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【取材記事】燃焼灰を原料にゼオライトを開発 元素単位のリサイクルで全ての資源が蘇る循環型社会へ

株式会FKGコーポレーションは、火力発電所から排出された焼却灰を原料とする機能性人工石の製造・販売をしている会社です。通常であれば廃棄される焼却灰を再利用し、さまざまな製品を作る取り組みを開始しました。SDGsに大きく貢献する同社は、園芸・農業に利用される資材ゼオライト「ADSITE(アドサイト)」を開発し、世界初の技術で特許を取っています。さらに、“元素のリサイクル”をキーワードに多岐に渡る応用を検討中。今回は、開発の経緯や製品の特長、困難や今後の目標などについて、ADSITE開発技術者を務める奴留湯様にお話を伺いました。

【お話を伺った方】

奴留湯 誉幸(ぬるゆ たかゆき)様
株式会社FKGコーポレーション 商品開発 開発技術部 部長

山口大学大学院機能材料工学を卒業。半導体やベンチャーで設計・開発を手掛けながら、
熊本大学大学院MOT(技術経営)コースでアントレプレナーや経営を学ぶ。
その頃FKGコーポレーションと出会い、燃焼灰からゼオライトが作れることを知り、ゼオライトのマーケティングから製品・プロセス開発まで従事。
農業の土づくりの大切さを知り、土づくりマスター(土壌医検定2級)となる。現在、熊本大学大学院博士後期課程に在学しながら様々な社内ベンチャーを立ち上げている。


■行き場のない「燃焼灰」から新たなる有価物質、ゼオライトを開発


mySDG編集部:御社のご紹介からお願いします。

奴留湯さん:弊社FKGコーポレーションは灰を使って廃棄物から有価物質をつくるというビジョンを掲げ、産業廃棄物の燃焼灰から機能性人工石(お陰石)を作る事業を行っています。道路に敷く路盤材や盛土などに製品化しています。また、お陰石を造るためのDX,IoTを取り込んだRUSシステムを開発し全国展開しています。

弊社の所在地である熊本や九州には火力発電所が沢山あります。国内の発電所では、燃焼灰の約83%は資源リサイクルでセメントなどに再利用されるのですが、約13%にあたる約1,560千トンが未利用分として最終処分場へ持ち込まれ、埋め立てられます。しかし、最終処分場はとても逼迫していて、このまま埋め立て処分を続けることは難しい。埋立処分には限界がある上、環境を破壊する一助にもなってしまうので、まだリサイクルできてない部分に対して我々が取り組んでいるということですね。

mySDG編集部:土壌改良材のゼオライト製品「ADSITE(アドサイト)」開発経緯をお願いします。

奴留湯さん:会社として、将来を見据え、より高付加価値な事業を求めていた側面もあり、新規事業プロジェクトが立ち上げられました。
灰からゼオライトが作れることは、20年ほど前の論文発表で知っていたのですが、割高な生産コストが原因で世の中に広まっていないのではないかと考え、いかにローコストで製品化できるかを起点に研究開発、技術開発を始めました。

新しいプロセスを開発ができた時点で、農業分野の土づくりに課題があるということを知り、灰から作ったゼオライトが土づくりの課題解決に結びついたことが「ADSITE」開発の経緯です。

アドサイトロゴ

mySDG編集部:初めから農業の土づくりを目的としたゼオライトの開発ではなかったんですね。

奴留湯さん:ええ。ゼオライト自体が、さまざまな分野で役に立つことを知り、面白さを見出したので、開発に取り組むことにしました。
最初はいろいろな企画を10〜20個ほど考えました。以前にゼオライト担持触媒の研究経験があり、空気洗浄機や水質を綺麗にする浄水器、養殖業の課題解決など、いろいろあったんですよ。一時期はエビの養殖を検討したり、PM2.5を分解して空気を綺麗にする空気清浄機の開発を検討しました。その中でも直近に課題があるのは“農業の土”だと見えてきたので、進めることにしたんです。

mySDG編集部:全て燃焼灰を原材料に作ることが可能なんですか?

奴留湯さん:可能ですね。ゼオライトに違う元素を加えると触媒機能ができるので、空気浄化ができるんです。エビ養殖では、密集して飼育するために、エビの排泄物を原因として毒素が発生してしまうのですが、この毒素の吸着に使えます。さらに実験で実証済みなのはホルムアルデヒドの吸着です。新築の家や家具の接着剤などに含まれる物質で、シックハウス症候群などの原因にもなる物質ですが、ゼオライトを元にして吸着剤を作ることが可能です。

mySDG編集部:さまざまなことに応用が可能ですね。今回開発したゼオライトの特長はどんなところにあるのですか?

奴留湯さん:「ADSITE」にも共通する特長ですが、ゼオライト骨格の一つ一つに、ポケットが沢山あり、そこに栄養分を吸着させて再び放出することができます。そうすると、土の中にある栄養を蓄えることができるので、開発ではこのポケットを作ることが必要なんです。

灰にはケイ素やアルミニウム、酸素、カルシウムなどのゼオライトを作るために必要な元素が含まれていて、反応を増やしつつ、元素をうまく組み合わせると、ポケットを持ったゼオライトに変化します。

この工程に今までは時間と熱エネルギーがかなり必要だったんですよ。今回の開発で、時間短縮と加熱温度100℃以下の製法が可能になり、コストダウンにつながりました。この製法で作ったのは我々が初めてで、特許も取りました。

■土壌の自然循環を取り戻し、環境保護も担う「ADSITE」シリーズ


燃焼灰が原料のゼオライト「ADSITE」シリーズ

mySDG編集部:そもそも、通常の園芸や野菜作りに使う資材のゼオライトは何からできてるんですか?

奴留湯さん:ゼオライトは鉱物なので山を削り、採掘しているんです。日本では4ヶ所ほどゼオライトが採掘できる山がありますが、国内供給のみでは足りず、中国輸入が大半を占めています。山を削ることは森林を破壊する環境問題も抱えてるので、燃焼灰からゼオライトができれば、環境保護にもつながります。

mySDG編集部:ゼオライト製品の「ADSITE」を畑で使うとどんなメリットがあるんですか?

奴留湯さん:肥料を土にまくと、養分を「ADSITE」が捕まえてゆっくり放出するので、散布回数を減らすことができ、購入費も抑えられます。

20年ほど前から化学肥料を使い始めた農家さんでは、年々少しづつ土が劣化し、収率も悪くなるという話を伺いました。その調査と実証実験をした結果、化学肥料は水に溶けやすいため、大量かつ一気に水に溶けてしまいます。
植物が吸いきれなかった肥料が水やりのたび土の下へ下へと流れ、根があるところよりずっと下に押しやられてしまって、地下水まで流れ出し、汚染につながるとも言われています。
しかし、「ADSITE」を土に混ぜておくと、植物が吸いきれなかった養分を根の近くの地中にとどめてくれます。

本来、土には微生物や細菌がいて、有機肥料成分を作物が吸収しやすいように分解する仕事をしてくれるのですが、化学肥料を使いすぎると豊富にいた微生物が働かなくても良くなり、微生物の種類が単調になります。そこに悪い病原菌が侵入すると病気や連作障害を起こしやすくなります。
「ADSITE」を土に入れると、植物が吸収できないアンモニアなどをポケットに入れることができ、微生物や細菌がアンモニアを分解し、作物に必要なチッソ肥料、硝酸態窒素などに変えてくれるので植物が吸収しやすくなります。

こうして微生物が働ける環境になると微生物の種類も増え、悪い病原菌は増えにくくなります。実験を重ねてデータを集めると、このような傾向が確認できました。

ADSITE(アドサイト)の仕組み

mySDG編集部:植物の成長実験では、イチゴが大きく育ち美味しくなる、大葉も大きく育つなどの結果も現れているんですね。今回リリースした3種類の「ADSITE」の違いを教えてください。

奴留湯さん:ゼオライトのポケットに入っている元素の種類がそれぞれ異なります。カルシウムを加えたADSITE CAと、マグネシウムを加えたADSITE MG、何も入れずポケットが空いている状態のADSITE FE、の3種類です。それぞれで違った働きをするのですが、ADSITE CAを土の中に入れると土の中にあるチッソの肥料がポケットに入ってきます。すると、もともと入れておいたカルシウムが土の中に出ていきます。ADSITE FEはポケットが空いていて、リン酸をポケットに入れやすくなっています。

mySDG編集部:なぜ、ポケットに入れる栄養素をカルシウムとマグネシウムにしたんですか?

奴留湯さん:農業をしている土に豊富に含まれる栄養素はカリウムとチッソなんですよ。有り余る状態で過剰に土に含まれているんです。カルシウムとマグネシウムは少ない傾向にあります。豊富にある栄養素はさらに入れるのではなく、ゼオライトのポケットに一旦捕まえておく方がいいですからね。

mySDG編集部:栄養のバランスが崩れてしまった土を正常に戻す手助けをするんですね。

■ごみや廃棄物は元素のかたまり、再び循環可能な地球資源


mySDG編集部:今後の目標や展望はありますか?

奴留湯さん:直近の目標としては、まずは家庭菜園向けにリリースをしましたので、月200キロの販売を目指しています。今後「ADSITE PRO(アドサイト・プロ)」という形で、農家さん向けに1、2年後のリリースを目指します。
国内自給率の向上を最終目標にするには、農家さんの土壌を良質なものにしていかないと実現しないと思うんです。今後も燃焼灰を扱う我々なりの手助けをしていきたいと思っています。
そして、ゆくゆくは世界の食糧不足にも貢献したい。現在8億もの人が飢餓状態にいますし、世界の人口が100億人になるとき、我々の技術で貢献したいと思っています。
砂漠やサバンナ地域の作物の栽培に「ADSITE」が使えないかとも考えていますし、日本のジェイカム・アグリ株式会社さんはNASAと協力して宇宙ステーションの中で野菜を種から栽培をする実験を行っています。我々も火星の土から「ADSITE」をつくり、宇宙ステーションの中で野菜を栽培する土にできたらなどと考えています。

地球資源の循環の図

mySDG編集部:世の中に伝えたいメッセージはありますか?

奴留湯さん:弊社は廃棄物から有価物を作る事業がベースですが、あらゆることに弊社の理念は当てはまると思います。人間は地球からあらゆる原料を取り出して組み合わせ、鉄や車をつくり豊かに発展しています。そして不要になると捨て、ごみや廃棄物と呼ぶ。

しかし、技術開発者目線で見ると、車やパソコンなどの便利な道具だろうと、廃棄物と呼ばれるものだろうと、地球から生まれた元素は元素のまま、その形態が変化しただけだと思っています。ごみや廃棄物はいらないものと捉え、燃やしたり埋め立てたりしますが、そうではなく「違うものに作り変えればいい」じゃないかと。
私は廃棄物やごみという言葉を、世の中からなくすことを目指しています。

この考えは、以前に一度仕事を失ったことをきっかけに、自らを振り返ることで自分の興味関心に改めて気付いたからなんです。
以前は半導体や透明液晶ディスプレイを作っていて、全く違う分野の仕事をしていました。創業10年目くらいの透明液晶ディスプレイのスタートアップ企業にいたときに、その会社がなくなってしまったんです。

次の仕事について考えたときに、そういえば、子どもの頃から地球環境に興味があって、いろいろと考えを巡らせていたことを思い出しました。だから専攻も環境触媒の材料工学科に行ったんだと。それであれば、次は環境を改善する仕事をしたいと思ったんです。

最先端の分野でずっと走っていたのに、突然無職になって立ち止まると、もう一度自分の関心や考えが見えてきて「元素は元素、形態が変化しただけ」という考えが根底にあったことを思い出したんです。それで今のリサイクル事業を選び、地球環境に対しての取り組みをしているということです。

mySDG編集部:ごみも再び循環する資源と捉えられたら、廃棄物という言葉はきっとなくなりますね。本日は素晴らしいお話をありがとうございました。


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