「おかえり問題」の話
先日「石は生きとる話」で述べたように、私はド田舎育ちだ。
悩みなんてなさそうと思われそうだが、ド田舎育ちにはド田舎育ちなりの悩みがある。
それは「おかえり問題」だ。
小学生の頃のお話
小学校から自宅まで、私は1kmもない道を通学していた。
小学校低学年の歩きであることと途中で犬をヨシヨシしたり牛に藁を与えたりするミッションがあったため、通常10分程の道を約30分程かけて帰るのがルーティンだった。
その約30分の間に何人もの地域住民の方達から「おかえり〜!」と声をかけられる。
これが俗に言う「おかえり問題」である。(誰も言ってない)
私は小学生ながらにしていろんな思考を巡らせた。
「行ってらっしゃい」なら「行ってきまーす」と言えるが、「おかえり」に対しての返事が難しいのだ。
そもそも私は「おかえり〜」と発してくる家に帰るわけではない。ただ通り過ぎるだけ。
この返事は何が正解なのだろう。
「ただいまー!」と言ってもいい。しかし、誰なんだこの人。
小学校低学年の私は知らない人にただいまと言うのがとても恥ずかしかった。
その結果、地域住民からの「おかえりー!」に対し、「こんにちは!」で返すようになった。しかし、腑に落ちない。
成長するにつれ、
「こんにちはー」と言いながら手を振ってみたり、「あ〜どうも〜」とおばさん風に挨拶し返したり「ただいまです!!」と勢いをつけて返す技を身につけた。
小学校5年生になると会釈という武器を手に入れた。
そしてやっとの思いで恥じらいもなくなり、「ただいま〜」と返せるようにもなってきた。
ふ〜、この数年間で成長した。
そんな時、またもや問題が起きた。
なんと会話が発生したのだ。
「アンナちゃん、おかえり〜!」
「あ、ただいま〜」
「今日の学校どうだった?」
これだ!!
知らない人に学校の状況を尋ねられた!
この瞬間に私の脳内は高速回転し始めた。
学校の悪いことを言えば、
「あそこの家のお孫さん、学校のこと悪く言うなんて不真面目ね〜どんな教育しているんでしょう!まったく!」なんて噂されてしまう・・・!!まずい、一家の危機的状況。
優等生を装わなければ!!
「友達もたくさんいて、テストも良い成績なので毎日楽しいです。」
私の中の精一杯の優等生がでた!
ちなみに、ド田舎なので私の同級生は10人程しかいない。
そして授業中は余計なことを考えて上の空なので、もちろん成績は良くない。
なんなら、学校めんどくさいとしか思っていない。家にいた方が楽しい。
こんな私から出た優等生!(どこにいた!!!)
私の虚言を信じきったご近所さんは
「あらー、さすが〇〇さんのお孫さん!気をつけて帰ってね!」
「は〜い!」
ふ〜やれやれ。田舎なんてあっという間に噂が広がる。
今日も爺ちゃん婆ちゃんの名誉を守ったぞ。
えらい私!!
と悦に入っていた。
ふと思った。私には2つ下のかわいい弟がいる。
弟はこの「おかえり問題」をどう乗り越えているのだろう、と。
弟はとても顔がかわいいのだ。地域住民が放って置くわけがない。
弟の危機!おねえちゃん助けなければ!!
そしてある日小学校が早く終わったので、弟のあとをつけてみた。(すぐ帰れ)
やはり私と同じ血が流れているだけあって、なかなか家に帰らない。
ふらふら歩いてみたり、犬をヨシヨシしたり、キョロキョロしながら四葉のクローバーを探したり。
「いつまで四つ葉探してんの!はやく帰れよ!」と叫びたくなるくらい前に進まない。(人のこと言えない)
痺れを切らして一人で帰ってしまおうと思ったその時、いつものご近所さんが弟に声をかけた。
「〇〇くんおかえりー!」
はっ・・・!!きた!!
弟はなんて返すのだろう!
「〇〇くんおかえりー!」
「うぃっす!」
「学校どうだった?」
「うぃ~っす!」
「気をつけてねー!」
「うっす!うっす!」
じいちゃん、ばあちゃん。
弟が地域住民にテキトーな返事をしていることをお許しください。
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