見出し画像

「かくしごと」住野よる

 —18歳。高校3年生。あの瞬間のぼくは何を考えながら生きていただろうか。将来のことを考えるなんて立派なことはしていなかっただろうし、好きな子のことで頭がいっぱい、なんて青春な人生でもなかっただろう。
「でっ、でも、決してつまらなかったわけではないんだぞっ」
こうやって自分の人生の平凡さと退屈さを励ましながらこの物語を読み進めていた。

 懸命に生きる5人の高校生たちに想いを馳せながら、ぼくの青春も幕間を終える。

 京くん。地味で控えめな少年。
 優しい性格はすごく魅力的だけど、この物語の中だとどうしても事をこじらせる原因になってしまう。ん-、もどかしい。個性的な性格の持ち主が集まっているからか、地味なはずの京くんも個性的に見えてきてしまう。これは周りにいる子たちのせいでもあるのだけれど。京くんを見ていると、こういう子いっぱいいるだろうなぁって思う。それくらい共感できる瞬間が溢れていた。おつかれさま、京くん。

 ミッキー。元気溌剌な女の子。
 どこまでも続く不器用さを自分の武器にしてしまっているところが恐ろしい。ミッキーに巻き込まれる人たちはみんな変わっていってしまう。環境も、価値観も(まあ、ぼくもミッキーに翻弄されたひとりなのだけれど)。いつも元気に明るく振舞っていた。でも、そんな君の脆さに触れたとき、「こんな人でも」っていうのが素直な印象だった。「大丈夫」と言ってくれた仲間がいて、君は強さを取り戻した。
―大丈夫、君はヒーローになれるよ。

 パラ。ぱっぱらぱーで、パラ。
 友達想い?でやさしいパラだけど、いつもだれかを困らせてた(主に京くん)。なんてことない場面でも、一言で世界観を変えちゃうパラ。ひとつひとつの言動がスパイス効きすぎてるよ、もう。まあ仕方ないか。だってぱっぱらぱーでパラだから。
さて、本当に欲しいものは手に入れたのかな。

 ヅカ。何でもできちゃうんだよな。
 自覚のないイケメンってなんでこんなにかっこいいのかね。終始そんな気持ちで彼のことを見てた。ヅカ視点のエピソードになって、「あぁ、こんなに細かいところまで気遣ってるんだ」って。もうギャップ萌えでした。70pくらいは女子になってました。そんな完璧男子をも困らせちゃう子もいたけど、悩んでるヅカもやっぱりイケメンでした...惚

 エル。何を考えてるの、エル。
 どこまでも繊細で、だからこそみんなの色んなところに気づける女の子。でもミッキーやパラみたいに何でも言っちゃうなんてことはできなくて、いつも「どうしよう」ってなってて可愛かった。エル視点のエピソードを読んで、また1から読み直して「あそこはこうだったのか」って確認するくらい、最初は何考えてるんだろうって感じだった。でも、そんな彼女の純粋さ、透明さ、優しさに触れて心穏やかに5人のストーリーを締め括ることが出来ました。

 教室の端っこの席から5人を見守っていたかのような、そんな気持ちでこの物語を読んでいた。
 これは決して短編集ではない。いつも全員の優しさは繋がっていて、こうして一つの物語になった。日常を描いた作品であるからか、このままどこまでもすらすらと描かれていきそうなそんな雰囲気すら感じた。彼等が一緒にいるならば何歳になっても”青春”なんだろうな、と思う。

 これは5人の”かくしごと”が紡いだ、最高にハッピーな物語だ。

        自立できないミズゴロウ より

―――――――――――――――――――――
甘酸っぱくも爽やかな、5人の日常。

「かくしごと」 住野よる

定価(本体630円+税) 新潮文庫
―――――――――――――――――――――

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?