次にようにイメージしよう。
体積$${V}$$が一定である → ステンレスの鍋をイメージしよう
体積$${V}$$が一定でない → ゴムの風船をイメージしよう
温度$${T}$$を一定に保ちつつ、体積$${V}$$を1/2にしてみると、圧力$${P}$$は2倍になる(風船を割れないように押し込んでみるイメージ)。要するに、押し込めたり引っ張ったりすると反発する。これがボイルの法則。
圧力$${P}$$を一定に保ちつつ、温度$${T}$$を2倍にしたら、体積$${V}$$も2倍になる(ただしここでの温度の単位は絶対温度だから、この例えは直感的ではないかもしれない)。要するに、ものは温めると膨張する。これがシャルルの法則。
最後に、体積$${V}$$が一定の状態で温度$${T}$$を2倍にしたら、圧力$${P}$$も2倍になる(鍋に火をかけるイメージ)。
エアコン
ボイル・シャルルを知ればエアコンの仕組みもわかる
要するに
ガスを圧縮する、これで温度が上がる
温度は高いもの(ガス)から低いもの(外気)に移る、これで温度が下がる(ここで外気と同じ温度になる)
ガスを減圧する、これで温度が下がる(ここで外気より低い温度になる)
これでエアコンは完全に理解できた。なぜ温度は高い方から低い方に移るのかという問いを無視すればだが。
圧力鍋
続いて別の例
体積が固定されている場合、温度が上がるとそれに比例して圧力が上がる。空気の逃げ場がないからだが、同時に圧力が上がると沸点が上がる。これにより、気化せずにより高温の調理が可能になりお肉や魚の骨がやわらかくなる。
これが圧力鍋である。沸点が上がる理由と高温ほど食材がやわらかくなる理由を説明しなかったが。
熱の物理学
高校物理へ進む
体積
おそらく説明不要。単位は立方メートル(メートルの3乗)。
分子
空気とは小さな粒子、すなわち分子がたくさんある状態である。水分子のサイズは0.38ナノメートル(ナノは10のマイナス9乗)らしい。絶対肉眼で見えない。これくらい小さいと量子力学に片足突っ込んだ状態になる。
めちゃめちゃ多いので12個で1ダースみたいに数える。分子に対して使うのは1モル、これに含まれる数は
$$
6.02214076 \times 10^{23}
$$
気体は分子同士の結合がない、自由に動ける
固体は分子同士が結合していて自由に動けない
液体はその中間くらい、固定と違って分子は自由に動けるが、分子がつくる物質(液体)の外側に出るほど強くはない。
温度
温度とは分子の運動エネルギーの平均である。1個の分子の質量を$${m}$$、速度を$${v}$$とするとそのエネルギーは
$$
e = \displaystyle \frac{1}{2} m v^2
$$
温度$${T}$$に対して
$$
e = \displaystyle \frac{3}{2} k_B T
$$
が成立する。$${k_B}$$はボルツマン定数。実際は分子ごとに速度が異なるが、ここでは気にしない。単位はK(ケルビン)、日常で使うセルシウス温度(℃)にするには273を足せば良い。
圧力
圧力は単位面積あたりに分子が衝突して与える力である。単位はパスカル(平方メートルあたりのニュートン)
分子が速くて、密度(面積あたりの数)が高ければ強い
熱湯が食材を柔らかくしたり汚れを落としたりするのは、分子がボコボコにぶつかっているからだ。
圧力と体積と温度
箱の中で分子が横にだけ飛んでいる単純な状況を考える。
箱を横に2倍に伸ばす
これは体積が2倍になることに相当するが
温度は分子の速度なので変わらない
分子が壁に当たる回数は時間あたりで1/2になる、だから圧力は1/2になる
箱をもとに戻して、分子の速度を2倍にする
これは温度が2倍になることに相当するが
体積は当然変わっていない
分子が壁に当たる回数は時間あたりで2倍になる、だから圧力は2倍になる
物質
沸騰の概念を理解しよう。まず、水は真空状態だと沸騰する
なぜかというと
全員どこかにいく。
逆側からの圧力を考えよう。ぶつかりあいが釣りあう限り状態は維持できる、そうでないなら維持できない。水が100℃を超えて沸騰しないなら、相手がそれより強いからである。開放された容器の対戦相手は大気だが、完全に密閉された容器の中ではそうならない。
熱力学第一法則
熱力学の第一法則はエネルギーは保存されるという法則である。
「エアコンで地球冷やせば温暖化防げるやん!」「できません」
$$
Q = \Delta U + W
$$
熱はエネルギーである。熱を加えれば内部のエネルギー(温度)が上昇し、外部に仕事をする(圧力が上がり、体積が増える)。
無条件になにかを増やすことはできない。第一の楽園は存在しないのだ。
熱力学第二法則
熱力学の第二法則はエントロピーは増大するという法則である。
「こぼしたコップの水はもとに戻らない」
エントロピーは日本語でいうと「乱雑さ」。情報の分野でも同じ単語が出てくるがあちらでは「曖昧さ」と呼ばれると思う。あなたの部屋が整然としている状態、これをエントロピーが低いという。100年放置してみよう、おそらく何もしなくても荒れ果てている、これをエントロピーが高いという。これがエントロピーであり、熱力学第二法則である。
問:速度$${V}$$で等速直線運動するボールAが静止したボールBにぶつかると、ボールAとボールBはどうなるか。
答:エネルギー保存則と運動量保存則で2つの方程式をつくることができる。変数は2つ(衝突後のAとBの速度)だからこれは確実に解ける。ここで考えたいのは、衝突後にはボールAの運動エネルギーは下がり、ボールBの運動エネルギーは上がるということだ。言い方を変えると、エネルギーが最も高い方からそれ以外の低い方にエネルギーが渡る。自由なボールが多数あった場合はどうなるか。ぶつかるうちにそのうちに均一化していくだろう。これが温度が高い方から低い方に移るメカニズムである。
無条件になにかをもとに戻すことはできない。第二の楽園も存在しないのだ。
おわりに
これでエアコンと圧力鍋の仕組みは説明できた気がする
次はワイヤレス充電の仕組みあたりを解説するかもしれない
宇宙とエネルギー
エネルギー保存の法則には一つだけ例外がある。それは宇宙の起源
宇宙全体ではエネルギーは保存していると考えるのが普通だが、最初のエネルギーだけは説明できない
宇宙とエントロピー
エントロピーが常に増加することは、エネルギーの変換は不可逆であるということを意味する。例えば、電気のエネルギーはそのまま熱のエネルギーにできる。逆はできない、必ず無駄が出る。
電気でものを温めるのは単純な機構があれば良い
電気でものを冷やすには非常に複雑な機構が必要になる
そして、冷蔵庫そのものは冷たくないしむしろ熱い
熱力学第一法則によってエネルギーを変換するには仕事が必要になるが、熱力学第二法則によってこれは不可逆である。最後にはできる仕事がなくなるだろう。宇宙の最後にそのエントロピーが最大化するとき、これを熱的死という
予測される宇宙の終焉の一つである
エントロピーと時間
エントロピーは時間に従い増大するが、逆の考え方のほうも重要だ。つまり、人間が時間を観測する唯一の手段がエントロピーの増大である。ものが変わっていれば時間が進んでいると感じ、そうでないなら逆のことを思う。それ以外に人間が時間を観測する手段はない。熱力学第二法則の説明を言い換えるなら、時間はもとに戻らない。
熱とは宇宙の始まり、そして終わりに至る過程の科学である。電子レンジは時間を進める道具で、冷凍庫は時間を止める道具なのだ。
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