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63年前のアンカット本を買ってしまった話

2022年5月1日、筆者は一冊の洋書を購入した。

1959年6月フランス発行。63年前の古書は購入からキッチリ一ヵ月後の6月1日、はるばる海を越え筆者自宅ポストに雑に届けられた。たとえ一冊の値段が万を超えていようとも洋書の購入なんぞ常にこんなモンであろう、筆者もいつも通り雑に硬い紙封筒を開封し、ゆったり翻訳作業を始めようとしていた。
まずは全ページをデジタル化する所から始めなければ。
触れたらメリメリ言うボロい日焼けした本、触れる頻度は出来る限り少ない方が良い、スキャナーにかけるのではなくページの写真を撮って画像データにしないと本が崩壊すると思いながら徐にページをめくり、異変に気付いた筆者はマジの悲鳴を上げてしまった。

こいつアンカット本じゃねえか!!!!!!!!!!

このnote記事は、軽い気持ちでフランスから古書を取り寄せた結果アンカット本が到着し、冷や汗びちょびちょ頭めちゃくちゃ大混乱に陥ったオタクが書いた、貴重な写真付き開封式の記録である。
そして、信用ならない、胡乱なオタク怪文書でもある。

※画像が100枚以上あります。書籍本文は、読めないようにモザイク加工済み。

なお知人に作業写真を見せた所、「わたしは手袋フェチ」という突然の本気(マジ)性癖開示をされたため、記事の内容に興味はないが、黙々作業をしている、骨っぽい白手袋の写真がいっぱい見たいなぁ。という人にも需要があるらしいです。

早口オタク語りテキストが多い為、開封式の様子のみに興味がある方は、適度に飛ばすか、目次で飛ばしてください。

アンカット本とは、何か

そもそも「アンカット本」とは何ぞ?
という話だが、これが何か知ってる人間は本の虫か本オタク、筆者の様にベロベロ文字活字を舐めて生きている妖怪、知識人、マニアの部類。大体の人間はこんなモン存在すら知らない。

一応ウィキペディアの「アンカット本」ページリンクを貼っておこう、説明が分かりやすいからな。

説明しよう!
アンカット本とは!アンカット本である。
ええいめんどくさい、画像で説明する。

このような、1から8までの数字が両面に書かれた紙がある。

筆者は字がへたくそ

これを、

こうして、

こう折って、

ホッチキスで左閉じ

こう閉じた本だ。
その最終的な構造は、

これで、

こうなって、

小口を裁断しないまま製本している

こうなっている。
それが「アンカット本」と言う物だ。
訳が分からないだろう?筆者も良く分からない。

これは、工作中に訳が分らなくなり、綴じ方を失敗した写真。訳が分からない。

この、訳が分からない物の、

袋とじになっているページを、

書籍の購入者が切り離し、

切って、

やっと読める「本」になった

完全開封すると、ページがこうなる。
書籍購入者が、自分でページを切り、自分で製本する物らしい。
これは、そういった古い特殊製本、超激レア書籍にカテゴライズされている。

出会わない人間は一生出会わないし、本オタクでも不意打ちで出会う事が出来ればラッキーな方だろう。
よほど狙って探さない限り探し出せる物でも無い筈だ。何故なら情報を元に本を入手しても、既に他者がページ開封をしている可能性がある。

そのため間違っても、雑に購入した書籍が、手付かずの古いアンカット本であってよい筈がない。

では、おまえの手元にある、この本は何ぞや?
未開封のアンカット本だ。
おまえが買ったおまえの所有するおまえのアンカット本である。

気が狂いそう。

奇跡の本

時代を越え幾人もの人間の手を渡り歩き、その後マニア本を抱え込んでいるフランスの古本屋の本棚もしくは倉庫の奥で眠りに付き、63年間誰にも開封される事無く、真の主を待ち続けていたアンカット本。それが筆者の手元にある。
しかもページがくっついた未開封状態のままで。
こ、個人が無防備に入手してよい物では無い…!!

初見ではアンカット本と気付くが出来ず、乱丁もしくは本が本になり切れていない製本ミスと思い、ページ番号だけは間違って居てくれるなと祈って居た。しかし知人の指摘でひっくり返った。
アンカット本じゃん。これアンカット本じゃん?!
まさか今、雑にいじくりまわしてるのがアンカット本とか夢にも思わないじゃん。

完全にくっついている
うわあホンモノだあ

「アンカット本」とは、17世紀以前に流通していた、書籍購入者がペーパーナイフで全ページを切り離し、自分の手で製本し、その後自分の本棚に収める書籍形式。そういった、現在の我々からしたら完全に訳の分からない物だ。
書籍購入日にすぐ本を読ませてくれないのは不便すぎる上、自分の手先が不器用な工作ど下手くその場合、製本で仕上がる本はぐだぐだであろう。
いやぁ、現代の印刷技術って本当にありがたいね。

17世紀以降はキッチリ裁断し製本されている本が主流になったが、フランスのみは違ったらしい。
20世紀でも、アンカット本はフランスで出回っていたようだ。
が?

今回筆者が入手した書籍は、フランスにある大手出版社、ガリマール発行。

この出版社があったから、フランスで出まわっていたってハナシのオチでは?大手がワザと残していたら、そりゃあ出回っているカウントに入るよ。
設立メンバー全員が本フェチ作家だった、物好き本オタクのガリマール出版社が残した遺物がコイツらしい。

えらいこっちゃ

ガリマール社出版書籍の中でコレと同じ表紙デザインシリーズかつ、古書の場合、アンカット本の可能性がある。その為、購入前にその情報を所持していれば「おやおやおや?この本はもしかしたら、アンカット本なのかもしれないのかい?」と気付けたのだ。
んな事知ってるワケ無いだろ馬鹿、ば~~~~か。

こちらは、表紙のデザインを揃えてあるシリーズブランド書籍、別著者、別タイトル。
1942年、ガリマール社出版、アルベール・カミュ(Albert Camus)執筆
「異邦人/L'Étranger」

「異邦人/L'Étranger」ガリマール社HP(フランス語)
1942年当時の、初版本写真が掲載されている。

おお、若干バランスは違うが同じだ。

現在書店で見る事の出来るアンカット本は、出版側が「アンカット本で出したい」とこだわったり、何かの復刻版として刷った、「わざわざそうした」新書アンカット本である。
アンカット本で出版を頼むなんて、とんだ物好きも居るモンだ。
アンカット本とは既に古代の品、本好きの憧れと浪漫に満ち溢れた、テンションブチ上がりな物なのだ。
同人誌を出すタイプの一部の物書きは、稀にアンカット本で同人誌を作ることを夢見ている。文字活字ベロベロ吸い舐め妖怪たる筆者も、ソレである。


書籍の内容及び、たどり着くまでのオタク経緯

さて、今回筆者がお目当てにしていたのは、収録されている「戯曲」である。

この作品との出会いは15世紀世界史書籍、東ローマ(ビザンツ)帝国関連の書籍内収録、簡易部分邦訳。
「東ローマ帝国の滅亡」が記されたページだ。

帝国の滅亡とかいう分かりやすい悲劇は、感動するエンターテイメントとして好まれた為、こういった物語系作品がいくつも残っているらしい。
実際東ローマ(ビザンツ)帝国や、帝国最後の皇帝コンスタンティノス11世パレオロゴス・ドラガセスを称え、彼の死を飾り付ける書籍、音楽等がかなりある。
おお、うつくしい…。

ビザンツ帝国、東ローマ帝国、コンスタンティノス11世皇帝とは?

「既に滅亡寸前であった東ローマ帝国、最後の皇帝。自身らの神とは異なる神、異国の神の教徒、メフメト二世率いるオスマン帝国に攻防虚しくコンスタンティノープルを滅ぼされ、キリストの地を、ヨーロッパを削り取られ、1つのローマ史を終わらせてしまった皇帝」

「最後の審判まで続く帝国とうたわれていた東ローマ帝国の滅亡」

「“皇帝が帝国を失ったまま生きる事を、神は許しはしない。我は、我が帝国の終わりと共に死ぬのだ。“
そうして自ら親衛隊と共に市街地白兵戦へ飛び込み、散って行った皇帝」

「己の遺体と言う皇帝の証さえ敵国に渡さぬ、決して屈するものかと言うかの如く、彼の遺体は有耶無耶と、市街地の東ローマ兵の遺体の中へと埋もれ消えてしまった」

筆者執筆、オタク文章

これがローマ帝国もしくは東ローマ(ビザンツ)帝国と、コンスタンティノス11世皇帝である。
※教科書には、東ローマ帝国ではなくビザンツ帝国の名で載っていると聞きました。1453年、コンスタンティノープルの陥落ですね。

筆者のオタクネッチョリテキストが混ざって居るが、許して欲しい。
(ゲーム作品等でキャラクターとして追加付与された属性は、記載しておりません)

察しの良い方は既に理解していると思われるが、FでGでOなソシャゲで2022年3月にNPCとしての初顔出しがあり、5月18日にガチャでプレイアブル実装された顔のいい男関連だ。

筆者は元から所持していた世界史知識が原因で、彼と彼付近の情報に対して早々3月から脳が爆発していた終わっているオタクである。
だって、さ……、ウルバン砲、ビザンツ帝国、ローマ最後の帝国、テオドシウスの城壁、オスマン帝国、メフメト二世、イェニチェリ、オスマン艦隊の山越え、征服王ファーティフ、オスマン兵の串刺し、串刺し公、ワラキア公国、ヴラド・ツェペシュ、ヴラド三世、ヴラド・ドラキュラ……、15世紀のここら辺の世界史血みどろぐちゃぐちゃ情報が一気に高解像度になったから……。
急にモノが押し寄せて来るとオタクはおかしくなってしまう、実際おかしくなってしまった。

元々筆者はオスマン帝国のスルタン、メフメト二世にそれなりのクソデカ感情があり、ワラキア公国君主ヴラド三世、ヴラド・ツェペシュ、ヴラド・ドラキュラ、ヴラディスラウス・ドラクリヤに至っては過去まあまあな量の歴史テキストと、現在無知と共に膨大に広まっている彼の知名度に対してのクソデカ感情テキストを執筆した前科がある身、同時期に生きた人物かつ関連者であるならば最初から約束された暴走と言えるだろう。

興味ない人はここ理解しなくていいです。
つまり、世界史の推しの男って話だよ。
そう言う推しの「世界史書籍」に、いい感じの「戯曲」の部分訳が収録されていた。

戯曲、演劇、群像劇、主役ポジ重要人物のセリフやシーンのみでは話は進行せず、主にそこに住まう人間達や取り巻く時代と世界の激流が物語を産み、巻き込み、加速し、全ては帝国の滅亡へと収束していく。
ざっと読んだ所、超イイ……。じぶんと著者の世界史人物解釈が完全にマッチしており、かの皇帝は気高く、静かな哀愁を纏ったまま美しく在った。
彼は、己の死は罪業なのだと叫びながらも、主よあなたの街だけは見捨ててはくれるなと嘆き、持てる限りの全てを尽くし戦い続け、そして双頭の鷲の翼を破り捨て、高潔に散っていく。自身の帝国と、そこに住まう無力な民と共に。
嗚呼、聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな!
高らかなトリスアギオンを捧ぐ街は崩れゆく。
主よ、聖ソフィアよ、我等を救いたまえ。我等が皇帝よ、我等を救いたまえ。祈り、謳い叫ぶ民の声は次第に悲鳴と掻き消され、最後に残されたのは風が運ぶ海峡の遠い静寂と、塔の上に掲げられられた三日月のみ。

ああ~~~!いのち~~~~~!!!!(にんげんの強く儚い生き様の輝きを餌にしている妖怪)
商業世界史二次創作ブック、たまんねえ~~~、この作品全文読みたい、探そう、探すぜ。
※上記テキストは、4割筆者の脳内補正です。

しかし肝心の書籍タイトルが分からない。
記載されている作品タイトルは書籍監修翻訳者の手によって日本語訳されており、グーグル検索ではヒットしなかった。
巻末引用書籍一覧を確認したが正式タイトルは記載されておらず、確定情報として手元にあるのはカタカナの執筆者名のみ。
ええと、ポール・モラン氏だな。
作者の日本語ウィキペディアを開く。

ポール・モラン(Paul Morand)
1888~1976年のフランス人作家、外交官でもあった人物である。
ああっ?なんか執筆作品リストに知ってる本のタイトルがあるなぁー!
軒並み古い本ではあるが、シャネル関連のタイトルは読もうと思えば普通に読めるだろう。

しかし目当ての本と思しきタイトルは無い。
世界史の戯曲でタイトルに国名が入っている以上、ガバい訳であっても一発で分かるはずなのだが?
ビザンツ帝国、ビザンティン帝国、東ローマ帝国、帝国、終わり、滅亡、終焉。これ位のワードな筈だ、超簡単。

ははぁん、さてはいつも通り日本語wikiが馬鹿なアレ。
日本語wikiは信用するな、オタクとの約束だよ。スッカスカのポール・モラン氏日本語ページから、英語ページに移行する。
案の定日本語wikiには無かった来歴、書籍タイトルがドバッと出てきた。これらの作品、フランス語から英訳まではされたが、邦訳には至らなかったのだろう。日本語でこのタイトルを読む事は出来ない。

でもこのページにも、作品一覧にそれっぽいの、無くない?
無かった。

え、この書籍本当に存在するんですか。

存在する筈だが、何故か存在しない本。筆者の幻覚かな……。
急に存在から探し、存在を証明する羽目になった事態に苦しんだが、ポール・モラン氏はフランス人な事を思い出した。
ああ、地元語ね。
フランス語ページに移行……、文字多っ!来歴多っ!作品超ある!!!

やっぱり日本語ウィキペディア君ってのはさぁ~ホントさぁ~~~~。
日本wiki、オスマン帝国関連ページにある雑な文献不充分項目相手に、ソース元英語書籍選択時点で間違ってんだよアウトを叩きつけながら、絶版古書やトルコ語やトルコ語からの邦訳論文を躍起になって漁った記憶は未だ新しい。
見ての通り、筆者はめちゃくちゃめんどくせーオタクである。
※この時は、トゥルスン・ベイ(Tursun Beğ)氏もしくはトゥルスン・ベグ氏書籍完邦訳「征服の父 メフメト二世記」発売前でした。現在は日本語に翻訳された氏の書籍を一般人でも気軽に手に取る事ができます。

しかし流石ジモトフランスページ、細かい。 この作品一覧には、些細すぎて既に読めなくなっている物も含まれているのではないか。それ位大量のタイトルが並んでいる。 そうして、その中の一区画、歴史上人物作品項目にそれらしき文字を発見した。 「Le Lion écarlate précédé de La Fin de Byzance et d'Isabeau de Bavière, Gallimard, 1959」 これだ、「Fin de Byzance」ビザンツの終わり。発見、これだぁ~!!複数作品を一冊に纏めてあるタイプの書籍だな。 収録されているのは「Le Lion écarlate」「La Fin de Byzance」「Isabeau de Bavière」この三つ。 1959年、ガリマール(Gallimard)社発行。ガリマール社は、現在も存在する出版社である。

このフランス語書籍、英訳完訳はされて居なかった。無論、日本語完訳も存在しない。
部分訳がなにかの書籍に軽く載っているだけのマイナー本であった、マジかよ。

で、タイトル分かったはいいけれど、この本読めるの?

検索。
国内図書で一般公開されて……、無い。
そもそも蔵書して……、無い可能性がある。
無いのでは?借りられないのでは?

……ああ~!古くて海外のデジタルアーカイブで無料で読めちゃったりとかそういう~?そういうアレ~~?そういうのですか~~????
著者名で検索。
フーン結構ヒットするじゃん。何処かで読めないかな?無いか、無いわね。
ありませんでした。

でもシンプルにアマゾンにありました。
あっ!やったー!キンドルで読めるじゃん!

海外アマゾンのキンドルでな。

日本アマゾンキンドルには存在せず、どう漁ってもジャパン人の手元には電子版は届かないらしい。マジかよこの本こんなに安いのに?
電子版のお値段は4ポンド、5ユーロ、もしくは6ドル。
円安ジェットコースター中なためコレとは言い切れないが、大体日本円で700~850円ぐらい。
フゥン……?

しかし電子版が無い代わりに、日本アマゾンには物理本の海外お取り寄せ通販枠が二冊あった。
一冊ン万円だ。

洋書、古書にしてはべらぼうに安い方だが、だからと言って決して安い買い物と言う訳では無い。
それに別にこの書籍にネッチョリ執着しなくともビザンツ帝国東ローマ帝国の滅亡コンスタンティノープルの陥落コンスタンティノス11世の悲劇の終わりを描いた物語系作品は他にもあるのでは無いか絶対沢山あるって調べろよ別の書籍で我慢できないのもしかしたらそちらは図書館にあって一般人でも閲覧可能かもしれないだろ毎回欲しい本全部買ってたら100万円あっても足りないんだからな歴史系書籍は部屋が書庫になる前に出来る範囲で図書館を利用するって決めてるだろ頭を冷やしなおぬし別にこれでなくとも構わないのではないか?
数日考えさせてください……。

数日考えた結果、数日間書籍の事で頭がいっぱいで何も手に付かず日常生活に支障が出たので購入しました。
下心べったべた。

英語はともかくフランス語の書籍、戯曲とか言う特殊な枠、絶対ありそうな専門用語。翻訳は若干不安であったが、なるようになるだろうアラビア文字よりずっとマシ。

オマケで情報を添えておくが、この書籍をポチったのは5月1日。到着は6月1日。
ソシャゲで推し皇帝のNPC顔出しがあったのは3月、前触れ無しで突然立ち絵お披露目があったのは5月11日、ガチャでプレイアブル実装されたのは5月18日。
世界史史実、東ローマ帝国が滅んだ日付は、1453年5月29日。
彼の登場する新章の配信は、6月1日。
何もかもの日付がギュウギュウかつ、何もかもの心の準備が間に合って居ない。

本が届くのが先か、ソシャゲの配信が先か。筆者の冷や汗べちょべちょカレンダー。
デットヒートの結果は6月1日、同着。
書籍の方が日の高いうちに届いたため、書籍が数時間勝ちであったかもしれない。

のだが?いざ封を開けたらアンカット本であったため、マニアとしてオタクとして、完全にどうにかなってしまった。
その日の夜、ソシャゲ新章、更新配信。とても正気ではいられない。

その後はソシャゲのストーリープレイを優先し、完走後はクリア済みの知人にディスコードで辻斬り感想を仕掛けたり、ふせったーにクソ長いオタク感想文レポート怪文書をぶちこんでツイッター公開したり、さいきょう歴史ドリームマッチ"Fateでfgo"をダバダバ浴びた「面倒くさい型月おじさん」と呼ばれるカテゴリーのオタクは、プレイ後の余韻に浸っていた。

だが到着した63年前のアンカット本の方は開封する勇気が全く出ず、しばらくしまいこんでいた。

幸いアマゾンもといフランスの古本屋には在庫がラスト一冊あったため、今回購入した一冊を保存用、未購入なもう一冊を開封用とする手段も、やろうと思えば可能であった。
しかしこれは安い買い物ではない。同じ内容の本を?もう一冊追加で二冊も?こんな古書を?アンカット本を?保管に困る本を?既に持て余している本を?開封する勇気が無いと言うだけで、自分の手元にこんな奇跡の本を二冊置くのか?
そんな双子の片方を生贄にするみたいな話を暫く考えていたが、フランスに残っている最後の一冊が手付かずのアンカット本である保証は無い。現在手元にある方がたまたま未開封であっただけであり、もう片方は既に誰かの手によってページを開封されて居るかもしれない。
そうであれば、二冊購入は無意味なのではないか?

だが待て。そんなアホを考えるよりも、すべき事があるだろう。
手元に無い未購入の本の事よりも、現在我が手元に在り、63年間完全に手付かずであったこの本の事こそを真摯に考えるべきだ。

この本ははるばるフランスから海を越え、ジャパンの大地の、よりにもよって、なんか全然専門家でも何でもない、アンカット本な情報とか一切知らなかった、謎のオタク下心マシマシな個人の手元に、奇跡的に到着した。
購入者は受け入れる為の心の準備が一切出来ていないものの、購入者である以上この本の持ち主であり、主人である。

自分は二冊目を購入するよりも、この一つの出会い、運命こそを大切にするべきなのではないだろうか。

運命、フェイト、よい言葉だ。
きっとあの二冊目も、運命の主人の元へ行く時を静かに待って居るに違いない。フランスの古本屋の、本棚の奥の奥で。
私の本は、運命の本はこの一冊でいい。
運命の巡り合わせは一度でいい、むしろ一度であるべきだろう。
1959年に刷られてから2022年までの63年間、私の手元に来るまでずっと眠っていたこの一冊こそを、唯一無二であると大切にすべきだ。

そう言う気持ち悪い事を3日ぐらい死ぬほど考え、糞オタクポエムを積んで自分を無理矢理納得させ、筆者は二冊目の購入をやめた。
なんかずっと考えていた、それぐらいアンカット本を開封する勇気が無かった。

それでも、「オイオイいいのか?今オレの手元には、63年前フランス発行、未開封のアンカット本があるんだぜ?」
そう言う謎マウントが取れる心の余裕ぐらいはあった。
これがマウントと思えるぐらいにヤバい品が届いた自覚があった。
ヤバい、無理。

無理だったので、本の開封式を行ったのは、何もかもがすっかり落ち着いた8月6日、深夜。
忙しかったのも理由の一つではあるが、アンカット本に手を付けるまで2か月も勇気を貯めていた。
コイツ馬鹿じゃねえの。

完全余談だが、開封式前7月31日付近。筆者はfgoにプレイアブル実装されたアーキタイプ:アース、アルクェイド・ブリュンスタッドが星6や星10レア度で無い事についてブリブリに拗ねていたが、ゲームシステムの都合上こればっかりは仕方がない。
だがたとえ7周年記念ファンサであってもアルテミット・ワンのワードや、本編ORTを出し始めたってことは、周囲に放置された書いてないヤツもガーッと回収するって事ですか?魔剣まで出して来たらさぁ~。
余談終わり。
アンカット本の開封式は、面倒くさい型月おじさんのめんどくせー拗ねや興奮が落ち着いてから執り行う事とした。

なお筆者が購入しなかった方、アマゾンにあったもう片方の同タイトル書籍は、何故か筆者購入後いきなり値上がりを初め、一旦控え目な値下げをし、再び値上げをし、爆値上げをし、最終的には2倍か3倍の値段になっていた。円安とは全く関係ないであろう奇妙な値段の吊り上げ方だった。
「変な本を買う、変な日本人が急に来たぞ」そう言う認識で値段を釣り上げたと筆者はみている。
フランスの本屋さん、急に儲かったなあと思ってるんじゃないの。洋書ってそういうモンだよ、買える時に買わないと後悔するんだ何時だってそうさ。


開封する為の装備

実はこの書籍、無防備に触れると、触れた者は死ぬ。

無害そうな顔をしている劇物

何を言っているのだ?真実だ。
詳細を説明すると、古書な為ホコリがとんでもなく、マスク無しで扱うと肺と呼吸に大ダメージを受け、終わる。
ハウスダスト系のアレルギーがある人は冗談抜きで死ぬんじゃないか。カビとかもあると思います。

保存状態はいい方だと思っているものの、背は日焼けし、触れればメリメリと音を立て、小口もボロボロ。手付かずのアンカット本と言いはしたが、紙の劣化で折り目が崩れ、筆者が切り離す前にページが離れていたり、触れただけでパリパリと離れてしまう個所もあった。
黄色い小口は日焼けなどではなく、紙そのものの劣化で全ページが変色している。
普通の本と並べて本棚に収めることなど出来る筈も無く、特別扱い完全隔離、特殊保管で対処していた。

写真は全てフォトショップ加工パワーで見やすくしたが、実際はもっと黄色い

このような古書から出るホコリはしばらく大量に空中を舞い、衣服に付着し、素手で触れれば肌に付く。
それが永遠と肺を攻撃するのだ。喘息持ちの筆者は初手無防備に封筒を開封し、かなり痛い目を見た。
だって梱包材やビニル袋に包まったりせず、直接封筒に、雑に入っていたのだもの。
洋書の購入とはこんなもんである。

無論、虫干しは出来る範囲で行った。
ビニール袋の中に本とネオパラエースを入れ、密閉して同居させたのち暫く放置もした。これで虫系は死んでいるだろう。
本を運んできた硬い紙封筒は、古本屋さんからの粋な計らいでフランスの美しい切手が貼ってあったが、申し訳ないと思いつつも早々その日のうちに処分、家から放り出した。
海外からの段ボールや紙モノは、虫の卵などが付着している事がある。そんなものを屋内に置いてはおけない。
皆も海外通販の段ボールとかは部屋に放置せず、さっさと捨てるように。海外通販に限らずとも、野菜の段ボールとか超危ないよ。
今から思えば、綺麗な切手だけ水で剥がせばよかったかもしれないが、後悔するのが遅すぎる。

虫はクリアしているとして、問題は永遠に本から零れ落ちるホコリ、ハウスダストである。
こちらが古書を傷つける事も、古書がこちらを傷つける事も無い丁度良い装備。それが以下に記載した、筆者の考えた最強の対古書フル装備だ。

白手袋/アームカバー/ヘアバンド/手ぬぐい/マスク

暑さで頭が蒸す事が最大の欠点

その他は、
・触る前にシャワーを浴びる
・触った後は即シャワーを浴びる
・装備含め、触った後の服はすべて洗濯する
・窓を開け、部屋の換気を行う
・作業中はこまめに机を掃除する
・全部終わったら部屋を掃除する

これぐらい。

気軽に使い捨て出来るハンディーワイパーとか、そう言うの

顔装備は当たり前に使い捨てマスク着用。現在はマスクが当たり前なため、この項目は問題なし。
手の装備。こちらは貴重品に触れる機会が多い筆者が、白手袋を常備していた。
また、手首付近の露出を避けるため、長袖では無く夏用のアームカバーを装着した。本のページがウッカリ素肌に触れてしまうのを避けるためだ。
このアームカバーは大変有能で、同じく手首の露出を避けたいサバゲー用のアームカバーである。

頭部装備はヘアバンドを装着し、更に手ぬぐいで頭髪を全て包み、しっかり縛る。
抜け毛が落ちるから。などでは無く、頭髪にホコリが付着し全然取れない、顔付近だし肺がキツくなってきた、という最悪な事態を防ぐ物である。かなり重要。

室内を舞うホコリを排除する為、クーラーで涼しい締め切った部屋ではなく、深夜暑さがマシな時間帯に窓を全開放し、換気を最優先した。
また、部屋の中を徹底的に片付け、物を無くし仕舞い込んだ。換気するとは言え、ホコリが付着する可能性がある。布系であれば特に。カーテンや、引っ掛けてある衣服が一番マズい、布製タペストリーもそうだ。
永遠に肺を攻撃し続けるホコリは、出来るだけ残らないようにしたほうが良いだろう。
ちなみに作業中に着用していた衣服は、普通にTシャツとハーフパンツな雑部屋着である。あとで洗濯してシャワー浴びるから服とかもうどうでもいいや、アームカバーつけるしね。

これを守れば大丈夫……では無かった。実はゴーグルを装備しておらず、完全に目をやられてしまった。次はサバゲー用の密着タイプゴーグルを装備する。
また、無いよりはマシであったもののマスクの装備もかなり甘く、若干肺がやられた。密閉タイプ、塗装用防毒マスク等を採用するべきであった。
それとは別にマスクの甘さから派生する話だが、マスクと頭髪の問題はサバゲーで使うバラクラバでぼちぼち解決しそうな事に気付いた、なるほど。

サバゲー装備でええやんけ。
なんとなく、古書との共存方法を学ぶ事が出来た気がする。

強い上に準備がらくちん

ペーパーナイフの用意

開封式開始前に、絶対に必要な物がある。

アンカット本のページを切り離し、文章を読める状態にするためにはペーパーナイフが必要不可欠。
間違っても定規とかで雑に切ってはいけない。
切るなよ、絶対切るなよ。筆者はやっていないが、定規で切ると絶対後悔するからな、いいな。
ちょっと入刀角度をミスっただけでページをズタズタに傷つけるカッターナイフとか更に駄目だからな。ハサミも駄目だ。鋭い刃物系は本当に駄目だ。
開封に使用する物は必ず専門の道具でなければならない理由は相応にある。

でもペーパーナイフなんてウチにあったっけ?

あった。

これは何の変哲もない、特に理由なく出してきた聖剣と、その鞘。
アーサー王が持つエクスカリバー。を、模したペーパーナイフである。

運命の本と出合ったのなら、それに相応しい物で開封するべきなのでは。
特に深い理由は何と説明する訳では無いが、そう思い部屋の引き出しから発掘してきた。流石に年季が入っている上保存状態もアレだった為、表面に曇りなどが見える。悲しいね。

これは特に理由も無く出してきた、綺麗なキーホルダー

嘗て、草原にて聖剣と共に独り立ち、青空の下、彼方を見据えた美しい王。
風に揺れる金の髪を照らすように差し込んだ光は、訪れる運命を指し示し、私はその姿に心を奪われた――…。

その頃に購入したオタクグッズである、確か、確かそうだったはず。ディーン版アニメのEDめちゃくちゃ好きだったんですよ。
EDで彼女が持って居たのは、エクスカリバーでは無くカリバーンの方なのだが。

ヨシ、この聖剣で……、切る……!!!!!!

メチャクチャ緊張する
いざ仰げ、約束された勝利の剣

うわあぁあああ~~~~っ、

綺麗に切れた。
では、次のページに……、

全て遠き理想郷

お前しっかりしたペーパーナイフあるやんけ。

別にチキンになった訳では無い。聖剣のペーパーナイフとは言え、これはオタクグッズ。使いやすさや切れ味にも限界という物があるだろう。
べべべべべべべつに日和ってる訳じゃ無いし?

なので、この開封儀式の為だけに、普通のペーパーナイフを購入した。

人生で二冊目のアンカット本と出会い、所有者となり、己の手で開封する確率とは。そんなモン殆どゼロなのはアホの筆者でも分かる。
故に、今回購入したペーパーナイフを今後使用する機会があるかどうかは不明だ。

鹿の角を削った若干高価でかさばるペーパーナイフの購入も検討したが、使う機会や頻度も不明な上に、これ以上自宅に訳の分からん品が増えては困る。
こういったロマンは時に金で買えるが、その後腐らせる羽目になるなら少し考えた方が良い。
アマゾンで五千円なティラノサウルスの着ぐるみとか。河川敷で一度走って終わりのオモチャが五千円はちょっとね。

なのでカット面の仕上がりの綺麗さや、書籍へ与えるダメージ、ナイフの薄さ、扱いやすさを考えつつ、安い物を購入した。
彼は今後の日常生活では不要であり、もう使う事は無いだろう。

……そう思われていたペーパーナイフだが、この道具は想像以上に優秀で、封書開封スタッフとして現在すごく働いて居る。
デスクの引き出しにスッと入る便利品、これからもよろしくね。


アンカット本、開封

ではこれより、本格的な開封式を開始する。

緊張で既に冷や汗ビタビタ
(スマホの画面タッチの問題で、最初の方だけ小指が露出しています)
袋になっているページへ、ペーパーナイフを差し込み、
切る
隅までキッチリ切らなければ、ページを捲った際に破れてしまう
最初は切ったページ数をメモしていたのだが、次第にそれ所では無くなり、
興奮と
熱中で
これ以降、数をかぞえて居ない。

なんかもう数かぞえるとかどうでも良くなってしまった、そんな余裕ぜんぜん無いんだよ。

物語とゆかりのある布製しおり

実は、未開封のアンカット本であったが為に全く知らなかった事なのだが、「300ページ以上ある本の中で作品3本立てなら、1作品100ページぐらいの配分なんだろうなあ。」と、のんびり構えていた所、お目当てだった「La Fin de Byzance」は、タイトルや出演キャラクターリスト全部含めて40ページぐらいしかボリュームがありませんでした。マジかよ。
こればっかりは情報が何処にも無い。

巻頭の空白ページを含め、50ページで物語が終わってしまった
無心で切り続ける

流石に適度に休憩を挟んだ。
入れ込み過ぎて、オーバーヒートしそう。

作業が進めば進むほど背が破れそうでヒヤヒヤする。
実際に手に取らないと分からないのだが、日焼けしまくった背が大変脆い。

このアンカット本、ほぼ手付かずで読めないページが多かったのだが、紙が劣化し脆くなり、触れただけでページが離れてしまう箇所も多すぎた。
その為、ページを切り離す作業のみを行った訳では無く、ページが離れ損ねている中途半端な場所を処理する作業も行っている。

正直ボロボロすぎて「誰かが試し切りした」のか、それとも現在と同じ「触れたら勝手にページが離れた」物なのか区別がつかない。
超ランダムな配置を見る限り、後者だと思っている。

隅まで切らねばならないが、深すぎると背などを突き破り、傷つけてしまうギリギリの状態。
スッと切れるときもちいい
まだ半分。
最後の作品、「Le Lion écarlate」まで来た。
終わりに近い。が、背が!背が!ヤバイ。
残りのページ数
崩れ続け、ホコリをまき散らし続ける書籍

全力で丁寧な仕事をしているものの、最初からボロボロなため、小口の崩れだけは防ぎようがない。
小口研磨したらいいんでないのとは知人の言葉。やれるものであるならば、やってよいのであれば、検討する。

突然だが、
ここに来て緊急事態発生。

なんと、一束だけ、下部が短い。
今度こそ製本ミス?ミスなの?

製本ミスだ。

こう言った物を不良品のハズレと取るか、レア物のアタリと取るか。
それは人や状況、程度によって違う物だが、今回の筆者は完全に後者。
超、大アタリ。

冷や汗びちょびちょ

アンカット本かつ!製本!ミス!!!!オギャーーーッ!!!
現代の正確な製本技術とかじゃなし、これ位の時代の製本であればそりゃあミスの発生確率も高いだろうが、アタリはアタリ。
急なアクシデントで動悸がハチャメチャになってしまったため、30分ほど休憩を挟んだ。

ヒエエ~~~、古書でアンカット本で、製本ミス。

30分休憩を挟んだものの、暑さと熱気と興奮と集中でクラクラしてきた。
作業を中断し、残りは別日にしても良かったのだが、準備と片付けの面倒さもある為1日で終わらせてしまいたい。
それと、切りたくて切りたくてたまらない方面へ興奮しているので延期とかムリ。

今まで無音で作業をしていたが、緊張とテンションと冷や汗が最高潮に達したため、BGMを流すことにした。

電気グルーヴの「クラーケン鷹2018」だ。
これよりこの場は、ライブ会場となる。

こういう時はこうだ、こうするんだよ。筆者は電気を推しているため、聴きやすいスポティファイのURLをしっかりつけておく。気に入ったら買ってね。
shameからshamefulの流れ、いいよぉ。もしかしたら知ってる曲もあると思うので、ライブアレンジバージョンも一度聴いてみてくれると嬉しい。

話がそれた。

徐々に終わりへ近づいてきた。
残りページは殆ど無い
おお、巻末に目次がある。
目次をめくる
印刷された場所、年と月などが記載されている

別ページに詳細があったが、1~2ケタのシリアルナンバー的な番号、もしくはアルファベット1つのみが書籍内の何処かに記載されているらしい。(シリアルナンバーは見つからなかったため、翻訳作業中に探します)
あと、第六版だってさ。(これは、判で押してありました)

おお、これが最後、ラストワン……!
最後のページの切り離しが、
終わった。
白紙のページをめくる
裏表紙だ
本を閉じ
終わる
終わった

終了!!!!!!!!
終わった。
長い夜だった、本当に長い夜だった。
作業終了です。全368ページ、切り離し、終了しました。
20~30分の休憩を何度か挟んでいたので、作業時間は3時間ほど。

終了後汗だくだったが、殆ど緊張から来る冷や汗であり、暑さなどどうでも良かった。暑かったのは手ぬぐいで縛っている頭部だけ。
おや?オーバーヒートの理由、これか?

興奮冷めやらぬまま一気に道具を片付け、しばらく窓を開けっぱなしで換気させたまま、人間の方はシャワーを浴びに行った。ホコリを出し続ける書籍は再び厳重に仕舞い込まれた。

カットされ、アンカット本では無くなった、元アンカット本
恐ろしすぎて絶対に剥がせないシール

裏表紙の文章は、フランス語書籍公式サイトに記載されている書籍説明文と同じテキストです。

裏表紙、右下に謎のシールが貼られているが、同シリーズ他書籍を調べたところ、ここには値段が書いてあるらしい。
そういえば書籍の何処にも読み取り用バーコードが印刷されていない。バーコードが一般に浸透する時代の前の本なのか。
古本として売る為に正規値段は隠したんだな、なるほど。

この書籍の当時の値段は不明だが、記載は「ユーロ/€」
同シリーズ別タイトルで、200ページほどの書籍は14,50~14,90€だった。

17,50~20€な物もあったが、これらは同表紙デザインで1990~2000年代に刷られたアンカット本では無い新書。フォントが微妙に違う。
そんな近年の本が見たい放題読みたい放題な海外デジタルアーカイブに存在するのに、今回のタイトルはそこに無いの?無いよ。
そういうもんだよ、本って、さ。

暫しの間デジタルアーカイブを漁っていたら、手製の製本で立派な表紙を付けて貰っている書籍があった。きっと、大切にされていたアンカット本だったんだろうなあ。
この書籍シリーズ、近年発行された物は古本屋バーコードシールや、雑なテープの補強、図書館でかでかバーコードシールの洗礼を受けている憐れな物が多い。
本文ページに落書きとかされてそうだね、確かめてないけど。
確かめたら鉛筆でめちゃくちゃにされてました。


ガリマール出版社「コレクション・ブランシュ」

今回筆者が入手し開封したアンカット本だが、この表紙デザインの書籍は全て、1911年5月からガリマール(Gallimard)社NRF出版部(設立当時はNRF出版社)で刷られている「コレクション・ブランシュ/Collection Blanche」
発行以来の販売数は8,650万部と記されている、111年前創刊から現在まで続くシリーズブランド。そしてガリマール社とNRFが初めて出版した本のデザイン、社が踏み出した第一歩でもあるのだ。

単に「ブランシュ/Blanche」もしくは「ラ・ブランシュ」と呼ばれている事もある。(ブランシュは、フランス語で白という意味)
クリーム色の表紙に、赤と黒の細いライン、赤文字の「ディド/Didot」フォントで印刷された書籍タイトル。「nrf」のタイポグラフィロゴも印象深い。

全体がシンプルなデザインであるが故可能な、広い空間を贅沢に使用したタイトル文字。
無地の背景で生きるディドフォントのすらりとした細さ、そして太さとのコントラストが上品かつ、大変美しい。
このフォントは現在、ファッションデザイン関連の場所で多く使用されている。社のロゴや雑誌ロゴとかね。

「コレクション・ブランシュ/Collection Blanche」
ガリマール社HP(フランス語)
これは、ガリマール社のコレクション・ブランシュの専門ページ。
2022年現在販売中の書籍、近日発行予定の書籍、人気のタイトルなどを確認する事が出来る。

「コレクション・ブランシュ詳細」
ガリマール社HP(フランス語)
コレクション・ブランシュの更に詳細、歴史のページ。

Création : mai 1911
Nombre de titres parus : environ 6 800
Nombre d'auteurs édités : environ 1830 (hors collectif)
Ventes depuis parution : 86,5 millions d’ex.

引用:Éditions Gallimard, “Collection Blanche“
2022年8月25日時点

設立:1991年5月
出版タイトル数:約6,800
作家数:約1830人(共同執筆名義を除く)
出版以来の販売数:8,650万部

筆者訳

追加の詳細を知りたい人は、各自で社のHPを確認してください。

表紙下部、タイトルの次に目立つ「nrf」の文字だが、「nrf」とは、「新フランス評論/La Nouvelle Revue Française」の略。
同人誌から出発し、会社となり、ガリマール社の出版部となり、その後多くの作家を排出した文芸雑誌のロゴである。
「NRF」とガリマール社との関係、歴史の説明は……、始めると超長くなるな!

ガリマール出版社の前身となったのが、同人「新フランス評論/NRF」。
アンドレ・ジッド(André Gide)氏を筆頭とする、6名の作家から始まった「新フランス評論/NRF」は、主にジャン・シュランベルジェ(Jean Schlumberger)氏がマネー面を支えていた。
作家であるジャン・シュランベルジェ氏は、のちの会社設立の際、もう一人の出資者と共同名義で社を立ち上げる。
同人「新フランス評論/NRF」は雑誌主体だったが、書籍出版に踏み込むにあたり会社を設立。それがNRF出版社(後のガリマール社)である。

筆者は、ウィキペディアのこういうページの事あまり好きでは無いが、皆は読み慣れていると思うのでウィキのページを貼っておく。

ガストン・ガリマール(Gaston Gallimard)氏と言う人物が、ガリマール出版社の創業者。氏は社の前身たる同人「新フランス評論/NRF」のマネージャー、マネー担当、スポンサーみたいなもんだ。
こうしてガストン・ガリマール氏は、ジャン・シュランベルジェ氏との共同名義、合同会社を設立。金持って遊び歩いていたボンボンのガリマール氏は、知り合いから声を掛けられ急に出版人となった。
こうして同人「新フランス評論/NRF」は、商業「新フランス評論出版社/NRF」となる。
最初こそ個人がマネーを出し合っていた会社であったが、株式会社に変わり、ガリマール出版社NRF出版部になって行く。

は~?それ以外、第一次第二次世界大戦中の休刊や、戦後の弾圧から来てNRF出版部に流れて行く大事な話、全部省くんですかぁ~?!スマン!長くなるので省くのだ!!
筆者も資料を作りたい訳じゃないしな。文章にあまり自信が無い、間違ってたらごめんね。

一応正式名を書いておこう。
同人「新フランス評論/La Nouvelle Revue Française」
出版社「新フランス評論出版社/Éditions de La Nouvelle Revue française」
どっちもNRF!
同人NRFから、NRF出版社になり、ガリマール社とNRF出版部になった訳ですね。本当ややこしいな。

以下に参考元のページを載せておくので勘弁してください、ソコ読めば全部書いてあるよ。

「NRFの歴史/HISTOIRE DE LA NRF」
Nouvelle Revue Française公式HP(フランス語)

「ガリマール出版社の歴史/Gallimard , Catalogue historique “1911-1919“ “1970-2011“」
Éditions Gallimard公式HP(フランス語)

同人誌のNRFが、会社へ切り替わった際、最初に刷った本、最初に出したシリーズが、「コレクション・ブランシュ」なのである。
社の設立メンバーをザッと見た感じ、自費出版同人誌で雑誌を刷ってた作家集団と、祖父の代から金持ち無職な珍本美術品収集家。
全員本オタク!!!!そりゃあ自社の本はアンカット本だろうよ。

ううむ、何と言ったらよい物か。正直、れきし、凄く、イイ……、としか言いようがない。「コレクション・ブランシュ」の歴史は、出版社111年の歴史を語る事と同等である。
今回この書籍を入手しなければ一生知ることが無かった情報がジャブジャブ出て来る、なんて面白い本に当たってしまったんだ。これだから調べ物はやめられねえんだ、歴史や文字を読むって超楽しい。

ちなみに以下は、筆者が購入した書籍のガリマール社ページ。
1~18ページまでサンプル閲覧可能、その他は非公開となっている。
ポール・モラン(Paul Morand)執筆
「緋色のライオン・ビザンツ帝国の終焉・バイエルンのイザベル/Le Lion écarlate précédé de La Fin de Byzance et d'Isabeau de Bavière」
ガリマール社HP(フランス語)
タイトルの日本語は、邦訳が存在しないため、筆者訳です。

なんだよぉ、ちゃんと詳細情報としても存在する本じゃんかよぉ。

368 pages, 140 x 205 mm
Achevé d'imprimer : 01-06-1959

引用:Éditions Gallimard, PAUL MORAND “Le Lion écarlate précédé de La Fin de Byzance et d'Isabeau de Bavière“
2022年8月25日時点

全368ページ、140×205mm
印刷終了:1959年01月06日

筆者訳

おめー絶版じゃねえか。

書籍自体の発行は1959年の6月25日だが、印刷終了は同年1月となっている。現在でもよくある発行日のズレ込み齟齬だろう。

待って?もしかして貴殿、このページからなら日本人でも電子版が買えるかんじ?
ワオ。


AVEC TOUS MES REMERCIEMENTS

色々とテキストを並べましたが、

そろそろ、

本題の本題に、

オープン

はいろうか。

お忘れかも知れないが、筆者はこの本を「読む」為に購入した。
これより、自分用翻訳作業という長い道のりを、孤独に歩んでいく。

英訳すらないタイトル、翻訳規制でもかかってるのかなと暫く考えていたが、マイナー本だからフランス語だけで終わってるだけっぽい。

これ以外の「コレクション・ブランシュ」の中には、希に海外でデジタルアーカイブ化され無料で読む事が出来る物もありますが、この書籍はデジタルアーカイブには存在しませんでした。
存在しないので購入したのだが。

デジタルアーカイブ公開も無く、電子書籍としてフランス語版が未だ販売されている為、個人が翻訳した物を他者に読ませる行為は御法度。故に自分でニタニタ楽しむだけ、ひゅ~楽しみ。
開封式最中、休憩がてら少し読み進めていましたが、凄く良い内容でした。

翻訳作業は直訳とは別に、意訳も同時進行で進めようと思っています、現在進めている最中です。
戯曲の意訳作業、文字書きをかじっててよかったね。

読むの、超、楽し~~~~~。
5月に通販購入した本を8月に読んでるとか言う、長期お預け状態だったのもあるのですが、いやぁ~~~、本当に楽しいなあ。
完全な不意打ち偶然入手ではありましたが、人生の中で最高の粋に入る、素敵で、奇跡な、大変良い買い物でした。
本って全部楽しい。そして、文字ってなんでこんなに美味しいんだろう、本当、不思議ですね。

それでは、

また別の怪文書でお会いいたしましょう。

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