ATOKの推測変換で指の運動量を減らそう!

 サブスクリプションサービスATOK Passport(以下ATOK)には推測変換という機能が搭載されていて、入力中の文字から変換候補を予測して表示してくれます。
 表示される候補は無作為に選ばれるわけではなく、自分の辞書、確定履歴、省入力データを元に生成されます。ATOKのクラウドサービスを有効にしている場合はクラウド辞書も候補に入ります。

 例えば、推測変換をオンにした状態で「きー」と入力した場合、変換候補に「キーボード」が表示されます。ここで推測変換用のキー(デフォルトの設定ではTabキー)で選択すると、「きー」しか入力していないのに「キーボード」と出せるわけです。
 このとき、第一候補だけはシフトキー+エンターで確定入力ができます。

推測変換の例

 このように、単語やフレーズを全て打たなくても書けるので、総打鍵数を減らすことができるんです。
 打鍵数を可能な限り減らして楽をする、いわゆる省打鍵入力になりますね。
 僕は普段から推測変換を多用しているんですが、実際のところどれくらい入力効率が良くなっているのか確認したことがありませんでした。
 なので今回調べてその結果をまとめてみました。
 
 まず結論から書きます。
 僕の環境では、一字一句タイピングした場合と比べて、推測変換を利用したほうが総打鍵数を14.58%減らすことができました。
 
 以下は雑な解説になります。


1. 使用環境

 使用したキーボードはSvalboard Alphaで、入力方式は自作かな配列「DHSBことのは配列」です。
 紹介記事を貼っておくので、知らない方は是非見てくださいね。打鍵動画もありますよ。


2. 調査に使った文章

 文章は全2,526字(変換後)です。
 全部ひらがなにすると3,151字になります。
 私的な文章なので内容は公開しません。
 
 この文章を元にして、以下の3つを算出しました。

  1. 総打鍵数

  2. 一部の入力をワンアクションと捉えた場合の総打鍵数

  3. 推測変換を使った場合の総打鍵数

 全て手で数えました。
 数え間違いがあるかもしれないので正確な数値とは言えませんが、たぶんプラスマイナス10くらいのズレで済んでいるんじゃないでしょうか。
 本当は万単位の文章を解析できたらよかったんですが……。


2-1. 総打鍵数

 全ての打鍵をカウントした数値になります。
 レイヤー移動、カーソルキー、エンターキー(確定と改行)、変換キーも1打鍵としました。
 2キー同時打鍵やシフトキーを押しながら別のキーを押すのも2打鍵扱いです。
 それとATOKの「句読点が入力されたとき自動的に変換する」を有効化して、変換キーを押す回数を少なくしています。
 
 この条件でカウントすると総打鍵数は3,253になりました。


2-2. 一部の入力をワンアクションと捉えた場合の総打鍵数

 上で例に挙げた入力などをワンアクション(1打鍵)と見なした場合の打鍵数です。
 DHSBことのは配列では拗音を入力する際、基本的にレイヤー移動が必要になりますが、慣れると同時打鍵感覚で打つことができます。
 カーソルキー、エンターキー(確定と改行)と変換キーは1打鍵扱いのままです。

 この条件でカウントすると3,081になりました。


2-3. 推測変換を使った場合の総打鍵数

 2-2.と同様の条件に加えて、推測変換用のTabキーも1打鍵としました。
 ですが「句読点が入力されたとき自動的に変換する」は推測変換と相性が悪いため無効化しています。

 この条件でカウントすると2,632になりました。

 2024年6月25日追記。
 自動変換と相性が悪いという説明は正確ではありませんでした。
 詳細は4-4.に書いておきます。


3. 結論とおまけ。

 推測変換は、総打鍵数から見ると19.09%、ワンアクションとする考え方から見ると14.58%効率が良いという結果になりました。
 この程度の短い文章でも450打削れたので、月に万単位の日本語を書く方はもっと減らせるんじゃないかと思います。
 かなり乱暴な説になりますが、「推測変換を使えば常に打鍵数14%減」と仮定するなら、僕の場合は本来の総打鍵数から最大8万打くらい減らせているかもしれません。
 省打鍵入力で指に疲労が溜まりにくいわけですから、とても有用な機能だと思います。
 Svalboardとの相性は最高です。

 ちなみに、3,151字(全部ひらがな)をDHSBことのは配列で入力した場合の単打率は89.08%でした。
 拗音をデフォルトレイヤーのみで一文字ずつ入力する場合の単打率は96.35%となっています。
 夏目漱石の「こゝろ」冒頭(748文字)では単打率96.1%だったので、ちょっと下がった感じですね。たぶん「こゝろ」には拗音がそんなに出てこなかったからだと思います。
 
 総打鍵数で見た場合、各指の使用頻度はこんな感じでした。DHSBことのは配列はわざと右手に偏らせているので、僕としてはなかなか良い結果が得られたと思っています。

  • 右手 61.15%(親10.63%、人14.66%、中12.11%、薬18.01%、小5.74%)

  • 左手 38.85%(親4.57%、人10.02%、中12.81%、薬7.77%、小3.68%)

 推測変換だとTabキーを一文あたり5回ほど打つので、今回使った文章の場合はTabキーを305回程度押すことになると思います。
 これを上記の使用頻度に加えると、省打鍵入力で両手各指の使用率は若干下がり、左手親指の使用率が上がることになると思います。
 正確な数値は出せませんが、たぶん右手薬指が15%くらいになって、左手親指が14%くらいになる気がします。

 Svalboard×DHSBことのは配列×推測変換=指の運動量を極限まで減らす、という感じなので最高の組み合わせだと思っています。


4. 推測変換の弱点

 僕が思う弱点をたくさん紹介していきます。
 長いので読まなくても大丈夫です。


4-1. IMEからの介入を煩わしく感じる方には向かない機能だと思われます。

 記事冒頭に貼った画像のように、入力中は常に推測候補のウィンドウが表示されます。
 設定で挙動を色々と変えられますが、視界に入って鬱陶しいと感じるユーザーさんもいるかと思います。


4-2. 推測変換を使えば常にすらすら入力できるわけではありません。

 記事冒頭に書いた通り、推測変換の候補は自分の辞書、確定履歴、省入力データを元にして生成されています。
 初めて入力する単語やフレーズなどは推測変換で出すことができない、もしくは出しにくいです。
 ATOKが学習して推測候補がこなれてくるまで、従来通りのタイピングで入力していくしかありません。


4-3. 実はMS IMEにも似たような機能があります。

 確か予測変換と呼ばれていたはずです。
 また、MS IMEでも辞書登録の読みを短くすることで、任意の単語や表現の省打鍵入力を再現できると思います。
 無料で使えるのも大きなメリットですね。ATOKは有料のサブスクリプションサービスですから……。
 
 僕はATOKのほうが通常の変換も推測変換も精度が高く、カバーしている範囲が広いと感じています。


4-4. 「句読点が入力されたとき自動的に変換する」機能と相性が悪いです。

 総打鍵数のカウントで触れた話ですが、これをオンにしていると誤変換が多発します。
 ATOKは誤変換が非常に少ないIMEで、自動変換も便利な機能なんです。でも推測変換とこれを組み合わせて使うと本当に酷いことになります。

 例えば「ということ」を推測変換で入力して、その後「になる。」と打った場合は「ということ2鳴る。」みたいになってしまうんです。
 句点を打った時点で入力中の未確定文字列は「になる」だけなので、こういうおかしな変換になってしまうんだと思います。

 句読点を打つ前に確定しておけば回避できますし、ATOK側が「〜になる」という表現だと理解してくれたら問題ないんですが……とにかく僕は余計な入力はせずに打鍵数を減らしたいので最初から機能をオフにしています。
 もちろん、僕の使い方が下手なだけで、上手く利用できている方がいるかもしれません。

 ※2024年6月25日追記。
 相性が悪いという表現は正確ではなかったので補足します。原文はそのまま残しておきます。
 僕は「になる」「として」など一部の助詞や表現を手打ちする癖があり、これが自動変換の誤変換を引き起こす原因となっている可能性が高いです。
 誤変換になっても候補から適切な表現を選択して出せば問題ないので、推測変換と句読点自動変換の併用は可能です。

 上記の例でいえば、「2鳴る」になってしまったとしても、変換候補から正しい表現「になる」を選べばATOK側が学習します。一時的に打鍵数が2〜3打増えると思いますが、これ以降は自動変換でも正しく変換されるはずです。
 変換取り消しでも構いませんが、たぶんこちらだと学習されないような気がします。
 また、推測変換で「ということになる」という一文を出せば、後に句読点を打っても変換対象にならないので誤変換は起きません。句点を含んだ「ということになる。」を出しても問題ありません。


4-5. 設定によっては一度入力したものが全て学習されてしまうことです。

 タイプミスして確定すると、そのまま推測変換の候補に入ってしまうんです。
 ATOKにはある程度のタイプミスを修正してくれる機能があるんですが、それでも「ありがどぅございわず」のようなミスをした場合は修正されません。
 確定してしまった場合は変換履歴から消す必要があります。
 僕はそれを回避するため「よく使う履歴だけをファイルに保存する」にチェックを入れています。これで2回以上同じ言葉を入力しない限り学習されないようにしています。
 まぁ完全に回避できるわけではないので過信は禁物なんですが……だいぶマシになりますね。
 あとは「メモリに保存する」を選ぶのもありです。確定した文字列を全て学習しますが、パソコンの電源を落とすと確定履歴が削除されます。

推測変換の設定画面

4-6. 辞書メンテナンスがめちゃくちゃ面倒臭いことです。

 4-5.にも少しだけ絡んでいる話です。
 確定履歴を整理整頓しないと、使わない表現が変換候補に混じって邪魔になることがあります。
 気にせず使い続けていれば優先順位が下がって表示されなくなるんですが、「こんなに似たような候補並んでても意味がない」と思うくらいには目につくんですよね。
 そこで辞書メンテナンス機能で邪魔な履歴を削除するわけですが、これが本当に辛い作業になります。
 基本的にこれまで確定した文字列がずらっと並んでいるので、一つずつ確認しないといけないんです。
 履歴を一気に消してしまって、大事なものは省入力データに移したほうがいいかもしれません。


4-7. 普通にタイピングしたほうが早いときもあります。

 推測変換時、第一候補や第二候補ならすぐに選ぶことができますが、第五候補や第九候補となれば話は変わってきます。
 使用頻度が低い言葉は下のほうにいくので、候補から探し出そうとして逆に打鍵数が増えて本末転倒……なんてパターンもあるわけです。

 僕の場合は「居た堪れない」なんてフレーズがそれに当たりますね。あんまり使わない言葉なので、「いたた」と入力して推測変換を使うと「いただき」「いただきます」「いただい」などが優先的に表示されます。「いたたま」まで入力すると、ひらがなの「いたたまれる」が第一候補、「居た堪れない」が第九候補に来ます。

「居た堪れない」を推測変換出すとこんな感じ

 このように使用頻度の低い言葉を推測変換で出すのは手間がかかるので、素直に打ったほうが打鍵数的にも精神的にも楽で早いことも多いです。


4-8. 推測変換を使っても入力速度が大幅に向上することはないと思われます。

 推測変換の売りは楽な入力ですが、あえてタイピング速度の面に注目しますと、秒間3打以下の方は推測変換を使ったほうが普段よりも若干早く書ける可能性があります。
「可能性がある」と表現したのは、自分がよく使う語句が文中に多ければ多いほど速度が出るからです。
 逆に、4-2.や4-7.でも触れたように、初めて入力する言葉や言い回しにはとても弱く、変換候補の順番によっては候補ウィンドウを見ていないといけません。タイピングのみに集中できる状況とは言えないので、この部分では普段通りの速度かそれ以下になると思います。

 参考までに、僕の入力速度は1000字/10分程度で、推測変換を使うと1150字くらいになります。
 これはよく使う単語や言い回しが素早く入力できているおかげですね。

 それと、秒間4打以上の方は普通にタイピングしたほうが早く書けると思います。
 タイピングゲームや競技では推測変換がチートになる気がするので控えたほうがいいでしょう。


5. 最後に

 ATOKの推測変換はデフォルトだとTabキーになっているので、設定で別なキーに変更したほうがいいです。
 自作キーボードやキーリマップ対応の製品なら、親指に配置するのがオススメです。

 推測変換の使用感やデータは少ないようなので、この薄っぺらい内容でも誰かの役に立ったら嬉しいですね。
 この記事を見てATOK、Svalboard、DHSBことのは配列に興味を持ってくれたらもっと嬉しいです。

おわり。

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