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どうしてホラーは魅力的なのか。

常に太陽や月を仰いできたからか、もしくは握る指に収まりやすいからか、人間は丸いものを尊く思い、愛するよう遺伝子が仕組んでいると竹谷は思います。

幼いころ、泥団子をとにかく綺麗に丸めようと腐心したり、道端でつい拾っただけの滑らかで丸みを帯びた石を持ち帰り、宝物として机に閉まったりと、そのような記憶が皆さんにもあるのではないでしょうか。古代から硬貨や宝石は丸く加工される傾向があり、現在でもアプリのアイコンやクレジットカードは角が取られ、円形へ近づく処理がなされていることが多いように見えます。尖っていないことが安心安全に繋がり、不安や恐怖から遠ざけてくれるからかもしれません。

ほかに日常で見かける丸いものを考えると、結婚や婚約等で用いられる指輪、サーカスやボクシングの舞台、鈴などがすぐ浮かんできます。そして、円で形成されたこういう言葉は、英語では ring と表されます。発売以降品切れが続いているNintendo Switchのゲームソフト『リングフィット アドベンチャー』も、まさに円形のコントローラーで遊ぶゲームです。

また、「井戸」が浮かんだひとも多いのではないでしょうか。井戸そのものを意味する英語は well でも、ringで「井戸」が出てくる。そしてその理由は、ひとつしかありません。

1991年に発売された、鈴木光司さん著作の小説『リング』です。その作品に心当たりのない方でも、登場するホラーヒロインの「(山村)貞子」なら、ご存知かと思います。ちょうど1年前の今頃、米国老舗の週刊誌『Newsweek』で組まれた特集「世界が尊敬する日本人100」において、貞子が怨霊として選ばれたことは、その衝撃もあり記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

Rest of the Best 学者から役者まで、世界が驚いた日本人
青山剛昌(漫画家)/原研哉(デザイナー)/本庶佑(医学者)/伊藤詩織(ジャーナリスト)/岩田守弘(バレエダンサー)/加藤崇(起業家)/キズナアイ(YouTuber)/草間彌生(芸術家)/南谷真鈴(冒険家)/村嶋孟(飯炊き仙人)/中満泉(国連事務次長)/岡見勇信(格闘家)/貞子(怨霊)/齋藤憲彦(発明家)/スプツニ子!(美術家)/サーロー節子(反核運動家)/ほか
*下記リンクより引用(太字加工は竹谷による)

「学者から役者まで」に、怨霊は入ります。

貞子の人気は根強く、色々なエンタメと組んでVRや4Dになったり萌えキャラになったりと、大先輩のハローキティも認めんばかりの縦横無尽な活躍をしています。映画自体も、2017年に『ザ・リング/リバース』が、2019年には『貞子』が公開されました。貞子は30年に渡って全人類を震え上がらせては、愛されています。

竹谷は、朝まで話し踊り明かせるくらいに愛『リング』者の自負がありますが、その熱はいつか未来の飲み会へ譲ります。ちなみに、『リング』といったら井戸、というマジカルバナナが成立しているのは、1998年公開の映画『リング』によるもので、小説自体ではそこまで井戸が注目される作りにはなっておりません。

テレビが突然点いたと思えば、木々に囲まれた井戸が映り、しばらくすると井戸の縁に内側から白く細い手がかかる。

これはすべて、映画による上質な演出です。より原作に沿った呪いのビデオでは、1995年にドラマとして放映された『リング 完全版』があります。竹谷が人生で初めて貞子との邂逅を果たした作品ですが、呪いのビデオと一緒で現在VHSのみしかなく、なかなか視聴できる状況でないのが悔やまれます。また、小説『リング』は、続編の『らせん』と『ループ』を併せて読むと最高の読後感を得られるのですが、悲しいことに映像化は『らせん』までしかされていません。さらに、映画『リング』の有名な歌『feels like 'HEAVEN'』のサビは「来る きっと来る」ではなく「Oooh きっと来る」ですし、ちゃんと聴くと実は全然怖くない、明るくすてきなJ-POPです。

逸れてしまいました。

なぜひとは、そも怨霊や怪物といった恐怖の対象をエンタメに閉じ込め、率先して触れたがるのか。

ひと一倍怖がりなくせに、ホラーゲームに恋慕を抱く竹谷の経験から、その理由の一端を考えていければと思います。下の画像は、Nintendo Switch用大人気ゲームソフト『あつまれ どうぶつの森』のスクリーンショットです。ホラーについて話を進める前に、少しでも和んでいただければと思いました。

しかし、お気をつけください。これより先は、ひとによっては読まない方がよいかもしれません。

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さて、『浦島太郎』というお話があります。彼は「絶対に開けてはならない」と言われた玉手箱を開けた結果、お爺さんになってしまいます。『鶴の恩返し』では、「絶対に見てはならない」と言われた部屋を覗いてしまい、鶴は去ってしまいます。善行を為して報恩を受けたとて、過失ひとつですべて崩れる。そういった教訓を、竹谷は感じ取ります。

そして同時に、別の見方ができる、と思います。絶対的に禁止されたこと、つまり「禁忌」を犯すことへ、人間は妙に欲望めいた感情を持つ生き物ではないかと。

恐怖を知り、それでも挑めるのは、生物の中で人類だけと聞いたことがあります。百獣の王であるライオンも、身の危険を感じれば安全なところまで駆け去ります。

あくまで竹谷の観点ですが、恐怖へ立ち向かう人類の理性を、勇気と称するのだと思います。そしてどこで読んだか忘れましたが、勇気は静と動のふたつに分けられるそうです。静は平然を意味し、なにが起ころうと、不測の事態でもまったく動じない心。動は敢為を指し、皆が止まるような場面で進んだり、誰もが進もうとする時に止まるといった、あえて行動を取る心。きっと両方完璧に備わると、西郷隆盛のような豪傑となるのでしょう。もう少し時代を遡れば、織田信長が比叡山を焼き討ちしたのも、神罰を恐れない敢為の勇気が、彼の中で強かったからと言えるかもしれません。

現在の我々にも、織田信長と較べるに規模はだいぶ小さいですが、「肝試し」というものがあります。その言葉が示すように、神霊への禁忌侵犯は、勇気の証明と取られる場合があります。

しかし、勇気だけなら讃えるべきですが、どうやら勇気のすぐ近くには、好奇という強大な想像力が屹立しているようです。

「禁忌を犯したら、どうなるだろうか」

『リング』で、主人公の浅川は「見てはいけない」呪いのビデオを前にして、「見たらどうなるだろうか」という好奇に唆され、見てしまいます。

禁忌は、「誰かによって固く禁じられている事柄」です。つまり、自発的なものではなく、第三者からの制限的圧力と換言できます。ゆえに、禁忌侵犯は自主性の発現ともなり、それ自体に解放感があるのでしょう。背徳感に心地よさを見出すのも、同様の理由だと竹谷は思います。親に禁止されたことを破る。未成年の飲酒や喫煙に対する憧れ。盗んだバイクで走り出す。「おとなのふりかけ」を食べたがる子ども。

ひとは、ダメだと言われると、途端にその抑圧に抗うべく勇気と好奇が湧いてくる。もちろん、禁忌を犯すと、内外ともに手痛いしっぺ返しが来ると知っているので、我々は普段禁忌を犯さぬよう心がけています。

そんな中、ホラーは禁忌侵犯だらけです。呪われた家に入ったり、悪霊を封印していた札を剥がしたり、研究者が悪魔のような人体実験をしていたり。horror の語源は hair と同じく「毛」です。文字通り、現実であれば身の毛がよだつような事態を、安全な場所から追体験できる。禁忌侵犯をどこまでも疑似体験できる解放感。そこに、ホラーの大きな魅力があるのではないでしょうか。

そしてホラーゲームは、ホラーコンテンツの中でも極めてすばらしいものだと、竹谷は胸を張って言います。なぜなら、自らプレイヤーを操作して、禁忌の犯された残酷な世界を闊歩できるからです。

「貞子」の生みの親である鈴木光司さんが、「恐怖。その本質がここにある。」と推薦文を書いたゲームソフトがあります。1999年コナミから発売され、映画化もされたホラーゲーム『サイレントヒル』です。

つい先日、流行の非対称型対戦サバイバルホラーゲーム『Dead by Daylight』とのコラボも発表されるほど、根強い人気を誇るホラーコンテンツです。

主人公は、突然消えた娘を追いかけ、霧の濃い町へ進んでいきます。そこで出くわす非現実的な状況は、すでにその町が良からぬ事態に陥っていることを仄めかしています。ゲームや映画の冒頭で流れる曲『Silenthill』は、どことなく不気味でありながら美しい名曲ですので、カバーではありますがここに紹介させてください(オリジナルのCDはプレミアがついて中古でも10万円です)。

『リング』では主人公が禁忌を犯すところから始まりますが、すでに禁忌が犯された世界に放り込まれるケースも当然あり、『サイレントヒル』は後者です。ほかのゲームを挙げるなら、『バイオハザード』や『SIREN』も、ゾンビが屍人(しびと)といった異形の存在する世界を生き抜く話なので、禁忌はすでに犯されています。せっかくですので、両作品の音楽も紹介させてください。以前の記事をご覧くださった方は最早懲り懲りかと推察しますが、竹谷は常時ゲーム音楽にぞっこん惚れ込んでいるのです。

まず、『バイオハザード2』から『Secure Place』です。『バイオハザード』シリーズは異形へ変化してしまうウイルスが開発され、それが撒かれてしまう禁忌侵犯世界の話なのですが、この曲はゾンビが襲ってこないところで流れる曲です。シリーズを大体プレイしている竹谷にとっては、ついつい眠くなるほど、ライナスの毛布に近しいものとなっています。

そして『SIREN NEW TRANSLATION』から『奉神御詠歌 - LyricsEdit.』です。『SIREN』シリーズはウイルスではなく、禁忌を犯してしまった閉鎖的な村を舞台に繰り広げられるお話です。こちらの曲は、ただただものすごく怖いので、苦手な方は聴かないことをオススメします。

「禁忌を犯したら、どうなるだろうか」

という「結果」に対する好奇心は、すでに禁忌侵犯後、つまり「結果の出た世界」に対しては、「原因」へ注がれます。

「いったいどれだけ大きな禁忌が犯されたのか」

ゾンビが館を徘徊している。アパートの廊下に、錆びた鉄製の三角錐を頭に被った大男が立っている。真っ赤な雨が降る。結果が異常であればあるほど、より一層原因にひとは惹かれます。

そしてなにより、ホラーゲームは当然ゲームなので、プレイするよう設計されています。竹谷には怖いものがたくさんあり、年齢とともにだいぶ慣れてきたものの、暗がりにはとりわけずっと怯えてきました。小さい頃、マンションのひとつ上階に従兄弟が住んでいて、よく遊びに行っていたのですが、帰り道であるマンションの廊下と階段は、当時恐怖の頂きに座していました。遠く廊下の先に、人影ではない影が立っていたらどうしよう、と何度思ったかわかりません。

東京ディズニーランドへ行っても、「ホーンテッドマンション」は序盤の蜘蛛多発地域がどうしても耐えられず、ぎゅっと目をつむっておりました。映画やドラマで怖いシーンになると、手で両目を覆いました。幼いながらに理解していたのでしょう。情報を遮断し、時間が経てば、恐怖の原因は流れ去っていくと。

しかし、その対策はゲームでは通用しません。視界を塞いでも、両耳に指を入れても、ゲームは進みません。ボタンを押さねば、つまり、自らアクションを起こさねば、ホラーゲームは終わらないのです。たとえば、3階建ての病院のエレベーターに「4」のボタンがあったら、皆さんは押しますか? 映画なら、きっと主人公は押します。そして鑑賞者の我々からすれば「ほれ見たことか」といった展開になるのですが、ゲームにおいて「4を押す」という決断を下して行動するのは、ほかならぬ我々プレイヤーなのです。

恥ずかしい話なのですが、『サイレントヒル』を初めてプレイした高校生の竹谷は、怖すぎたあまり、まずは攻略本を一再でなく読み込み、それから目を閉じて、コントローラーを握りました。竹谷に操作されている主人公は、セルフ目隠しプレイの結果あちらこちらで壁や生け垣にぶつかり、敵から散々に攻撃を受けながら、どうにか怖くない場所までたどり着いたのです。プレイ時間も、1日30分が限界でした。疲弊しながら、それでも取り憑かれたように遊んでいました。

恐怖を前に逃げ出したくない勇気と、「してはならない」と禁じられたことを、破ってみたいと思う好奇。それらが良き塩梅にブレンドされたものを禁忌侵犯欲と言うなら、ホラーはその欲を満腹にしてくれる至極のコンテンツなのでしょう。だからこそ、日々媒体問わずホラーは生まれて進化を続け、ゾンビはいよいよ疾走し、『エルム街の悪夢』のフレディと『13日の金曜日』のジェイソンは戦い、貞子は『呪怨』の伽椰子と土俵に入るのです。

ホラーが好かれる理由では、「生を意識する」や「非日常を楽しむ」といったものが多いと思うのですが、今回は「禁忌」という観点から考えてみました。本来なら、ホラーゲームの「怖さ」の象徴である敵(ゾンビ、クリーチャー等)や、効果音にも話を広げたかったのですが、それは後日改めて書こうと思います。

「読まない方がよいかもしれません」や「聴かないことをオススメします」と警句を柔らかく出したのも、禁忌侵犯欲を刺激する手法の一環で試してみましたが、いかがでしたでしょうか。

いやあ、ホラーゲームって、本当に良いものですね。

最後に、『サイレントヒル3』のテーマ曲である『You're Not Here』を紹介し、文の結びとさせてください。ゲームの冒頭で流れるのですが、恐怖とかっこよさの両輪完備された、最高のオープニング映像となっています。

とはいえ怖いので、絶対に観ない方がいいと思います!

お読みくださりありがとうございました。

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深夜に焼きそばパンを食べる、という禁忌を犯しながら。

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