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不条理の中に落とし込まれた愛


中村作品を読了するときにいつも思うことは、中村先生とその作品に出会えてよかったということです。言葉にすると薄っぺらいけれど、報われないやるせないストーリーに心のどこかで救われていたり、自分のなかで渦巻く、言葉にならない感情を整理してくれる先生が中村文則先生です。

今回の作品もいつもの如く出会えてよかったと思いました。ところどころに希望も散りばめられていて、温かみも感じれた本でした。ポーカーのシーンは文字がその場面を立体的に構築していたし、ラストに向けてパズルが完成していくような感覚も、コロナについてのシーンもあったからどこか同じ世界線で起きているような気さえしました。そんな感情を抱えながら読み終えて、本棚を埋めることがとても心地よかった。

カード師を読み終わり、一番に思ったことは果たして私は占いや運命、はたまた先の見えない未来に対する預言者たちの言葉を信じているのかということ。

そう思うと、ルーティーンに取り込んで毎週月曜日は週間占いを確認するし、その内容に一喜一憂して一週間を送っているし、ツイッターで拡散されている陰謀めいた預言に興味をそそられているのも事実ということに気づいてしまいました。

じゃあ、帯にも書いてある”運命に抗えーー。”

作品の主人公のように、命や多額の金銭のかかった状況に巻き込まれたことはないけれど、高校卒業時の進路決め、新しい転職先、心機一転一人暮らし、恋人との別れを決断しようとしたとき……

この決断に人生がかかってる……!といった重要に思える決断をする時、やはり占いは気にならざるを得ない存在だったなと思います。この先変わらないであろう道から外れて、抗おうとしてる時に何かに縋っていたんだよなと。未来がわからない時って不安だらけだし。

今まで意識してこなかったけれど未来に起きるなにかに、恐怖と好奇心が交感神経と副交感神経のように拮抗していて、占いに対する信じる濃度も同じように拮抗しているような気さえします。今に集中できていない時間でさえ私で、それはそれで運命だったのかなと……。

思考の赴くままに未来を占いなどに委ねていたんだと感じました。

そして、カード師はメッセージ性も強くて、作品中に出てくる柔和な老人が言った

「(中略)人は大抵、自分で思っているより幸福な人生を歩んでいるものだ。謙虚さを必要とする場合もあるかもしれないが、その謙虚さも美しい」

という言葉が私の心に音を立てて刺さり、二巡したときにはとうとう心を突き刺し、ぬき方がわからなくなってしまいました。

 また、作品の中で幼少期の主人公と施設職員の山倉がババ抜きをするシーンで、山倉の言ったジョーカーとは、というセリフ。人は見た目だけじゃないとも言っているようで、今日から私はジョーカーになろうと思った単純野郎はここにいます。

他にも心を掴んで離さない言葉がたくさん散りばめられていて、油断した時に心を掴みにくるなんとも罪作りな作品でした。そんな言葉がとても多くて、だから中村作品はやめられないなと思っています。寄りかかったり、背中を押してくれたり、共感できるのが中村先生の魅力なんです。私のバイブルとなってしまったカード師に出会い、まだまだ中村先生とこの作品と共に生きていたいです。これだから中村作品はやめられない。

これからの中村先生のご活躍も心待ちにしてますので、ご自愛ください。



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