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【取材記事】独自テクノロジーで社会へ実装する“おいしいサーキュラーフード”食用コオロギを知る

株式会社グリラスは、持続可能な循環型タンパク質として食用コオロギ関連事業をしている会社です。徳島大学発のベンチャー企業で、代表の渡邉さんは徳島大学の現役研究者。2006年から研究を重ね、2016年には応用研究として新たな食料資源としてのコオロギ研究をスタートさせました。コオロギの可能性を社会に実装するべく、2019年に株式会社グリラスを設立。“コオロギ×テクノロジーが生み出す新たな調和で、健康でしあわせな生活を”をビジョンに掲げています。今回は、食用コオロギが持つ魅力と可能性について広報の川原様にお伺いしました。

株式会社グリラス 経営者によるピッチ動画

【お話を伺った方】

川原琢聖(かわはら たくま)様
株式会社グリラス 広報マネージャー
神奈川県出身。ファーストキャリアとして都内のPR会社にて務め、2021年より徳島に移住し、グリラスの広報マネージャーとして勤務



■「コオロギ」は持続可能で環境にやさしいタンパク資源

mySDG編集部:株式会社グリラス(以下、グリラス)さんは、将来危ぶまれている食料危機回避のために、食用コオロギを原料としたタンパク質生産事業に取り組まれているのですね。カイコ・バッタ・ミールワームなども食用として用いられますが、コオロギを選ばれた理由をお聞きしてもよろしいですか?

川原さん:弊社は徳島大学のコオロギ研究を基礎としていまして、コオロギに関しては深い知見がありました。カイコやミールワームにもそれぞれに栄養素など優れているところがありますが、弊社がコオロギを使う大きな理由は、育てやすさにあります。

弊社が最終的に目指している目的の、“世界のタンパク質不足を解決していく”ことにあたって、「どこでも育てられる」「簡単に育てられる」ことがとても重要です。

mySDG編集部:具体的に育てやすさとはどういったところなのでしょうか?

川原さん:育てやすさの面で、コオロギは雑食であること、ほとんど飛ばないこと、成長が早いことの3点が利点としてあげられます。
この利点は、研究対象としても共通しています。研究の場面では1回の成長周期が1年だと、研究結果が1年後になってしまいます。これではスピード感がありません。ところが、コオロギは成虫になってから約1ヶ月程度でライフサイクルが終わり、次の実験に移るスピードが早い。これはほかの昆虫と比べて大きな利点といえます。

飼育する上で、エサの制限がないというのも大きなメリットです。例えばカイコだと、食べるのは桑の葉のみなので、桑の葉を供給しないとカイコの供給もできません。桑の葉が集まらない地域で生産すると、コストと手間がかかります。
その点、コオロギは雑食で何でも食べるので、飼育する地域を選びません。弊社の場合は食品残渣を与えています。食品メーカーで一定、均一なクオリティ品質の食品ロスを複数種類混ぜた、100%食品ロス由来でのエサです。こうした生産方法のこだわりも可能なので、コオロギを使っています。

mySDG編集部:エサには何を与えているのですか?

川原さん:よく与えているのは小麦のブランなどです。小麦粉にするときに小麦の表皮や麦芽を除いて製粉しますよね。こういった人間が美味しく食べようと思う時に外れてしまうもの(加工残渣)を与えることが多いです。

mySDG編集部:食品ロスでコオロギを育てることによって、サステナブルなサーキュラーフードになるんですね。ちなみに昆虫の飼育は環境にやさしいとか。

川原さん:昆虫はウシ、ブタなどの家畜と比べ、1グラムのタンパク質を生産するのに必要なエサや水の量が圧倒的に少なくてすみます。さらに地球温暖化の一因と言われる温室効果ガスも、昆虫は排出量が少ないので、環境負荷が低いタンパク源ですね。

1kgのタンパク質を生産するのに必要な餌や水の量の比較

mySDG編集部:グリラスが飼育するコオロギの特徴を教えて下さい。

川原さん:一般の食用コオロギは、フタホシコオロギとヨーロッパイエコオロギが多いです。グリラスでは、徳島大学で約30年間研究用に維持されてきたフタホシコオロギのアルビノ系統(白眼)のみを食用として飼育しています。人間でも肌や髪が白い人がいたり、ヘビの中にも白いヘビがいたり、体の色素が生まれつき少ない白子症(アルビノ albinism)です。

コオロギの場合は筋肉組織や皮膚組織は殻の内側にあるので、外骨格の色素は落ちないのですが、内部組織の色素は落ちて、目が白いというのがアルビノ系のコオロギです。
アルビノを使っている理由はいくつかありまして、一つ目は、飼育が容易だからです。落ち着く傾向にあるので、おとなしいんです。二つ目は、味があっさりしていて食べやすい。三つ目は、一番重要視しているクオリティの担保です。コオロギ飼育の際に外からコオロギが入ってきてしまった場合に見つけることができます。

mySDG編集部:どのようにして見つけられるのですか?

川原さん:アルビノは劣性遺伝の生き物なんですね。外から入ってきたコオロギと仮に交配してしまった場合でも、生まれてくるのは目の黒い通常のコオロギなんです。一目瞭然なので、外部から入ってきた個体を容易に外すことができて、品質の担保につながります。


■コオロギリテラシーと認知度が高いグリラスの地元、徳島県

講義の様子

mySDG編集部:学生向けの講義もしているのですね。どのようなお話をされているのですか?

川原さん:講義では、なぜコオロギを食用にするのか疑問を持たれる方が多いですね。学校からの依頼の場合は、SDGsとのつながりの説明をお願いされることが多いので、冒頭でタンパク質危機と食品ロス、食料安全保障などの社会課題の説明をした上で、なぜ食用コオロギがこの問題にコミット出来るのか、何が期待をされていて、どんな役割を果たせるのかを説明します。

mySDG編集部:今まで講義を行ったのは、中学校・高校が多いのですか?

川原さん:そうですね。小学生も博士課程の方も対象にしています。個人の学生さんのご依頼も多く、参加費無料のオンライン講座も実施しています。

mySDG編集部:関心が高いのは、生徒さんですか? それとも学校側からのご依頼が多いのですか?

川原さん:基本的に興味関心が高いのが生徒さんになります。学校から依頼がある際も、生徒さんの関心度に気付き、依頼に至ることがありますので、きっかけの多くは生徒さんになりますね。
実は、徳島県ではコオロギリテラシーがとても高いんです。弊社は徳島大学発のベンチャー企業で、代表が現在も徳島大学の教員として生物学的基礎研究を行っていて、2016年に食用コオロギの応用研究に舵を切りました。地域の中でも有名な徳島大学で、食用コオロギの研究を6年以上やっているので、徳島の皆さんにとって認知度が高いんです。

mySDG編集部:研究機関としても、食品原料メーカーとしても、お話を直接聞けるのはとても貴重ですね。全国の学校から問い合わせがあるのですか?

川原さん:はい。徳島以外ではオンラインでの講義が多いです。東京でも予定がありますよ。海外からもお問い合わせがあり、外国の有名大学の学生さんの参加も多いです。


■コオロギの優れた「栄養」シェフも認めた「味」

コオロギ大使:「日本橋ゆかり」野永シェフ

mySDG編集部:コオロギは「陸のエビ」と呼ばれていて、エビのような風味があるそうですね。

川原さん:はい。コオロギはタイやカンボジアなどの東南アジアでは、屋台や家庭で日常的に食べられている食材で、冷凍状態でも流通しています。

mySDG編集部:グリラスさんの製品は、コオロギをどのような形で提供しているのですか?

川原さん:パウダーを中心にプロダクト開発をしています。2020年5月に無印良品さんに提供したコオロギせんべいなど目立つところにはパウダーが多いですが、エキスや飲食店向けに冷凍コオロギ、乾燥コオロギなども出しています。

mySDG編集部:パウダーが中心なのは、使いやすさからですか?

川原さん:おっしゃる通りですね。甲類をそのまま流通させても、どうやって使うのか難しいところがあります。パウダー状にすると混ぜ込むことが可能です。

mySDG編集部:グリラスパウダーの特徴を教えてください。

川原さん:乾燥させて粉々にしているコオロギ100%の粉です。乾燥させることによってタンパク質含有量70%以上のハイプロテインの製品に仕上がっています。殻の部分は、エビ・カニの甲殻類の殻や、きのこなどにも含まれるキチン質(不水溶性食物繊維)が含まれています。
ホールでコオロギを使っているので、コオロギの栄養素が残りやすい傾向にあり、ビタミン、ミネラルをはじめとした体に必要な栄養素を数多く含んでいます。

グリラスパウダー

mySDG編集部:保存期間はどれくらいあるのですか?

川原さん:1年です。

mySDG編集部:川原さんのおすすめのコオロギパウダーを使った調理法はありますか?

川原さん:シリアルやグラノーラなどにかけるといいですよ。朝からあっさりと沢山のタンパク質と食物繊維が取れます。

mySDG編集部:なるほど。手軽でいいですね!

川原さん:味も相性が良くて、弊社のフタホシコオロギは穀物由来のエサを多く含んでいます。コオロギは人間と違って消化管が単純なので影響を受けやすいので、エサの味は影響するんですよ。食べたときに、エビ・カニ風味と同時に穀物っぽい風味も感じます。その風味とシリアルがとても合うんです。

mySDG編集部:おいしそうですね。普段の生活にすぐに取り入れられそうですし、食物繊維も含まれているのはいいですね。試してみたくなりました。

川原さん:出汁の代わりにもいいですよ。グリラスパウダーは粉状で水には溶けないので、私はそうめんチャンプルーをつくる時に最後にかけて、風味を増すために使います。コオロギはエビに近い生き物なので、出汁のうまみ成分がとてもあります。

mySDG編集部:日常の料理にグリラスパウダーを加えると、風味とタンパク質、栄養素をプラスできるんですね。お肉を焼くより手軽ですね。

川原さん:全部畜肉由来のタンパク供給ではなくて、今日は植物性とコオロギでいこうという気分の日もありますよ。

mySDG編集部:とてもイメージがわきました。個人的にあっさりした食事が好みなので、お肉の気分ではない日は魚料理にしていましたが、そんな時にコオロギの選択肢があると新しいメニューのバリエーションが増えそうですね。育ち盛りの子どもがいるとタンパク質は外せないですし、毎日食事を考えるのもとても大変なので、普段のあっさりメニューにプラスオンをして、手軽に取れる栄養素があると本当に助かりそうです。和食にも合いそうですね。

川原さん:「日本橋ゆかり」さんという、宮内庁に出入りをする老舗割烹料理長の野永シェフに「コオロギ大使兼コオロギフードアドバイザー」として情報発信のお手伝いをしていただいています。野永シェフは「エキスを使うと和食に必要な出汁とうまみが両方決まる」と感動してくださいました。

mySDG編集部:すごいですね。料理の素材としても、プロの料理人が認める味なんですね。

■世界のタンパク質不足を救うための第一歩は、日本への普及

自社ブランドC. TRIA(シートリア)

mySDG編集部:普及に向けて今後、力を入れていくことはどんなことでしょうか?

川原さん:食品原料メーカーとしてやるべきことをやることです。製品の改良を重ねていくと、味の質や種類、価格幅、商品数が増え、扱いやすく、選びやすい食品原料になります。すると、結果的に採用する企業が増え、企業と商品が情報発信の核となり、文化として普及していくということがあります。
日本は戦後1960年代くらいまで昆虫を食べる文化がありましたが、その後、食の欧米化によりタンパク源が昆虫から肉に移行しました。欧米の文化が入ってきた時期の富裕化と、食歴史のイメージがリンクして、昆虫食は貧しい食べ物、田舎の食べ物というマイナスのイメージがついてしまいました。

その後には、テレビ番組で放送された罰ゲームのように昆虫を食べるイメージもあり、今の日本で昆虫食を普及させるには、ネガティブな要因が積みあがってしまっています。

最近では「昆虫食」がブームになっていますが、人気なのもエンタメ要素が強くなりますので、弊社は昆虫食ではなく「食用コオロギ」と表現し、差別化をはかっています。さらに、持続可能な循環型食品であることの意識づけのために「サーキュラーフード」という言葉を使っています。

mySDG編集部:グリラスの2030年までの目標や展望をお願いします。

川原さん:「食用コオロギ」が当たり前の食の選択肢になり、かつ、世界のタンパク源として機能していることですね。世界のタンパク質不足を救うための1歩目としての日本に普及させていきます。
それに、日本も食料危機と縁が遠い国ではありません。日本で起こりうる食料危機の場面は、海外輸入が止まるときです。特に畜産はエサも海外輸入に頼っていますので、エサが輸入できないと飼育が難しくなり、畜産によるタンパク源が確保できません。その段階で、ちゃんとコオロギ生産が国内資源で大量にできているかどうか。供給する側にも課題はありますね。

mySDG編集部:食用コオロギに興味を持つ皆さんに、メッセージをお願いします。

川原さん:普及している食品でも、好みや傾向であまり口にしない食品がありますし、コオロギは無理に食べるものでもありません。食べたいと思いましたら試してみていただけるとうれしいです。

mySDG編集部:自社ブランドのサーキュラーフード®ブランドC. TRIA(シートリア)では、コオロギパウダー配合のお菓子やレトルトカレーを販売していますので、まずはお試しいただけるといいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。


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