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エッセイ | 大阪alone

「あ、いま自分が大人になったな」
と感じる瞬間がいくつかある。

初めてひとりで車を運転して無事目的地についたときも、小さい頃苦手だった生魚に挑戦してむしろ好きになったときも、そう思った。
ちょっと大人になった。

けど明らかにあ、これは今までの比じゃないな
って思った経験もいくつかあって、その中のひとつが、去年の夏に行った初めての大阪ひとり旅だ。

わたしは小さい頃から、自分ひとりの力でなにかを成し遂げたという経験が、たぶんまわりの人に比べて著しく少ない(人生でいちばん言われた言葉は『大丈夫?』)。
だから怖がりで、安全圏から出たことがないし、まあこれはわたしだけじゃないかもしれないけど、ひとりでどこかに旅行したこともそれまで無かった。

じゃあなんで大阪に行くことになったのかというと、スポーツのバレーを観戦するためだ。
わたしは昔からバレーがすきで、だから観にいきたいと思っていたんだけど、まわりに一緒に行ける人がいなくて、だからひとり。
好きの力ってすごい。
簡単に安全圏からわたしを押し出してくれた。

で、ホテルも飛行機のチケットも自分でとって、
バスとか電車の時間も調べた。学校の修学旅行のときですら、まあ誰かしらわかるだろうから大丈夫だろって適当だったのに、ノートにぜんぶの出発時間をメモして、それをどっかで落としたら大変だからと思って、書き記したページをスマホで撮影した。ドキドキしながら当日は家を出た。

あれ、空港ってこんなに広かったっけ、と思った。田舎の空港だからたかが知れてるのに、急に心細くなって、あれ、わたし大丈夫かな。
いまならまだ帰れるって思ったけど、さすがにそれは悔しいから売店で売っている安いパンを買って食べた。期待と怖さで、ちょっと味覚がガバガバになっていた気がする。

もう後戻りできないと悟ったのは、飛行機に搭乗してガタンと扉の閉まる音を聞いたときだ。そうなればもうなるがままに、流れに身を任せるしかない。機内で貰った水をちびちび飲みつつ、下に広がる街を眺めながら、これが大人か、と少しだけ思った。少しだけ。

旅にハプニングはつきものである。
スマホの機内モードを解除したら、昼に観ようと思っていた劇団四季の公演が、コロナで急遽中止になったというメールがきていた。
観る前提ですべて予定を組んでいたので、あらゆる出発時間をメモした紙が、序盤も序盤でまったく役に立たなくなった。
でもまあ、臨機応変に対応するのが大人であり、大阪は公共交通機関もたくさんあるからね。


と思っていたけど、案の定迷子になった。
劇団四季の代わりに美術館に行こうと思って、パパっと調べてエイヤッと乗ったら、乗ったあとであれこれなんか違うって違和感を感じて、よくよく調べたら駅の名前が似ている別の駅に向かっちゃっているらしい。だから乗る電車も方向も微妙に間違っていて、出発した駅に戻れたと思ったらsuicaピピーッなって、通った改札に戻ってくださいと言われた。駅の端から端まで歩いているとき、もうほぼ涙じわぁってなってたけど、まあ、これが大人かという思いを噛み締めて歩いた。

無事最寄りの駅に到着したけど、マップを頼りにしても美術館の入り口がよくわからなくて、ぐるぐる歩き回ったせいでリュックと背中の間がずーっと汗をかいていた。
美術館の中はわたし以外に誰もいなくて、冷房で冷えた汗がさらに肌寒く感じた。でも、貸切状態で思う存分見られたし、満足度が謎に高かった。
そのあとは趣もなく、ちょっとさびれた小さな商業施設に入っているファミレスでお昼を食べた。
お店を出たらおじいちゃんがベンチに座ってアイスを頬張ってた。

そのあとは無事バレーも観れた。やっぱり迫力と音が違った。会場の雰囲気とかもあると思う。
夜ごはんはコンビニで(大阪に行ったのに全く趣がない)、親子丼を買った。
若干の違和感を感じていたけど、もうすぐ着くしと思って無視してホテルに帰ったら、親子丼の汁でトートバッグがぐっしょぐしょになっていた(大丈夫?と言われる所以)。

トートバッグを水で洗ってとりあえずリセッシュをぶっかけて、ソファーに座ってひと段落した。色々あったけど、やっぱり一日を乗り切ったという達成感は十二分にあって、汁が抜けきった親子丼がすごく美味しかった。

つぎの日も美術館に行って、無事大阪から家に帰れた気がする。いや、無事に帰ってるから書いてるんだけど、一日目の記憶が濃くて、二日目が若干うすい。家に帰るまでが旅行ですよ。

でも、それから何度かひとりで大阪に行ったけど、あの日のように自分のキャパを越えた感覚はなかったから、大人になるというのは、自分のキャパを広げていく過程でもあるのかなと思う。
できなくて悔しかったり、涙がにじむときもあるけど、成長のための筋肉痛と思って。


ああ、はやくまた大阪に行きたい。


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