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「これは自分自身の文章の治療の過程」千葉雅也<小説を書く理由>

これは自分自身の文章の治療の過程だと思っていて、今回の小説も自分と言語の関わりの治療過程の一部なんだろうと思いますね。

好書好日より

今回のnoteでは、第169回芥川賞の候補作のひとつ「エレクトリック」を書いた千葉雅也さんが小説を書く理由を語る記事を紹介します。

千葉さんのデビュー作「デッドライン」を通じて千葉雅也さんが小説を書く理由を楽しめる記事です。今回の芥川賞候補作「エレクトリック」がさらに楽しめるようになる記事です。

デビュー作「デッドライン」

小説「デッドライン」は、2001年を舞台に大学院修士課程に進んだ主人公「僕」が、友人の映画制作を手伝い、親友と深夜のドライブに出かけ、家族への愛と葛藤に傷つき、行きずりの男たちと関係を持つ日々が描かれる。

即物的な出会いと「刹那性」の美学、決して皆から祝福される"正しい愛"とは違う愛の形と疎外感や嫌悪感を感じつつも、屈折した欲望の中で出会った男性たちへの思いを描かれています。

より楽しむための3つのQ

Q1.これはゲイ小説ですか?

『あれはゲイ一般の話ではなくて、ことこの小説に特殊な文脈ですけど、あの文脈では、ゲイだからといってまったく女性と関係ない存在ではなくて、トランス的な要素が入ってきたり、微妙にヘテロセクシュアルとのスペクトラム(連続)的な部分があったりするということが示唆されている。どんな人でも性的アイデンティティは揺らいでいるわけです。LGBTというものを固定したアイデンティティとして捉えるのは間違っているわけで、どんな当事者でも微妙な揺れや境界の滲みみたいなものを持っているわけです。』

好書好日より

Q2.主人公「僕」はわかりにくい。なぜでしょうか?

『どうしても皆に祝福される「正しい愛」ということが前面に出てくる。「男を愛するのも女を愛するのも、愛だという意味では同じだ」みたいな感じになってくるわけですよ。 
 だけどこの小説で描かれているように、ノンケの男性に対して疎外感を感じる一方で、ノンケに対する嫌悪感もあるし、かつそれとないまぜとなった憧れもあったりする。ノンケの男性だからこそ性欲を感じるといった屈折した欲望の運動もある。昨今はそうしたことがどんどん見えなくなっている感じがあって、そこを描かなかったらしょうがないだろうと思ったわけです。』

好書好日より

Q3.この小説にはアート性を感じる。なぜでしょうか?

「こうだからああなった」と人間の心理や運命を説明するのは性に合わないんです。論文でもそういうことをやるんですが、ある場面の中にひとつの構造があるとすると、それが実は別の場面のメタファーになっていたりする。言葉レベルのメタファーではなくて、構造レベルのメタファーです。ある場面の構造が別の場面の構造を暗示する形になっているという。

好書好日より

自分という"創作物"がわからなくなる小説

デビュー作「デッドライン」、2作目「オーバーヒート」から今回の芥川賞候補作となっている「エレクトリック」は、千葉雅也さんの過去の体験を核とした創作の物語。

そんな赤の他人の私小説的な物語に心を揺さぶられる。それは自分という”創作物”がひとつひとつ解体されているような感覚とも言える。

いろいろ行き詰まったらこの小説を読んで自分自身を治療してみるのはどうでしょうか?オススメです。

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AIを使えばクリエイターになれる。 AIを使って、クリエイティブができる、小説が書ける時代の文芸誌をつくっていきたい。noteで小説を書いたり、読んだりしながら、つくり手によるつくり手のための文芸誌「ヴォト(VUOTO)」の創刊を目指しています。