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【取材記事】地元の記憶がよみがえる「琥珀」に新しい歴史を生み出す。地球と人間の共存をコンセプトに、9000万年前の輝きに光を当てる

「人と有限資源のより良い関係価値」をミッションに、植物由来の宝石「琥珀」に特化したジュエリーブランド『Plant Origin Jewelry(プラント オリジン ジュエリー)』を展開する「株式会社ten-sen(以下、ten-sen)」。国内における琥珀の最大産出地である岩手県久慈市を拠点に、日本最大の琥珀専門企業「久慈琥珀株式会社」と協業し、琥珀ジュエリーのあらたな魅力や価値を発信しています。
今回はten-senの代表・菅野舞雪さんに創業の経緯や、リリースしたばかりの「90MM」のブランドコンセプトについてお伺いしました。

お話を伺った方

菅野舞雪(かんの まゆき)様
株式会社ten-sen 代表取締役
岩手県久慈市出身。東京女子大学在学卒業後、新卒で株式会社CRAZYに入社。
ディレクター、プロデューサーとしてオーダーメイドのウエディングをメインに担当。
地元久慈市を拠点に「人と有限資源のより良い関係価値」をミッションに掲げ、
2021年に株式会社ten-senを創業。


コロナ禍という環境の変化が故郷の「琥珀」を見直す機会に。東日本大震災10年目をきっかけに地元への新たな貢献のカタチを発見

mySDG編集部:菅野さんは、前職ではウェディングプロデューサーをされていらっしゃったんですよね。2021年7月にten-senを立ち上げるわけですが、創業に至る直接的なきっかけを教えてください。

菅野さん:一つはコロナ禍という環境の変化と、もう一つは2021年に東日本大震災から10年目を迎えたことですね。この2つが後押しになりました。

mySDG編集部:コロナ禍が後押しになったというのは、具体的にどういった要因ですか?

菅野さん:コロナの影響でウェディングの仕事が減ってしまったこともあり、仕事について冷静に考えるきっかけになりました。キャリアの見直しが必要だと感じたタイミングでもありましたね。さらにten-senを登記した2021年は、地元である岩手県久慈市も被災した東日本大震災から10年目の年でもありました。地元の久慈市のために貢献したいと思っても、コロナ禍で帰省はもちろん、観光客の誘致もできない状況でした。そんなときだからこそ、地域に根ざした起業というカタチであらたな地域貢献ができるんじゃないかと思ったんです。

岩手県野田村の海岸
Photo by Ryo Kawano from hyogen

mySDG編集部:岩手県久慈市が琥珀で有名だったとは、存じ上げませんでした。地元の魅力はその土地を離れてようやく気付く……なんてことも多いのですが、幼少期の菅野さんにとって琥珀はどんな存在でしたか?

菅野さん:物心ついた頃から、母や祖母が身に付けていた装飾品といえば、「琥珀」といった感じでしたね。存在が身近すぎて、そもそも久慈市が日本における琥珀の最大産地であることさえ知りませんでした。ただ、大人になったら、祖母から母へ、母から自分へ、琥珀の装飾品が引き継がれてくるんだろうなとぼんやりと考えていた程度でしたね。

mySDG編集部:ten-senの琥珀ジュエリーは非常に洗練されていて、これまで抱いていた印象がガラリと変わりました。琥珀はどちらかというと、年配の方が身に付ける印象だったのですが、その点はいかがでしょうか?

菅野さん:ありがとうございます。おっしゃる通りで、お取引先の久慈琥珀株式会社さんにお客様の年齢層を伺ったところ、50代〜70代くらいの方がやはり多いとおっしゃられていました。その中でより若い世代へと琥珀を広げていこうと、新しいブランド展開や商品開発へと力を入れていらっしゃるようでした。

mySDG編集部:こんなに素敵な琥珀ジュエリーが、完全なる植物由来で製作されていたとは……。もっと早く知りたかったです!

菅野さん:ありがとうございます。私自身が自然豊かな場所で育ったこともあり、自然はとても身近なものです。東京にいても自然を身近に感じられるように、琥珀が“いつもそばにある自然”として、その役割を果たしてくれるのではないかと思いました。

日本文化のサステナビリティに感銘を受ける。琥珀を「消費」するのではなく、「共存」していく関係を見出す

天然の琥珀原石
Photo by Ryo Kawano from hyogen

mySDG編集部:職人の高齢化などの事情により、消えゆく日本の技術がある中で、菅野さんも琥珀文化を残していきたいという強い思いがあったのでしょうか?

菅野さん:昔から特定の地域で事業を続けることは、現地の環境との共存方法を考えなければならない厳しさがあるのだなとつくづく感じることがあります。
その土地にある限られた資源の中で、どのように自分たちの事業や生活を持続させていくのかを、ちゃんと考えなければならないのだと。特定の地域で小規模ながら、長く続いている会社は、「SDGs」や「エコ」という言葉が生まれるずっと以前から、環境と持続可能を取り入れて経営してきたのだと思います。そうした日本の伝統文化や事業には学ぶべきものがたくさんあるはずです。ten-senの創業の背景にはそんな、地域がすでに持っている「限られた資源との持続的な関係性」があります。

採掘した琥珀
Photo by Ryo Kawano from hyogen

mySDG編集部:ちなみに琥珀は採掘しすぎると、とれなくなることがあるのですか?

菅野さん:ありえます。例えば、琥珀と同じように地中にある金やダイヤは、市場に流通するスピードが速すぎるので、あと数十年で枯渇する可能性があると言われています。琥珀も木の樹脂が琥珀になるまで数千万年から数億年かかるので、あまりにも消費スピードが早いとなくなってしまう可能性は大いにあります。
それもあって、岩手県久慈市の久慈琥珀株式会社では、年間採掘量の目安を決め、作業には機械を入れず、手掘りで行っています。
また、久慈産琥珀は他の産地の琥珀よりも古く希少価値は高いものの、その分脆く、採掘してもそのまま商品化できるのが全体の3割程度と言われています。そこで、残り7割の小さな琥珀のかけらも余すことなく使えるように開発されたのが、リファインドアンバーという久慈琥珀株式会社の特許技術です。
当社でもこの「リファインドアンバー」素材だけを使用することで、琥珀の消費を加速させないよう考えています。

mySDG編集部:バランスが大事ですね。

菅野さん:一方で、なくなってしまうからと、琥珀を採掘せずに地中に埋めておくことも違うと感じています。人が磨いて初めて、琥珀は琥珀として輝きます。その琥珀を身に付けることで、人間は植物由来の心地よさや、美しいと思える感動を琥珀からもらえます。琥珀の価値が人により引き出され、琥珀により人も感動をもらうことができる——。お互いにとって良い影響を与え合う形で共存することこそが、ten-senの目指す人と資源の理想の関係性です。

「長い時間をかけて作られた琥珀を、長い時間をかけて愛する」がコンセプト。9,000万年の時間が生み出す価値を提供

Photo by Yusuke Yamamoto

mySDG編集部:今回リリースされた「90MM」のブランドコンセプトを教えてください。

菅野さん:「90MM」のコンセプト、『Plant Origin Jewelry』は、長い時間をかけて植物が宝石へと姿を変えた琥珀への敬意を込めています。長い時間をかけて作られた琥珀だからこそを、一時的な消費ではなく、例えば世代を超えて受け継いでいってもらえるような、時間をかけて大切にしたくなるものづくりを大切にしています。

mySDG編集部:「90MM」のブランドネームの由来を教えてください。

菅野さん:90MMとは英語で「9000万」を意味する「ナインティミリオン」の略です。約9,000年前を起源とする久慈産琥珀は、宝飾品用琥珀としては世界的にも、最も古いとされています。
そんな、希少価値が高い9000万年前の琥珀が算出される久慈市発のブランドだということと、“時間が作る価値”を示すために「90MM」と名づけました。

Photo by Yusuke Yamamoto

mySDG編集部:デザインや商品の特徴を教えていただけますか?

菅野さん:琥珀は世界でも唯一とされる植物性の宝石なので、直接肌に触れた時の心地よさが魅力です。その感覚を感じてもらうために、琥珀部分が直接肌に触れるようデザインしました。ペンダントや指輪など、一般的に台座には金具を用いているデザインが多いアイテムも、「90MM」は、琥珀の中心に金を通すデザインにすることで、肌に琥珀が触れるデザインを実現しています。

Photo by Ryo Kawano from hyogen

菅野さん:もう一つ、「90MM」で使用している琥珀は全て「リファインドアンバー」という素材を採用しています。リファインドアンバーとは、前述の通り久慈産琥珀株式会社によって、小さな琥珀も余すことなく使えるよう開発されたの特許技術です。精製の過程で不純物を取り除き、琥珀の純度を100%にまで高め、天然の久慈産琥珀では困難なサイズや成形の量産を可能にしています。
さらに、金具に関しては、全てK18だけを使っています。リユースする時には、金を溶かして新たな形に生まれ変わらせることができますし、万が一、ジュエリーを手放す時でもジュエリーに価値が残り、安易に捨てられることも防げます。購入後の価値ある再利用を考えて、K18のみを使っています。

琥珀のイメージをアップデート!琥珀といえば「90MM」の新定番を目指す

mySDG編集部:2022年5月には表参道で、6月には銀座でショールームを出されたそうですが、反響はいかがでしたか?

菅野さん:思った以上にたくさんの方に来ていただきましたし、想像より多くの方に実際にご購入いただけました。
来店されたお客様からは、「琥珀自体の見方が変わった」「琥珀ってこんなに素敵なんだ」という感想をいただき、琥珀のイメージをアップデートできたように感じています。多くの方に受け入れていただけたことが、すごくうれしかったです。

mySDG編集部:価格帯などについてはいかがですか?

菅野さん:20代から30代の世代には少し背伸びする価格帯ではあります。しかし、「末永く使いたい」「娘にも譲れるようなものにしたい」というように、“一生もの”として「90MM」迎えてくださっている方も多く、価格帯にも納得いただいている印象です。

mySDG編集部:ターゲットとしては20代後半から30代くらいですか?

菅野さん:実際には、50代くらいの方も購入してくださっています。デザイン的には20代後半から40代くらいを意識して作っています。

mySDG編集部:「90MM」は、デザインがスタイリッシュで場所を選ばない印象です。オフィスでも使用でき、活用の幅がとても広いように見受けられます。特に20代30代だと、従来の琥珀アクセサリーのイメージがかなり変わるのではないでしょうか。

菅野さん:ありがとうございます! 最近は男性を含めた若い世代に「真珠」の人気が高まっていますが、琥珀にとっても追い風になるのではないかと感じています。

Photo by Yusuke Yamamoto

mySDG編集部:最後に今後の展望やブランド展開について教えてください。

菅野さん:まずは、琥珀のイメージを定着させることですね。「真珠といえば三重県」というイメージがあるように、「琥珀といえば岩手」という定番のイメージを作っていきたいです。さらに、真珠ジュエリーには人気の定番ブランドがあるように、琥珀ジュエリーといえば「90MM」となるように、久慈琥珀さんと共に魅力ある琥珀ジュエリーを手がけていきたいです。

そもそも琥珀が植物由来だと知らなかった方も多いので、琥珀と植物由来のプロダクトとのコラボレーションなどを考えています。「琥珀は植物由来」のイメージを、世の中にもっと広めていきたいですね。さらに直接的に地球にとっての良い事ができる仕組みを考えて、人間と地球が共存できる環境作りにも取り組んでいきたいです。

mySDG編集部:今後のブランド展開については、いかがですか?

菅野さん:次にリリースする予定*のアイテムは、木の化石とされる「ジェット」を使用したもので、漆黒のカラーが印象的な宝石です。実際にテストでつけてもらっている友人もいますが、男性からの評判もすごくいいんです。

*9月28日にリリース。詳細はWebサイトをご覧ください。

菅野さん:琥珀は年配の女性向けのアクセサリーの印象から、今後は若年層も買えて、かつ男性も買いたくなるデザインを手がけていきたいです。「90MM」は、年代を引き下げるのではなくて、性別を超えていくイメージですね。

mySDG編集部:まさにジェンダーレスですね!

菅野さん:そうですね。「90MM」は、女性向け・男性向けとは断定していないんです。似合う人がいたら性別関係なく買っていただけるのが理想です。次回、2022年10月12日~18日まで銀座三越 本館3階 ルプレイス前 プロモーションスペースでポップアップが決定したので、ぜひお越しください!

mySDG編集部:ブランドコンセプトもすごく素敵ですし、ファンも増えるのではないかと思いました。ポップアップにはぜひ足を運びたいです。本日は素敵なお話をありがとうございました!


日程:10月12日(水)〜18日(木)
時間:10:00〜20:00 場所:銀座三越 本館3階 ルプレイス前 プロモーションスペース
住所:東京都中央区銀座4丁目6−16
アクセス:各線「銀座駅」銀座四丁目交差点改札より徒歩1分


「ジェット」新コレクション pop up shop
90MM公式Instagram


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