(第13回)日本海軍の死華

マリアナ沖で壊滅した海軍航空隊の再建が急がれる中、連合国(米軍)の侵攻は遂にフィリピンへ到達しました。

日本も、米軍進行ルートをフィリピン方面、台湾方面、小笠原方面、北海道方面の4方面の何れかに侵攻してくると予想しており、米軍内ではフィリピンを避けて進むべしという意見もありましたが、マッカーサーは開戦初頭でフィリピンを追われる際、「I shall retern」という言葉を残して去っていましたので、己に恥辱を与えた日本軍へ必ずや報復するという個人的なうらみもあったのです。

そして米軍はフィリピンのレイテ島へ上陸します。日本陸軍はルソン島での決戦を準備していたのですが、ここで大本営は大きな判断ミスを犯します。それは、

レイテに上陸したのは、数日前に発生した台湾沖航空戦によって大ダメージを受けた敵機動部隊の残存勢力だ。ここはルソンからレイテへ戦力を移動し、一気呵成に残存勢力を殲滅するべきだ

と判断したのです。
台湾沖航空戦の実相は日本の敗北であり、レイテに上陸したのは無傷の上陸部隊でした。この部分については、当時の大本営参謀だった堀栄三さんという当事者の方の本があります。

こうして急遽レイテ島決戦が企図され、フィリピン防衛を任されていたマレーの虎、山下奉文大将率いる第14方面軍の死闘が始まりました。

一方海軍ではこの状況に対し、運命の「捷号作戦」が発令されました。この作戦を僕なりの解釈でざっくり言うと、こうです。

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<作戦の背景>
既に日本海軍の空母を中心とした機動部隊は、艦載機の多くを失い壊滅状態にある。戦艦中心の水上部隊は健在であるが、航空機の傘の無い戦艦部隊に勝機は無い。また備蓄石油も少なくなり、艦隊運用は今後厳しくなる一方である。ついては、日本海軍の死華を咲かせるべく、最後の決戦を企図する。

<作戦内容>
・栗田艦隊(戦艦、重巡洋艦中心の主力部隊)
ブルネイから出撃し、レイテ湾に殺到している『敵輸送船団』を殲滅せよ。

・小沢機動艦隊
残存空母を率い、『囮』として、レイテ湾を防衛する敵機動部隊を北方に誘い出し、栗田艦隊のレイテ湾突入を容易せしめよ。

・西村艦隊(旧型戦艦を中心とした部隊)
別ルートでレイテ湾へ向かい、栗田艦隊と合流の上レイテ湾へ突入せよ。

・志摩艦隊(巡洋艦および水雷戦隊)
別ルートでレイテ湾へ向かい、栗田艦隊と合流の上レイテ湾へ突入せよ。
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こういうものでした。

生還を期せず、レイテ湾の輸送船団および艦隊と刺し違えるという思想です。ここで重要なのは、目的がレイテ湾の「輸送船団」を殲滅するということです。日本の水上部隊主力が、戦艦同士の撃ち合いではなく輸送船団と刺し違えるということですから、現場の方々にとって、当然その目的に対する反抗はありました。しかもレイテに急行したとしても敵の上陸開始後、数日経っているわけですから既に空船となった輸送船を沈めることと引き替えに全滅するという可能性もあるわけです。

どうせ散るなら華々しく艦隊決戦で敵空母、戦艦に一矢を報いてからにしたい。そのために訓練を積んできたわけですから、水上部隊の方々の思いはこうであったはずです。しかし各部隊とも、命と引き替えに米軍の侵攻を遅らせるという作戦目的のもと、出撃します。

栗田艦隊はレイテ湾へ。
小沢機動部隊は、囮としてレイテ北方へ。
西村艦隊、志摩艦隊もそれぞれレイテ湾へ。

世界史上、最大規模の海面で戦われた海戦、いや海上と航空と、地上戦とが複雑に絡み合った立体的な戦闘の始まりでした。

しかしながら主力の栗田艦隊は、出撃直後の10月23日、重巡洋艦 摩耶、愛宕が敵潜水艦からの攻撃により沈没。同じく高尾も被雷し戦線離脱という悪夢に見舞われます。
そして翌24日、航空機の援護の無いまま進む栗田艦隊を敵の猛将、ハルゼー率いる機動部隊がシブヤン海で待ち受けていました。栗田艦隊は空からの猛攻を受け、20本近くの魚雷、爆弾を受けた不沈戦艦武蔵が沈没しました。

武蔵については、是非一度、何かの戦記を読んでみてください。
NHKのアーカイブでも良いと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=bhADaK7BwFU

航空機の傘が無い栗田艦隊を、ハルゼー機動部隊が執拗に攻撃する状況のなか、栗田艦隊への援護を約束していた台湾基地からの支援戦闘機は、様々な事情で遂に1機も飛来する事はできませんでした。

ハルゼーの機動部隊に攻撃されているということは、囮の小沢機動部隊が捕捉されていないということです。栗田司令部は焦ります。

「このままでは、レイテに到着する前に全滅する。」

栗田長官は、一旦体制を整えるため艦隊を反転させました。

もちろん、このとき照雄さんは「榛名」に乗って栗田艦隊の一員として、この運命の戦いの真っ只中にありました。

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