【取材記事】緊急避妊薬と性知識で若者の望まぬ妊娠を防ぐ 誰もが自分の選択を尊重される社会を目指して
【お話を伺った方】
■「性を教えない教育」がもたらした影響
mySDG編集部:ソウレッジを立ち上げる以前、大学を休学して、デンマークやフィンランド、オランダなどの教育機関や性教育団体を視察されたそうですね。帰国後、ソウレッジを立ち上げ、性教育を広める活動を行う中で、日本における性教育の課題はどのあたりにあると感じられましたか?
鶴田さん:私達が特に注力しているのは避妊に関する教育なのですが、その中でハードルになっていることのひとつに、中高の教育現場で性交や避妊、中絶について取り上げることを制限する「はどめ規定」があります。「はどめ規定」の影響により、避妊にまつわる正しい知識が子どものみならず、大人たちにさえ届いていないことに課題を感じていました。例えば膣外射精すれば妊娠しないという誤った認識が広がっていたりと、どういった条件下で妊娠してしまうのかを理解できていない人が、大人も含めすごく多い印象です。
さらにもう一点、正しい性知識を伝える教え手が少ないことです。医学的な知見から正しい知識を伝えられる大人が少なく、結果として漫画やSNS、友人の体験談などからしか情報を得るルートがないため、根拠のない性知識ばかりが普及してしまう点も課題だと感じています。
mySDG編集部:教育現場においては、受精や妊娠については教えるけれど、性行為や避妊については取り扱わないことで、実際の行為において適切な判断ができず、望まぬ妊娠を引き起こしてしまう可能性につながります。
鶴田さん:そうですね。やはり「性」について扱うことに、日本は社会的にためらいが強い印象です。性教育以外においても、最近はユースクリニックと呼ばれる、若者が性の悩みを気軽に相談できる場が日本でも普及してきているのですが、実際に相談に来る人がすごく少ないという課題があります。一方で、性にまつわる発信を行うYouTube番組の視聴や電話相談には需要があるので、顔を出して直に相談をするということに日本はものすごくハードルが高い国なのだと思います。
mySDG編集部:そういったハードルがある中で、ソウレッジでは子どもや若者たちの性の課題に対してどのようにアプローチされているのでしょうか?
鶴田さん:性教育はもちろん大切なものですが、一方でいくら知識が届いたとしても、それが行動につながるかどうかがすごく重要だと考えています。例えば避妊に失敗した場合、緊急避妊薬について教わっていたとしても、入手し、時間内に服用まで辿り着けなくては妊娠を防ぐことはできません。親に相談ができるか、病院が近くにあるか、予約するスマホがあるか、行くお金があるかなど、さまざまなハードルによって、知識があっても行動につながらないというギャップが生まれてしまいます。
そのギャップを解消していくことが本当の意味での教育だと考えているため、ソウレッジでは現在、性教育から一歩進めて、「若者が避妊薬を使える環境」と「学校外でも性知識を得られる環境」を整えるために、「おひさまプロジェクト」を立ち上げました。
■若者が羽を折られない社会をつくる
mySDG編集部:研修や教材を通じて性教育を広げる活動から、「知識を行動につなげる」活動にフェーズが変化したということでしょうか?
鶴田さん:そうですね。私たちは5年前から活動を始めたのですが、当時と比べ現在は性教育を発信するプレイヤーも増え、性教育はかなり普及してきています。なので、私たちがやるべきことは、もっと社会を大きく変える必要のある部分にアプローチしていくことだと考えました。
例えば、望まぬ妊娠を防ぐ緊急避妊薬は、日本の産婦人科で処方してもらう場合1錠8000円〜15,000円と高額なため、金銭の用意が難しい若者がアクセスしづらい状況にあります。保護者に相談しにくいという心理的ハードルや、診察を受けなければならないという物理的ハードルもあり、望まない妊娠によって一番人生が左右されやすい、一番緊急避妊薬が届いて欲しいはずの若者に届いていないのです。そのため、彼らが自分の意志で避妊を選択できる機会と正しい知識を届ける場として立ち上げたのが「おひさまプロジェクト」です。
mySDG編集部:「おひさまプロジェクト」が担う、最も大きな目的はどんな点にあるのでしょうか?
鶴田さん:望まぬ妊娠によって若者が羽を折られない社会をつくることです。日本は他の先進国に比べ、認可されている避妊方法が少なく、望まぬ妊娠を防ぐ最後の砦となる緊急避妊薬へのアクセスも難しい状況です。自らの妊娠を前に彼女たちが人生の選択肢を奪われることなく、主体的に生きられる社会をつくるために私たちの活動があると考えています。
<おひさまプロジェクトの流れ>
mySDG編集部:望まぬ妊娠の原因をさらに掘り下げると、例えばパートナーに対して避妊具をつけてほしいと言えなかったというケースもあるかと思います。パートナーに嫌われてしまうかもという恐れだったり、自分は相手にとって性行為以外に価値がないという自己肯定感の低さだったり。そういったより内面的な課題を抱えている場合は、いくら避妊が大切だとわかっていても行動が伴わず、同じ過ちをおかしてしまうかもしれません。
鶴田さん:私たちもそういった課題を理解しているからこそ、まずは医療を介した対面支援の必要性を訴えていけたらと考えています。おひさまプロジェクトをきっかけに実際にクリニックに足を運び、適切な処置を受けたり悩みを聞いてもらったりすることでまずは対面支援の存在や意義を知ってほしいなと。困ったときに頼れる大人がいること、安心して助けを求められる場所があることを伝えていくことも、おひさまプロジェクトが担う重要な役割です。
mySDG編集部:周りの大人といえば、親か先生しかいないという若者にとっては、気軽に相談できる信頼できる大人の存在は貴重です。
鶴田さん:そうですよね。そのなかでも彼女たちにとっては、知っている大人の言うことがやはり重要なんです。だから私たちはまず「知っている大人」になる。そこから裾野を広げていくために、YouTube発信も構想しているところです。現状YouTubeには性教育に関するさまざまなチャンネルが存在します。その中でもソウレッジとしては産婦人科の知識を持ちながらユースワーカーとして、親や先生とは違う大人との「ナナメの関係」を築けるような発信を行っていきたいと考えています。
■国の制度として「緊急避妊薬の無償化」を実現
mySDG編集部:最後に今後チャレンジしていきたいことなど、この先の展望について教えてください。
鶴田さん:一つは緊急避妊薬の実質無償化を目指した政策提言を行なっていくことです。現在はそのための具体的な方法を模索しているところですが、前例がないという意味で、非常にハードルが高い状況です。例えば感染症の予防薬あれば無償化の道筋はありますが、妊娠は病気ではないため保険適用にはならず、保険という枠に入れられません。保険適用を進めるとなると、医療機関や製薬会社が負う部分も増大し、さらにハードルが高くなります。例えば「困難な問題を抱える女性支援推進等事業」の枠内で提案するなど、色んな形で試行錯誤しながら、国の制度として緊急避妊薬の無償化を目指しているところです。
二つ目は、従来のユースクリニックの形式を相談しやすい形に変えていくことです。ユースクリニックは以前に比べ数は増えていますが、来訪者が少ない点などさまざまな課題が挙げられます。子どもたちも興味がないわけじゃないけれど、やはり足を運ぶことへのハードルが高いわけです。となると、ハードルを下げていくために既存のやり方とは異なる方法で実践していく必要があるのかなと。そこで今考えているのが、バーチャルユースクリニックです。バーチャルな場で、自分の顔も名前も出さないけれど、性にまつわる不安を解消できるというアプローチの仕方は、若者にとっては価値のある方法なのではと感じています。
三つ目は、日本における避妊方法の選択肢を広げていくこと。日本ではコンドームやピルといった限られた選択肢しかなく、一方海外ではさまざまな避妊方法が開発されています。現状日本においては、避妊にまつわる最新の取り組みがなされていないため、今後は海外での事例を取り入れながら、新しい避妊方法を提案していきたいと考えています。
mySDG編集部:日本では、性をタブー視しやすい社会的価値観が障壁ともなり、性に関する課題解決がいまだ遅れている状況です。そんな中で、おひさまプロジェクトは女性たちが自らの身体、そして人生に対して主体的な選択ができるよう下支えする貴重な取り組みだとあらためて感じました。鶴田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
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