研究)「潜在看護師の復職支援 5.潜在看護師の問題と対策 民間企業の取り組みと有効とされる再就職支援方法」
5.潜在看護師の問題と対策
5-4.民間企業の取り組み
現在、看護師紹介サービスを行っている企業が多く存在する。
これらの企業は、就職や転職を行う看護師の4人に1人が利用しており、
全日本病院協会の調査によると、過去3年間で紹介業者を利用した病院は7割にも達する。
基本的には「成果報酬型」というビジネスモデル(図12)(26)を取っており、
看護師の就職が決まると、初めて報酬が民間企業に支払われる。
報酬は、看護師の年収の15~25%で、看護師一人当たり約100万円程度である。
医療・介護施設にとっては、一人でも看護師が欲しい状況であり、
看護師の就職が決まるまでは費用もかからないということで、利用がしやすい。
(図12:看護師紹介ビジネスのしくみ ※2014年1月6日朝日新聞より)
その一方で、民間企業は看護師を集めなければならないため、就職が決まると祝い金が出たり、金券がもらえたりするなどインセンティブを設けている。
しかし、看護師の就職には、無料で利用できるナースセンターが存在する。
それにも拘らず、医療・介護施設が民間企業も利用するのは、看護師が民間企業のサービスを利用しているからである。
ナースセンターがあるにも拘らず、看護師が民間企業を使用する理由は、「対応時間が長いから」、
「求人の量が多く、質も高いから」、「担当アドバイザーがつくから」である。
ナースセンターは対応時間が夕方4時~5時までであるが、民間企業は夜遅くまで対応している。
また、ナースセンターは公開求人と呼ばれるものしか取り扱っていないのに比べ、民間企業は非公開求人も取り扱っている。
非公開求人とは、好条件の求人で、公開にしてしまうと入職希望者が殺到してしまうような求人を指す。
看護師も、働くのであれば好条件の方が良いと考えるため、民間企業を利用するのである。
また、職を探す際に、担当アドバイザーがついてくれることで、これまでに見ていなかったような希望と合う求人と出会うこともできる。
しかし、このような民間企業による看護師紹介サービスは問題視されている部分もある。
まず、全国の病院が紹介会社に支払う紹介料は年間で250億円にものぼり、それは保険料や税金から出されているということが挙げられる。
これについては、医療費が医療とは直接関係ないところに流れているため、厚生労働省も対策に乗り出そうとしている。
また、場合によっては、看護師を金券で勧誘したり、転職をしつこく促したりするケースも存在するということが挙げられている。
5-5.有効とされる再就職支援対策
先の調査結果(22)より、日本医師会は、潜在看護師の再就職支援として効果的なものを、3つ挙げている。
第一に、「情報提供」を行うということ、第二に、「多様な勤務形態」を導入すること、第三に、「研修の実施」である。
第一の対策として挙げた「情報提供」とは、
今現在看護師として働いていない潜在看護師に対して、戻ってきてもらうための情報を伝えるということであり、
主に看護師を必要としている医療・介護施設が行うものである。
例えば、効果が見られたものとして、「職業安定所(ハローワーク)」に求人を出す」、「求人広告を出す」、
「いつでも見学、相談ができるようにする」、「退職者を勧誘する」、
「ナースバンクに求人を出す」といったものが挙げられている。
第二の対策として挙げた「多様な勤務形態」については、日勤のみや短時間労働を可能にする等の取り組みを、
医療・介護施設が行うことである。
例えば、吉倉(27)の事例(図13)で挙げられているような、基本の勤務形態は通常の3交代制と同様にありつつも、勤務の時間帯を選ぶことができるようにしたり、週に働く時間を決め、曜日での時間配分は個人で決定できるようにしたりするという、フレキシブルな勤務形態の導入がある。
(図13:多様な勤務形態導入例)
第三の対策として挙げた「研修の実施」とは、潜在看護師を対象とした復職支援研修のことを指す。
これは、色々な形で行われており、病院が主体となるもの、市内などの病院が合同で実施するもの、
都道府県や市区町村が実施するもの等がある。
これらは開催主体が異なるものの、病院が開催していても、助成金等を交付するなどして、
国や自治体が考案した研修プログラムを行っている例も多い。
例えば、横浜市の行っている助成金の例(28)では、助成金の目的を
『地域の複数の医療機関(3~5医療機関)が連携して行う、看護師の資格を持ちながら就業していない看護師(以下、「潜在看護師」という。)の再就職対策を行う医療機関に、
予算の範囲内で「横浜市看護師復職支援事業補助金」を交付することにより、市内の医療機関に看護師を確保し、
地域医療の向上に資することを目的とする。』としている。
助成額は、1団体あたり、1回開催につき125,000円を上限としており、
補助の対象となるのは、「複数の医療機関が連携して行う、身近な地域を対象とした医療見学会」
または「複数の医療機関が連携して行う、身近な地域を対象とした復職のための実技研修」としている。
希望者は申請書や研修スケジュール、潜在看護師の募集方法、事業評価方法、必要経費の詳細等を提出しなければならない。
こうして開催に至ったものは、横浜市からも広報がなされる。(図14)
実際の研修内容は、プログラムによって異なっており、1日のものから7日のものまであり、
講義がメインのものもあれば、実習をメインとするものもあり、潜在看護師自身が、自分のニーズに合わせて選ぶことができる。(図15)
(図14:復職支援研修会ポスター※横浜市の事例より)
(図15:潜在看護師復職研修内容例※東京都地域保健福祉局の事例(29)より)
(26) 朝日新聞「看護師紹介、250億円市場 競争過熱、転職迫り稼ぐ例も 原資は診療報酬」2014年1月6日朝刊,(1).
(27)吉倉充子(20009):潜在看護師、子育て看護師にアピールできる!多様な勤務形態の導入と実際. 『ナースマネージャー』 Vol.11 No.3 pp.54-59
(28)横浜市(2014):横浜市看護師復職支援事業補助金交付要綱.
(29)東京都福祉保健局「看護職復職支援研修」,<http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/shikaku/fukushoku/fukushoku.html>2015年1月6日アクセス.
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