見出し画像

「どんなときでも自分を見失わず、自分自身を貫き通す」―赤毛建太・マイミチストーリー

(リード)
「就活前に参加した企業インターンシップで自信を失くしていました」。ケンタは、失った自信を取り戻したいと思っていた。北海道・十勝の上士幌町で「遊ぶ・学ぶ・働く」を体験する1カ月の滞在型プログラム。それが「MY MICHIプロジェクト」だ。2022年5月〜6月の第5期に参加し、前を向いて歩きはじめたケンタのマイミチストーリー。

(プロフィール)MI MICHI 5期生
赤毛 建太(ケンタ)|あかも・けんた|2000年東京都中央区生まれ。大学では観光について学ぶ。2021年9月より休学。企業インターンシップで失った自信を取り戻し、自分の軸を見つけたいと「MY MICHIプロジェクト」に参加。ニックネームは「ケンタ」。

ケンタは、自信を失っていた。

2021年、大学3年生。ケンタは、就活を前にある企業のインターンシップに参加していた。

そのインターンでは、社員と一緒に新規事業のアイデアを考えることが求められた。「社会に出たときに、ゼロイチで新しい事業を生み出せる人間になれば、必ず必要とされる人材になるはず」。そう考えて参加したのだ。

だが、結果は散々だった。自分の意見や考えを言葉にして伝えることができない。一緒に参加したもう一人の学生は、ケンタとは逆に、どんどん自分のアイデアを出している。自分は明らかに足手まといになっている……。

「僕は、誰かの指示のもとでしか動くことができないのか?」

インターン先の社員から「まだ学生なんだから、できないこともある。気にすることはない」と言われても、その言葉が全く耳に届かないほどに落ち込んでいた。

「自分は何もできない。なんてちっぽけな人間なんだろう……」

部屋に戻ると、自然と涙が溢れてきた。

「ケンタ、上士幌に来い」

小さい頃から、成績は良かった。中高一貫の進学校に進み、大学も第一志望に合格。ここまでは順調な人生だと思っていた。しかし、インターンでは、これまでに勉強してきたものが全く役に立たない。21年間積み上げてきたものが一瞬で虚無になってしまう感覚を覚えた。

「本当に、これまでで一番落ち込んだ時期でした。大学までは大きな失敗もなく歩んでこれた。ここでこんな挫折を経験するとは微塵も思っていませんでした。このときは自分が何をしたいのか、何ができるのかを見失ってしまっていました」と、ケンタは回想する。

何もできない自分を責め、自分自身を見失ってしまったケンタは、9月から大学を休学する。そして年が明けた2022年。SNSで流れていたあるプログラムの広告を目にした。

「どんなプログラムなんだろう?」

ケンタはすぐに募集サイトを調べた。そして募集要項を読んでいくうちに「これだ!」と直感した。

「募集ページに『生き方の軸を知る』『好き・得意を思い出す』といったことが書かれていて、胸に刺さりました。休学中にいろいろ考えて、自分自身をもっと知らなくちゃいけないと思っていました。自分はどんな人間で何に興味があるのか。インターンでは役に立たなかったけれど、自分の可能性を諦めたくはなかった。そんな気持ちがリンクしてプログラムに応募しました」と、ケンタは話す。

応募するとすぐにプロジェクトスタッフとのリモート面談があった。そこでいろいろな話をした。家族のこと、子どもの頃のこと、大学に入るまでの経緯や経験、そしてインターンシップでのこと……話を聞いたスタッフは「そんなに自分を責めることはない」と、ケンタを慰めてくれた。そしてケンタに言ったのだ。

「ケンタ、上士幌に来い」

ケンタは、5期生として「MY MICHIプロジェクト」に参加することとなった。

町長表敬で自分自身を紹介プレゼンをする

「安定か夢か」その決断に感銘を受ける

「MY MICHIプロジェクトに参加して、僕は誰かを喜ばせることが楽しいし、自分の喜びにもなることを思い出しました」

プロジェクトを終えてケンタは言う。上士幌での経験は、忘れていた本来の自分に気がつくことができた。そのきっかけとなったのが、メンバーと行った1日旅だ。

「プログラムスケジュールがフリーの日にメンバーに提案したんです。MY MICHIプロジェクトには上士幌でのアクティビティや、牧場などの仕事体験、移住者から話を聞くプログラムなどが盛り込まれていますが、それでも町の全てを見られるわけではありません。そこで、プログラムでは訪れない場所に行こうと思ったんです」と、ケンタは話す。

兄弟のような男子メンバー2人

「僕は大学時代、一人旅が好きで続けていました。初めての旅は大学2年のときに行った鹿児島です。コロナ禍でリモート授業になったので、ネット環境があればどこにいても授業を受けられると思って、日本全国を巡りました。授業が終わったと同時に海に飛び込んだこともあります(笑)」

旅をしていたときは、プランを考えることも楽しかった。だからこのときの1日旅もワクワクしながら計画を考えた。

目的地までのアクセスや所要時間、どんなルートで回ればよいかなどを自分で調べて、工程をつくった。一緒に行ったメンバーはとても喜んでくれた。その喜びをメンバーと共有できたことがうれしかった。

プログラムの中にも魅力的な出会いが溢れていた。その一つ、ひがし大雪自然館で学芸員として働く乙幡康之さんの話はとても印象深かった。

東京でサラリーマンをしていた乙幡さんは、あるときに旭川に異動になった。元々自然が好きで、いつか博物館などで働きたいという夢を持っていた乙幡さんは、東京に戻る辞令が出たときに決断する。

ひがし大雪自然館で学芸員として働く乙幡康之さん

「会社を辞めて、北海道で自分の夢であった学芸員になる」と。

「乙幡さんの話を聞いて、同じ会社にいれば安定するのに、それでも自分の夢を選んだことに感銘を受けました。僕たちに自然のことを話してくれる乙幡さんの表情がとてもイキイキとしていて、心の底から今の仕事を楽しんでいることが伝わってきました。話を聞いている僕たちもとても幸せな気持ちになれたんです」と、ケンタ。

安定か、夢か。自分が同じ立場だったら、きっと安定を選んでいただろう。でも乙幡さんは迷わず自分の好きな道を選んだ。その選択と勇気に感動をもらった。

「乙幡さんと接していて、僕も本当に自分の好きなものを見つけたら、それを突き詰めていける人間になりたい。今からでもその準備は進めていこうと思いました」

忘れることのできない西原農場での体験

上士幌では、町の人たちの温かさにも触れることができた。中でも忘れることのできないのが西原農場だ。

西原農場では、プログラム期間中にゴボウの収穫を体験させてもらった。東京ディズニーランドの敷地よりも広いという広大な畑を目の当たりにすると、「広い……」という言葉以外出てこなかった。

西原農場でのながいものポール立て作業の体験

プログラムで体験したのは1日だけだったが、ケンタはもっと農家の仕事が知りたいと思った。そこでプログラム終了後に自らお願いをして滞在を延長し、2週間ほど西原農場にホームステイをさせてもらいながら、農場の仕事を手伝った。

「ほとんどこちらから無理にお願いしたのですが、西原さんは快く受け入れてくださいました。しかも自宅にまで泊めていただいて。町の人たちの優しさと、無償の愛を感じました」

東京で生まれ育ったケンタにとって、土とともに生きる農家の仕事は新鮮だった。同時に、自分が知らない世界が世の中にはまだまだあると思った。西原農場での滞在を通じて、ケンタは「第一次産業の見方が変わった」という。

「とても失礼になりますが、それまでは農家の仕事といえば作物をつくって売るだけだと思っていました。でも実際は天候や出荷時期を考えて防除をしたり、価格を設定したりと、いろいろなことを考えながら経営していることを知りました。自分の無知を恥じるとともに、自分の世界を広げてくれた西原さんには本当に感謝しています」と、ケンタ。

もう一つ驚いたのが、ご主人夫妻がずっと現役で働き続けていることだ。

「お二人とも80歳を超えていて、僕の祖母ともそんなに変わらない年齢なのに、すごく元気でイキイキと働いているんです。すごく輝いていて魅力的に見えたし、若い僕がクヨクヨしている場合じゃないぞって。僕も頑張ろうという勇気をいただきました」

西原農場での経験は、確実にケンタの中にある何かを変えようとしていた。

周りに流されず、自分の道を歩んでいく

2023年。大学に戻ったケンタは、就職活動の只中にいる。まずは企業研究を進めているが、志望を金融業界と旅行業界に絞って選考を進めていくという。

「旅行業界を志望したのは、僕自身旅行が好きだからです。大学でも観光を専攻しているので、学んだことも活かせると思います。でも同時に、好きだからという理由だけで進路を決めてもいいのかなという思いもあって」

ケンタは続ける。

「上士幌でたくさんの人たちと触れ合って、自分の将来を考えたとき、コミュニケーションの力は絶対に必要になると思いました。それで考えたのが無形商材です。形のない無形商材を扱うには、コミュニケーション能力が必須です。中でも金融商品を扱えるようになれば、自分自身のレベルアップにもつながると考えました。多くの人たちとも関わりますし、ここで通用する人材になれれば、人間としてもっと成長できると思ったんです」

およそ1年半前、インターンシップで自信を失っていたケンタはもういなかった。自分を信じて、自分を高めるために、ケンタは自分の道を歩もうとしている。

「MY MICHIプロジェクトで学んだのは、どんなときでも自分を見失わないことです。思えば、僕はこれまで周りの意見に流されてきたところがあったと思います。でも、それに惑わされず、自分がこれだと思ったこと、本当にやりたいと思ったことは自信を持って貫き通す。そうやって、これからの人生を生きていきたいと思います」

旅行に興味を持ったのは、自分の知らない世界が見たいからだった。そして誰もが見たことのない景色を見たいと思ったからだ。ケンタは、見失っていた自分を取り戻した。

これから歩むのは誰もが見ることのない、ケンタだけの景色だ。社会に出れば、これまで以上に知らない世界に出会うだろう。

最終報告会での発表の様子

「この先、どんな未来が待っているのか。どんな状況でも、将来の自分が満足できるような、そんな人生を生きていきます」

赤毛建太は、自分のマイミチを見つけることができたのだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?