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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第67回「東京のディープタウン立石で飲む」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第67回「東京のディープタウン立石で飲む」である。


はじめに

立石で飲んだ、と聞いて地名がすぐ頭に浮かぶという人がいたら、地元住民か、よほど飲み慣れている人に違いない。かく言う私も、来訪するちょっと前まで立石の存在すら知らなかった。一言でいうならば東京屈指のディープタウンである。

スカイツリーのある京成線の押上駅から各駅停車で4つ目が京成立石駅。各駅停車以外の電車はすべて通過する。典型的な下町で、当然だがここでは泊まれそうにない。隣の青砥駅で辛うじてホテルを確保し、立石に向かうとしよう。

どんな酒場が待ち受けているのか、楽しみでならない。

立石「江戸っ子」~珍しく並んで待った老舗酒場

青砥も下町の雰囲気があったが、京成立石駅を降りた瞬間、青砥とは比較にならないほど昭和感たっぷりと漂う駅前が現れた。駅の目の前にある天ぷらを揚げる総菜屋さんをはじめ、小さな商店が軒を連ねている。予想以上にスゴイ。

そんな昭和の街並みのなかに、大衆酒場が埋もれているのが立石。夜の飲み歩きにはちょっと早めの時間だったが、超有名店の「うちだ」はすでに店じまいしている。一度は行ってみたいと思っているが、かなりハードルが高いとも聞く。

立石の口開けに選んだのは立ち飲み「江戸っ子」。ここも人気店の一つで、吉田類さんも訪れている。昼下がりから営業しているため、店内は満席かつ10人ほどの行列・・・いつもならケツを割って違う店に行くところだが、「江戸っ子」は外すに外せない。

観念して並ぶこと30分。ようやく順番が回ってきてカウンターの一角に陣取る。まずはチューハイボールと煮込みを頼もう。すると、カウンター内にいた女将さんが一声。

「豆腐が無いけどいい?」。

どうやら煮込みに入れる豆腐が品切れになったらしい。別に構わないよ。逆にモツ無し、豆腐のみだったら考えるけどな・・・というわけで豆腐の無い煮込みをいただく。

それもしても、注文の声はあちこちから飛ぶが「ごめんね、終わっちゃった」の返答が目立つ。これだけ繁盛していれば品切れも仕方ないのだろう。ならば、あるものを頼むしかない。赤身の刺し、豆モヤシでしのごう。酒だけは売り切れないだろうからな。

私の両隣は地元のご常連のようだが、店内を見渡すと若い世代も多い。立石の存在を知ったのも、そうした若者たちがインターネットでアップした口コミが情報源だった。先ほど通ってきた「うちだ」もネットで知名度が上がり、超人気店になったらしい。

若い世代に昔ながらの酒場を知ってもらうのは、悪いことではない。ただし、そういう酒場には暗黙のルールがある。大勢では訪れない、一度に別々のものを頼まない、バカ騒ぎし過ぎない・・・口うるさいオヤジみたいな言い分だが、郷に入っては郷に従えは世の習いなのだよ。

そんなことを妄想しながらチューハイボールを飲み干した。さあ、次へ行くか。

立石「毘利軒」~大阪スタイルの串カツを食う

ディープタウン立石って、大阪で言えばどこになるかなと考えてみると、十三という地名が思い浮かぶ。あくまで個人の感想だが、駅前の雑然とした雰囲気が似ている。ただし、十三の方が酒場は密集してはいるが。

次は京成電鉄沿いにある酒場のなかから立ち飲み「毘利軒(びりけん)」にやって来た。屋号は言わずと知れたビリケンさんから付けたのだろう。カウンターには二度漬け禁止のソースが置いてある。間違いなく大阪スタイルの酒場だな。

となれば、串カツを頼むしかなかろう。

串カツはシシトウ、レンコン、豚肉。大阪の串カツ店との違いは2本1セットでの注文ということ。これは正直、小食の身にはあんまり嬉しくない。が、店のルールなので従うしかない。でも、付き出し代わりにキャベツが食べられたのはありがたい。

さっぱりとしたウスターソースにザブリと漬け、ガブリといただく串カツ。注文したチューハイボールにもよく合う。大阪スタイルで串カツを食べていると、大阪の酒場に居るような錯覚にも陥る。周りのお客は関西弁じゃないけど。

立ち飲みはサッと飲んで、パッと出るのが粋。さあ、次へ行くぞ。

立石「鳥房」~強者のおばちゃんに圧倒されて

続いては、これも立石では有名店の「鳥房」。店の正面側は精肉店になっており、店を回り込むようにして精肉店奥の飲食スペースに入る。店内は結構お客さんがいたが、カウンターの一角に座らせてもらう。

店員のおばちゃんたち、これが強者ぞろいなのだ。

まずは生ビールを注文し、3軒目なので軽く何か食べようかと思っていたら・・・いきなりおばちゃんに「この店に来たら、唐揚げ頼まなきゃだめよ」と半ば強引に若鶏唐揚を注文させられた・・・いや、超おススメされた、のほうが言い方にトゲがないか。

若鶏唐揚はニワトリ丸ごと半身をそのまま揚げたダイナミックな料理。ボリューム満点であることは言うまでもない。おばちゃんが食べやすいように鳥肉をバラシてくれ、熱々のところをいただく。3軒目なのに果たして食べきれるのか不安だ。

店に入ってきた客は例外なく、おばちゃんたちに若鶏唐揚を勧められている。強引といえば強引なのだが、これが鳥房の流儀なのだろう。文句を言おうものなら「出てってくれ」くらい言われそうなものなので(苦笑)

若鶏唐揚に悪戦苦闘している最中、数人の若者たちが店に入ってきた。若者は「さっき2時間待ちって言われたんですが・・・」と再来訪をしたことを告げるが、おばちゃんの返事は「満席なんだよ、ごめんね」。

若者たちは苦笑しながら立ち去るしかなかった。

席の予約を取っていないとはいえ、頑固な老舗酒場の一面を見た気がした。なかなかスゴイぞ鳥房。若鶏唐揚も食い散らかしながら、どうにかこうにか食べ終えた。もう、これ以上は食えないし飲めない。青砥に引き上げるとするか。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2013年9月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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