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弁護士でも知らない?大法廷への「論点回付」とは【ニッチすぎる法律解説】

ツイッターを見ていると、当代一流の刑事弁護人であり尊敬する先輩でもある趙誠峰弁護士(早稲田リーガルコモンズ法律事務所)のツイートが目に入ってきました。

これ、最高裁判所大法廷への「論点回付」という制度なんです。

念のため断っておきますが、趙弁護士は勉強家かつ理論家で、リサーチを怠るような人ではありません。そんな趙弁護士でも知らなかった(?)「論点回付」について、Googleで検索してみると、東奥日報の用語解説ページがヒットするくらいで、まともな解説が見当たりません。そこで、私なりにすこし解説してみようと思います。

最高裁の大法廷、小法廷

最高裁判所には、1人の長官と14人の判事がいます。もちろん、全員が裁判官です。14人の判事は、3つの「小法廷」に分かれています。また、15人の裁判官全員で構成される「大法廷」があります。ごくおおまかにいうと、小法廷は通常の事件を、大法廷では特別な事件を扱うことになっています。どんな事件が「特別」なのかは、裁判所法10条が定めています。

第十条(大法廷及び小法廷の審判) 事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。
一 当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。(意見が前に大法廷でした、その法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときを除く。)
二 前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。
三 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。

分かりにくいですが、かみくだくと、

① 法令等が合憲か違憲かを判断する場合は、大法廷で審理しなければならない。ただし、過去の大法廷での合憲判断を踏襲するときは、小法廷で審理してよい。
② 法令等が違憲であると判断する場合は、大法廷で審理しなければならない。
③ 判例を変更する場合は、大法廷で審理しなければならない。
④ その他、細かいことは最高裁の規則で定める。

といった感じに整理できます(①と②の違いは割愛)。

論点回付とは

「その他、細かいこと」を定めた最高裁判所事務処理規則9条は、以下のようにいっています。

第九条 事件は、まず小法廷で審理する。
② 左の場合には、小法廷の裁判長は、大法廷の裁判長にその旨を通知しなければならない。
一 裁判所法第十条第一号乃至第三号に該当する場合
二 その小法廷の裁判官の意見が二説に分れ、その説が各々同数の場合
三 大法廷で裁判することを相当と認めた場合
③ 前項の通知があつたときは、大法廷で更に審理し、裁判をしなければならない。この場合において、大法廷では、前項各号にあたる点のみについて審理及び裁判をすることを妨げない。
(以下略)

これまた分かりにくいですが、ざっくりいうとこういうことです。

「これ大事なことなんで、みんなで話しましょう」
「一生懸命考えたんですけど、結論出ないんで、みんなで決めましょう」

企業でいえば、プロジェクトチームでは判断できない事柄について、部全体とか課全体とかで意思決定するイメージですかね。こういうふうに意思決定主体を移すことを、裁判所では「回付」といいます。

問題の「論点回付」は、3項後段の「大法廷では、前項各号にあたる点のみについて審理及び裁判をすることを妨げない。」に基づくものです。
裁判では、当事者がいくつもの主張をします。裁判所は、それぞれについてその主張を受け入れる(「理由がある」)か、受け入れないか(「理由がない」)かを判断し、最終的な結論を出します。大法廷は忙しい裁判官を全員巻き込むことになるので、小法廷では結論が出ない/出すべきでないポイントだけに絞って審理することができる、となっているのです。

そのポイントを大法廷で判断した後にどうなるかは、最高裁判所事務処理規則9条4項で、

前項後段の裁判があつた場合においては、小法廷でその他について審理及び裁判をする。

とされています。

要は、
「それだけ決めてもらえれば、あとはこっちでやります」
ってことですね。

実際の例

今回の趙弁護士のツイートにあった判決を改めてみてみると、「刑事訴訟法39条3項本文が、憲法34条後段に違反するか」というポイントだけが、特に重要な点として小法廷から大法廷に移された(回付された)ということですね。

そして、大法廷は「論旨は理由がない」、つまり、上記の点について当事者の主張を受け入れないという判断をしています。その後、審理は小法廷に戻され、他の点も含めて最終的な判断が下されています。
そこでは、大法廷で審理・判断済みのポイントについては、

なお、上告代理人大堀有介の上告理由第二点の論旨の理由がないことは、前記大法廷判決の判断したところである

と簡潔に述べられています。

「論旨は理由がある」と判断した例で著名なものとして、小田急高架訴訟の大法廷判決の例があります。

この裁判では、国が鉄道会社に対して行った事業認可について、周辺住民が争うことが許されるか、どの範囲の住民ならば許されるのか、法律用語でいうと「原告適格」という点が問題となっていました。当初、裁判は小法廷で審理されていましたが、この原告適格については意見が分かれ、大法廷に論点回付されました。

大法廷は、審理の末、

別紙上告人目録1ないし3記載の上告人らは,別紙事業認可目録1記載の認可の取消しを求める原告適格を有する。

という判決主文を言い渡しました。普通、判決主文というのは当事者の申立てを認めるかどうかの結論を端的に記載するのですが、この例では、本来は判決の理由に当たる部分を主文に記載しています。これが論点回付の特徴です。なお、このケースも後日小法廷で他の点も含めた最終的な判断がなされています。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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