酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第89回「越前の冬の味覚セイコガニを求めて・敦賀市編」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第89回「越前の冬の味覚セイコガニを求めて・敦賀市編」である。
はじめに
11月は日本海の海の幸ファンには待望の季節である。冬の味覚の王様「越前ガニ」が解禁となるのだ。カニ刺し、カニしゃぶ、焼きガニと、どんな料理でも美味い。もちろんカニ味噌は絶品で、とりわけ日本酒にピッタリ。
一般的に越前ガニとしてブランド化されているのは雄。では雌ガニはどうか。雄に比べるとかなり小さい。身はほとんど食べるところがないじゃないか・・・と侮るなかれ。雌ガニことセイコガニ(コウバコガニ)は王様ならぬ「冬の味覚の女王様」なのだ。
さあ、セイコガニ目当てに福井県敦賀に出発!
敦賀「なかや」~何を置いてもまずはセイコガニ
今は北陸新幹線が敦賀まで延伸したので、私の地元諏訪からは長野駅から新幹線で行くのが定番だが、当時は新幹線開業前なので、ルートは名古屋経由だった。米原から北上して敦賀駅に降り立ったのは何年ぶりだろうか・・・まあ、そんなことどうでもいいな。
今宵の夜酒だが、口開けには慎重を期したい。なぜなら、お目当てはセイコガニだからだ。この一本勝負といっても過言ではない。せっかく入った酒場にセイコガニが置いていなければ元も子も無い。そこで選んだのは「御食事処なかや」だった。
店に入っても、すぐにカウンター席に座らず、掲げてあるホワイトボードに目をやる。そこまで神経質になるほど、セイコガニが食いたいと思い詰めているのか(苦笑)
ボードに書かれた「セイコガニ」の文字。
これは助かった。安心してカウンター席に座り、日本酒とセイコガニを注文。日本酒はなかやオリジナルの白龍。これは合いそうだ。そしてセイコガニだが、板前さんに「剥きますか?」と聞かれたので「もちろんです」と元気よく答えた。
さあ、セイコガニの魅力を語らせてもらうかな。大人のこぶし程度の甲羅の大きさで、カニ身を食べるのなら物足りない。だが、セイコガニの真価は甲羅の中にある。カニ味噌だけでなく、内子と外子、そして卵がビッシリ詰まっている。
まるで、美食の宝石箱そのものだよな。
越前ガニは超高級食材として知られているが、セイコガニの方はリーズナブルな値段で手に入る。ただし漁期は年内いっぱいまで。つまり2カ月弱しか獲れないのだ。しかもなかなか沿岸部以外には出回らない。だからご当地で味わうしかない。
細い脚の身をほじくり返しながら、ゆっくりと味わう。急ぐことはない。セイコガニをじっくりと堪能しよう。おっとお酒が終わったな・・・ならば、追加で敦賀ロマンの燗酒。冷え込む晩秋にさしかかっているので、燗酒が体に染み入る。
セイコガニを食べて大満足。美味かった!
敦賀「市兵衛」~へしこと焼酎でチビチビと
セイコガニでだいぶ満足したのだが、せっかくの敦賀なのだからはしご酒をしたい。2軒目にやって来たのは居酒屋「市兵衛」。落ち着いた雰囲気の居酒屋のようだ。
この店は日本酒よりも焼酎がウリとのことで、ロックの飲み比べセットを注文する。銘柄は海、亀五郎が芋焼酎、それに麦の安心院蔵。日本酒の飲み比べは何度も飲んでいるが、焼酎は珍しい。ミニグラスに3種類並んで供された。もちろんストレートである。これはキキそうだ。
肴には若狭の郷土料理「へしこ」。
若狭湾を代表する魚のサバをぬか漬けにした保存食で、ほんのひと切れでも猛烈にしょっぱいのが特徴。市兵衛の自家製へしこは、それほど塩気は強くなかったが、一気に食べられるものでもない。少しずつ頂戴した。
チビチビしか飲めないロック焼酎にはピッタリの肴だったな。
中締めの敦賀ラーメンから飲み直しでバーへ
3軒目に行く前に、ここでラーメンをいただこう。シメにするわけではない、あくまでも中締めのつもり。というのも、ご当地B級グルメ「敦賀ラーメン」を食べておかなきゃいけないと思ったからだ。
敦賀ラーメンは屋台の夜泣きそばが発祥ということで、屋台ラーメンの時代を踏襲している店がいくつかある。そのうちのひとつ「おかや」に入る。典型的な町中華で、飲み屋として集っているおっちゃんたちもいる。
ならビールでも・・・といきたい気持ちを抑え、ここはラーメンのみ注文。敦賀ラーメンはトンコツと鶏ガラスープが基本とのことで、意外にさっぱりしている感じ。飲み歩いている身にはややボリューミーだったが、しっかり腹ごしらえができた。
さあ、もう一軒、腰を据えて酒だけ飲もう。
それなら、居酒屋や飲食店ではなくショットバーがいいな。事前にいくつか調べてもいたが、バー「COCO AZURE(ココ・アズール)」へと足が向く。予備知識なくカンを頼りにした方が、いい店に巡り合えるのは私の中の常識なのだよ。
角型カウンターとテーブル席少々でマスターが一人。まずはいつも通りジントニックを注文。酒場の雰囲気に慣れるまでは、静かにグラスを傾けていよう。
と、そこに「先生」呼ばれる年配のご常連登場。
マスターと会話をはじめた先生。なかなか上機嫌な様子だ。そのうち、見慣れない一見客の私を見て「この店は初めてかな?」と聞いてきた。もちろんその通り。すると「よくこの店を見つけたね。いい店だろ」と胸を張り、ますます上機嫌になった。
おかわりでワールドターキーをいただきながら、お帰りになった先生に代わって隣に座った男性としばし歓談。マスターもまじえて「セイコガニ談義」に花が咲く。
ここで耳にした地元民のセイコガニあるある・・・「セイコガニは自分でさばいて食べるのが地元の常識」「昔は『猫またぎ』とまで言われるほどの庶民の食材だった」。なるほどなるほど。そして一致したご意見は「越前ガニよりもセイコガニの方が美味い」。その通り!
敦賀の夜、なかなかだった。明日は福井市に移動する。何が待ち受けているのかな?(つづく)
〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2012年11月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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