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『無門関』第四十七則兜率三関

無門禅師の提唱口語訳

兜率従悦和尚は三関を設けて修行僧を主導した。

関は見性を見届けるためにある。

今ここの自性はどこにあるのか、

自性を自覚すれば生死から超越して自由である。

それでは死に際して如何にして超越するか。

生死を超越すれば自ずから行き先を知る。

身体が無くなった先自己は何処へ行くのか。

説明

この兜率三関は難透難解の一つといわれています。

死後君は何処へ行くのかという問いである。

現代人にとってはばかばかしい話とは思いますが、

この問題を解決すれば経験的に自由自在の人生が送れると言います。

まずこの世界は広大無辺であるから何処へ行くのかと問うているのである。

禅では目の前には広大無辺の世界が広がっているという表現をしますが、実感できないと思います。

それを少しでも疑似的に体験してもらいます。

それは海外移住の問題で、全てが新しくてゼロからの生活で希望に燃えて一からの出発です。

ところが生活習慣から地理的にも言語的、歴史的全てが空の状態に置かれることになります。

あるいはツーと言えばカーと伝わり、親の七光りで無礼がまかり通ることの無化が起こります。

そのような人間の状態を故人は「闇の夜に鳴かぬ烏の声聞けば生まれぬ先の父母ぞこいしき」 と表現しています。

故郷では通用していた知識や習慣全てが失われてゆくのです。

まるで闇の中で声もしない環境で手探りもせず、真っ直ぐに歩くようなものです。

赤ん坊がそのような状態で生まれますが、親の手厚い保護の元で心配するようなことはおこりません。

「生まれぬ先の父母」に関しては色々な解釈がありまして、父母のまだ生まれない祖父母以前と言う考えもありますが、

自己が自己を確立する以前の幼児期とも考えられるのです。

海外移住はいわゆるカルチャーショックによる自己同一性の危機に襲われます。

自己同一性の危機とは闇の中に突然置かれた状態をいいます。

この時初めて広大な世界に置かれていたことを知ります。

故郷では見えない闇の中で何不自由なく生活していたのです。

しかし海外移住することでもっと広い見えない世界があることが解ります。

このカルチャーショックによる自己同一性の危機に襲われたのがフロイドでありアドラー、ジャックラカンなど多く居ますがエリック・エリクソンこそその提唱者です。

自己同一性とは日本語訳で、エリック・エリクソンの提唱した青年期における自己未発達状態の一つでアイデンティティと呼ばれています。

これで我々が見えない闇夜のような広大無辺の世界に住んでいることが理解できたのではないでしょうか。

それが解ったとしても無明の世界であることには違いありません。

心の闇が見性によって晴れなければなりません。

自性すればおのずから其の行き先も解ると言うものです。

「無明は転ずればすなわち変じて明となる。氷を融かして水となすがごとし。」と『摩訶止観』智顗で言われています。

人生は忙しくて何か残してきたものがあるようで心残りであることは解ります。

残してきたものが何処へゆくのかと考えるのが人間の誠意であってみれば死ぬことはできません。

人は身体が無くなった先自己は何処へ行くのか。

何所から来て何処へ行く存在であるかと言うことを解決したいのです。

それを次の代につたえるのがその行く先なのです。

無門禅師の頌の口語訳

一念は平等に永遠を照らす

永遠は今の一念

今すぐに一念を看破すれば

看破した人が看破せられる。

解説

永遠とは広大無辺のことです。

一念とは人間の誠意です。

その広大無辺を見通せば、見通した人が見通されると言うのです。


考引用
『公案実践的禅入門』秋月龍眠著 筑摩書房
『無門関』柴山全慶著 創元社
『碧巌録』大森曹玄著 柏樹社

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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