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イマジナリーフレンドと映画に行く話

 「暇だ」「暇だな」「暇ですね」
 ここ数日間、とくに予定もなく全員暇していた。外は暑く、友達もなんだかんだ忙しいのだ。
 するとイマジナリーフレンドのAが言った。
 「そうだ!!映画行こう!!お前みたいって言ってたやつあるだろ!」
 久々に怒っているとき以外の大きな声を聞いて少し驚きながらも「あるよ」と答えた。

B「今日、はもう遅いですよね」
私「行くなら明日だね」
A「明日も明後日もどうせ暇だろ?そのまま服とか見ようぜ」
私「めんど〜!!」
B「いいじゃないですか。初めての1人映画デビューでしょう?」
私「え、あ、確かに!!!私まだ1人で見たことないのか!!!」
A「そもそもお前映画あんま見ないしな」
私「めっちゃ楽しみになってきた。久々の3人旅行でもあるしね」
A「一応やる時間だけ確認しとけ」
私「ちょうど午後いい時間帯でやってるわ」
B「目覚まし、どのくらいにかけます?」
私「んー、10時にしよう!!」
A「おっそ」
私「最悪起きれなかったとき用だからいいの!」

 と、トントン拍子に話は進み映画を見にいくことになった。
 こういうとき、2人は自分のことをカウントしない。私が「3人旅行」と言っても、彼らは「1人映画デビュー」としか言わない。自分達の存在に対してかなり否定的なのだ。


 次の日、私はしっかり10時に起きた。
 2人からは何をやってるんだ、と呆れられた。

 映画館のついている大型ショッピングモールに向かうため、まず最寄駅まで自転車で行く。
 こういうとき、2人は浮く。ある程度の高さまでは浮けるらしく、私が自転車の時は基本的に浮きながらついてくる。なんでもありらしい。ずるい。
 電車に乗るのは久々なような気がして、遠足気分だった。2人は静かにドアの前に立っていた。

 うまく電車を乗り継ぎ、ショッピングモールまでたどり着いた。
 2人は「電車に乗るのうまくなったな」と褒めてくれた。もう19だぞ私。

 最初にチケットを買い、その後はお腹が空いていたので取り敢えずフードコートでお昼を食べることにした。好きなカルボナーラを見つけたのでそれにした。2人からは「またかよ」「とことん冒険しませんよね」と言われた。

 食べ終わっても時間があったので先にいろいろなお店を覗いた。服やアクセサリー、本をチェックするといい時間に。
 飲み物を買って席に向かった。

 席は結構ガラガラで、私はど真ん中だった。
 ジュースを一口飲んで、ホッと息を吐く。すると、Aが言った。

A「お前、もうどこにでも行けて、なんでもできるだよ。だから、好きなとこに行って、やりたいことやりな」

 それはまるで、「自分達から離れて好きなように生きろ」と言われているようだった。
 何か言いたくて、でも頭の中はうまくまとまらなくて、何も喋らないまま映画が始まった。

 映画はとてもよかった。2時間ジェットコースターにずっと乗っているようなハラハラ感、そして緩急のあるストーリーだった。
 映画の始まる前のような空気は消えて、私たちは感想戦を繰り広げた。あーだこーだあそこはどうたらこうやら。

 「また続編が出たら絶対見にこよう!ていうか続編出るより先に普通に他の映画も見にこよう!!」

 言った瞬間に、映画の前のことを思い出した。
 2人も、私が思い出したと分かった。
 だから続けた。

「またこよう。1人じゃないから今日ここまで私はこれたんだよ。1人じゃまだ行ける場所もやりたいと思えることも少ないけど、3人なら多分海外だって行けるし、ホラー映画だって見れるよ」

 2人よりも先に歩き出した。顔を見る勇気はあんまりなかった。
 後ろから足音と、大きいため息が聞こえた。

A「しょーがねぇなー」
B「どこまでだってついて行きますよ」
私「ありがと。え!ねぇ!!見て!!!あの小さいカラオケみたいな奴ガチで音漏れしてない!!初めてやってる人見た!!!!」
A「すご、あれ本当に音大丈夫なんだ」
B「そこの2人止まらないでもらえます?」
A「てか見たいホラー映画でもあんの?」
私「ない。てか選択肢にない」
B「ここ3人ともホラー無理ですもんね」
私「いつかのお化け屋敷でBだけ出口待機してたの一生忘れないからね?」
B「あんなの入る方がおかしいんですよ」
私「でも楽しそうじゃん!!」
A「入って5歩目で泣き叫んだ奴がよく言うよな」
私「Aも「お前が先いけ!!」って後ろにずっといたの忘れてないからね?」

 帰り道は3人で次の映画を決めた。
 ホラー映画である。今は「ポップコーンでだいぶ怖さは減ると思うんだよね」「朝イチでやってるのねぇのか?」「直後にプリキ◯アというのは」と、案を出している。

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