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【取材記事】スリランカの有機紅茶とスパイスのフェアトレードで、人々の心と生活に「豊かさと温もり」を届け続ける―人と人が国境を越えて助け合い、支え合うことで、持続可能な対等な関係性を築く―

特定非営利活動法人パルシックは、地球の各地で暮らす人と人が、国家の壁を越えて助け合いと支え合いをしながら、対等な関係性を築き上げる取り組みをしています。国際協力とフェアトレードを活動の軸とし、現地の方たちが農業や加工食品などで安心して生計を立てられるようサポートをしています。今回のオンラインインタビューは、主にスリランカの有機紅茶とスパイス、東ティモールのコーヒーのフェアトレードにまつわることを中心に伺いました。

【お話を伺った方】

ロバーツ 圭子(ろばーつ けいこ)様
特定非営利活動法人パルシック・専務理事
 フェアトレード担当
東日本大震災を機に、一つひとつの選択をもっと大事に積み重ねたいと思い2011年
パルシックに入職。東京事務所でフェアトレードを担当。
特に関心があるのは、コーヒー、地域に根差したビジネス、農や食にまつわること。


■「民際(みんさい)協力」を軸に、世の中の社会と経済問題を解決する道筋を作る

シリア難民の子供たち

ロバーツさん:パルシックは、「お互いに助け合って支え合って、生きていく社会」を目指すことを理念として掲げています。私たちのNPOの特徴として、表面的な支援より、今発生している問題の根本を考え、地域住民とともに解決に少しでも近づけるような取り組みをしています。
私達は、国際協力のことを「民際(みんさい)協力」と呼んでおり、国と国との支援というよりは、人と人との支援という意味合いとして使っています。
活動地域は、主にアジアの国々です。パルシックの民際協力の考え方は、内戦や災害が起きた地域の人の命とそこにいる人たちの尊厳を守ることを最優先としています。食料品や衣料品の配布、緊急支援として物資を配布します。緊急事態を過ぎた後の復興期においては、生計支援をしています。内戦や災害の被害に遭った人たちの生計の立て方や課題点を一緒に考えていき、それに則った支援を行っています。

生計を支援する時期が過ぎ、経済的な自立できるようになると、地域内で色々な経済循環ができてくるので、経済的な自立まで視野に入れながら常に活動している点が弊団体としての特徴です。これに関しては、パルシックが実施するフェアトレード事業にも繋がります。
また「民際教育」事業も行っています。たとえば、日本の大学生が、マレーシアなどの私たちの活動地に行き、英語の勉強しながら、多様な民族が共生するマレーシア社会や歴史のことを学んだり、環境問題について現地の学生と一緒にボランティア活動に取り組んだりしながら学ぶプログラムを設けています。
ほかにも日本国内では東京都葛飾区でコミュニティカフェや子ども食堂の運営も行っています。
2021年の5月にイスラエルとパレスチナの11日間戦争があり、私たちの活動地の一つであるパレスチナのガザ地区で大きな被害が出ました。パルシックはその直後に緊急支援として、被災して販路をなくした農家さんから野菜や鶏肉を買い取って、食品の組み合わせバスケットとして被災した一般の市民の方々に配布しました。ただ単に食料品を色々なところから集めて送る、差し上げるのではなく、「販路をなくした人たちの収入を支える」ことも大切に考え緊急支援を行いました。さらに、空爆で働く場所を失った人たちなどを雇用し、損壊した畑や灌漑施設などを修復していただきました。これは緊急時だけの一時的な支援ではなく、その先の経済的な自立支援につなげたいという想いがあります。

■有機栽培の紅茶づくりをグループ単位で管理することで安定した生活サイクルを見出す

茶葉回収の様子

ロバーツさん:スリランカのフェアトレード活動として主には紅茶の事業をしています。その他、ブラックペッパー、民族衣料のサリーの古着をアップサイクルして作ったエコバッグなども輸入しています。紅茶やブラックペッパーは、スリランカの南部デニヤヤという地域でつくられています。

一般的な紅茶のプランテーションは、企業が経営し、労働者を雇っています。単一作物で茶木を育て、多量の農薬か化学肥料が使われていることが多く、の土壌は疲弊しています。一方で、私たちが一緒に活動しているデニヤヤの紅茶農家さんたちの茶畑は、茶以外の、パイナップルとかブラックペッパーなどの色々な植物が一緒に植わってます。一見して畑の中に茶木がどこにあるかわからない感じですね。企業が運営する茶園に対して、こちらは家族で経営され、面積が0.25ヘクタールくらいの小さめの畑で茶を育てています。

MySDG編集部:(オンラインの画像を見て)ブラックペッパーは、日本の山椒みたいですね。

ロバーツさん:確かにそうですね。私たちが取り組んでいるのが紅茶の有機栽培の転換を支えるプロジェクトです。元々、農薬を使って紅茶作りをしていた人たちが、「農薬を使わない紅茶にしたい」という声が挙がったのが、このプロジェクトの始まりでした。紅茶農家の方が、従来の化学肥料や農薬を使った紅茶の作り方が持続的でないと感じており、農薬が含まれている自分の畑に子どもが自由に素足や手で触れられないという声がありました。このようなきっかけで、有機栽培の農業に挑戦することになりました。

スリランカ国内で栽培された紅茶は、基本的に国営のオークションを通して販売されます。実はデニヤヤのある地域のルフナ紅茶はこのオークションで最も高い価格をつけています。ルフナ紅茶の主な販売先はロシアと中東ですが、輸出先の政治や経済的な不安定によって、価格が安定しないなどの問題がありました。有機栽培の紅茶を作って、「付加価値のある紅茶作り」をして収入を向上させたいという声が挙がっています。

ただ、農薬を使用していた茶畑を有機栽培に転換して、有機の紅茶として出荷するまでには少なくとも、3年間かかります。転換して最初の3年間は「有機紅茶」としてではなく、普通の紅茶として売らなければならないからです。転換の手間やコストなどによって、収穫量が減ったうえ、有機の価格では販売できないため、最初の何年間かは、収入が減ってしまいます。

この有機転換プロジェクトでパルシックが最初に取り組んだことは農家さんたちのグループ化でした。「有機転換に挑戦したい!」と考えている農家さんたちが集まり、最初の年の2011年は25世帯ではじまり、現在は約85世帯が加入しています。
エクサ(エクサ・カーボニッカ・テー・ワガーカラワンゲ・サンガマヤ ※シンハラ語で「有機茶栽培農家協働グループ」を意味する)」という共同出荷グループとして活動を続けています。パルシックはまず、エクサの農家さんたち各世帯へ、牛を配り、牛の糞を堆肥化して、肥料として使えるようにしました。
その後、牛の世話を行うことが難しい世帯やエクサのメンバー以外も堆肥を使用できるようにと、コンポストセンター作りました。コンポストを作る過程で液肥が出るので、その液肥を活かしてバイオガスプラント(※家畜の糞尿などの有機性廃棄物を嫌気性微生物の働きによってメタン発酵させ、メタンガスにし、エネルギー化する施設)にして、みんなが休憩するところに電気を設けています。牛からは牛乳が得られるので、子どもの栄養改善や収入にも繋がっています。

グループ単位の活動では、茶葉の回収を一緒に行っています。それぞれの農家が茶葉を出荷して販売すると、経済効率が悪いため、グループで「有機紅茶」として出荷しています。茶葉の回収車で回収し、外部の紅茶の加工場で加工したものを、パルシックが輸入する流れとなっています。

MySDG編集部:今ある資源をすぐフル活用して、体にも良く、心の豊かさも満たす流れだと思いました。

■農家の収入を上げるために紅茶と並行して、気候変動に強い胡椒の栽培にも注力する

胡椒の実

ロバーツさん:元々環境意識の強い農家の方たちだったので、普及啓発活動もしています。たとえば、近隣の小学生にコンポストやオーガニックのことを教えています。またモデル地域として、国内の農業従事者が農業の様子を見学しにきたりすることがあります。エコツーリズムとして事業化もしており、収入につなげています。国内外の観光客が主な対象で、フランス人の旅行グループは定期的に来てくれます。

紅茶以外の事業を採り入れている背景には、茶栽培からの収入が十分に上がっていないという課題があります。理由としては、茶の収穫量が上がっていないためです。有機転換をして紅茶の単価が上がっても、収穫量が以前よりも大きく下がったままだと、最終的に得られる収入は上がっていません。ほかにも農薬を使わない分、草むしりやコンポストを蒔くといった手間がかなりかかる割には収入が増えていないのが現実です。

収穫量が増えない大きな理由としては、近年の気候変動の影響です。この3、4年は豪雨や干ばつを繰り返しており、有機栽培に関わらず、地域全体で紅茶の収穫量が下がっています。生産性を上げるために、パルシックでは堆肥の効果的な撒き方などを専門家に教えてもらい、スタッフが畑をまわり農家の方々と一緒に生育具合を確認するなどの活動を続けています。それとともに、エコツーリズムも一つですが「どうしたら紅茶以外からも収入を得られるか」と考えています。ほかにも有機認証を取っている畑で作られる、胡椒やパイナップルなどの果物、野菜を「有機農作物」として市場に出す取り組みをしています。

日本のパルシックは、胡椒を商品化して新たなフェアトレード商品として輸入して販売し、エクサの収入にもつなげようとしています。紅茶の生産量を上げることを目指すと同時に、収入を増やすためにはどうしたら良いかということを一緒に考えながら活動しています。

MySDG編集部:胡椒は気候変動に強いものなのでしょうか?

ロバーツさん:通年栽培ができ、保存が長く効くという意味では、気候が安定しない中での安定収入に寄与すると言えます。紅茶の畑の中でよく見る胡椒の木は、有機の紅茶栽培にかかせない大事な日陰樹が巻きついていて、細い日陰樹をサポートする役割があります。有機の茶畑は農薬や化学肥料を使わない代わりに、生物多様性が保たれ色々な微生物が土壌を豊かにしてくれます。また、土壌の窒素を固定する植物や虫を寄せ付けない花を植えるなどしています。

MySDG編集部:忌避作用ですね。

■スタッフの一途な取り組みが国を越えて共感を呼び寄せる

スリランカ被災者物資配布 

ロバーツさん:一般的に、フェアトレードの取引では、紅茶そのものの代金に加え、「ソーシャルプレミアム」というお金を別途支払います。例えば紅茶1キロのお金に対して0.5USドルを茶葉代に上乗せします。年間で大体5,000キロぐらいの茶葉量を輸入しますので、結構なお金になります。このお金は農家さん個人へ支払われるのではなく、グループとして受け取り、自分たちの地域を良くするために、自分たちで使い道を決めて使いましょうというものです。
パルシックが一緒に活動をしているエクサグループは、このソーシャルプレミアムを貯めて地域のコミュニティセンターを作ろうとお金を貯めていました。しかし貯めている最中に2019年11月にスリランカの南部で豪雨が発生し、たくさんの家が流されて、死者がたくさん出ました。

エクサのメンバーは、地域のコミュニティセンター開設のためにこれまで貯めてきたお金を災害支援に充てることを決め、地域の住民に生活必需品や食品、寝具マットなどを色々なものを買って配りました。これによってエクサの活動が知れ渡るようになり、地域のためにとても役に立ちました。

このエピソードには後日談があります。現地の災害支援のために貯めていたソーシャルプレミアムを使った話を、日本のパルシックのお客様にしたところ「募金をするよ」と声をかけて下さり、結局、そのご寄付でエクサが支払った災害支援のお金を補填でき、コミュニティホールの開設資金は予定通りに使うことができたのです。日本の消費者と現地の生産者が「密」につながっていることが実感できました。

「フェアトレードっていうのはどういうものですか?」と、私たちはよく聞かれます。自問を続けながら活動をしていますが、基本的に社会の様々な課題をビジネスで解決する方法だと思っています。先ほどの紅茶のお話からも伝わっていると良いのですが、地域社会との結びつきや、私達と生産者、消費者と生産者の長期的なパートナーシップ、社会と環境が良くなるための環境に配慮した商品を作ることが大事だと実感しています。

例えば、先ほどお話をした豪雨災害で配布したものの中に文房具がありました。文房具であれば教育に絡んできます、そしてパルシックの活動では「女性のエンパワーメント」を重視しています。ですので、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」も関わってきます。また目標15番「陸の豊かさも守ろう」は、目標14番「海の豊かさを守ろう」にもつながり、さらにこの2つの目標は13番「気候変動に具体的な対策を」にもつながります。パルシックの全部の活動を通して見ると、ほとんどのSDGsの目標を網羅していると思っています。

■フェアトレードで支え合いながら、日本の食卓に「幸せ」を届け続けたい

スリランカ紅茶農家

MySDG編集部:パルシックさんは、立ち上げから15年が経つので、SDGsが世の中で話題になるまで色々な活動されていらしたことでしょう。コロナ前とコロナ禍の今と比べて、これまでやっていた活動ができなくなり、新しい思考回路で展開しなくてはいけないときもあったかと思います。
実際、コロナ感染拡大の影響で渡航制限がまだありますが、このような状況のなかで、活動を続けられた秘訣を教えていただいてもよろしいですか。

ロバーツさん:幸いにも、コロナ前に培ってきた関係性が色々なシーンで大いに役に立っています。人が行き来できなくてもモノが行き来できるので、良い関係性を継続できています。

MySDG編集部:やはりコロナ前に培ったつながりが、緊急事態で大変なときに活かされていますね。スリランカのことを含めて、パルシックさんで何か具体的に考えていることはありますか。

ロバーツさん:フェアトレードの商品の場合、コロナ禍での皆さんの生活様式が変わったことで買い物に対する考えと地域に対する考えが変わったと感じます。私たちがスリランカでやっていることが、日本国内の色々な地域とつながり、お互いに支え合うことが何かの「学び」になると良いと思います。
コロナ前は東ティモールやシリア難民支援などの活動地のリアルな様子をどう伝えようと悩んでいましたが、コロナ禍で現地とオンラインでつなげることが普通になり、国境を越えて、日本の人々へ直接メッセージを伝えることができるようになりました。パレスチナの空爆のときには、現地スタッフがオンラインを通じて外で空爆の音がする中、どのようにして自分の子どもと過ごしているかという実体験やメッセージを即座に日本に向けて発信してくれました。世界中の問題を「自分事」として捉えられるよう、広報活動を通して、直接考えていただける機会に繋げていきたいです。
またコロナ禍で私たちが気づかされたことの一つに、活動地の持つ「しなやかさ」です。

私たちは東ティモールでコーヒーの事業をしていますが、「普段から支え合って生きることが当たり前」だったので、コロナ禍のマイナスの影響をあまり受けなかったそうです。仕事が無くなってしまった人がいたら、地域の人たちが「それならうちに来て、手伝って」と自然と声をかけていたとか。

MySDG編集部:昔の日本のご近所さんの助け合いの関係と似ていますね。
ロバーツさん:今どきの言葉で言い換えるなら「レジリエンス(※困難および危機的な状況でもうまく適応するという意味合い)」ですね。

MySDG編集部:スリランカは今、経済危機で大変な状況だと聞いています。

ロバーツさん:課題はたくさんありますが、私たちができることの一つは、スリランカの美味しい紅茶とスパイスを皆さんの食卓にお届けし、日常の「幸せ」へとつなげたいですね。フェアトレードによって、楽しくて、かつ美味しいことを見つけながら、社会全体が良くなってほしいと願っています。

MySDG編集部:ありがとうございました。

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