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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第6回「芋焼酎の奥深さに酔った鹿児島」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって2年半・・・再開の日を、ただ黙々と待ち続けていても仕方ないので、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第6回「芋焼酎の奥深さに酔った鹿児島」である。


はじめに

鹿児島には3度目になるが、飲み歩きのお供は芋焼酎と決まっている。ビールは別格として、他の酒を飲むのはヤボだ。鹿児島には数え切れないほどの芋焼酎がある。いくら飲み歩いても、飲み切れない。だから芋焼酎を頼む。

もう一つ、鹿児島市内で外せないものがある。温泉銭湯だ。風呂上がりの酒(とくにビール)が美味いのは、呑んべえなら誰もが知っている。しかも、温泉だし、気軽に入れる銭湯だし、とてもありがたい。飲み歩きには絶対欠かせない必勝パターンなのだ。

錦湯でひとっ風呂浴びた。さあ、まちに繰り出すとするか。

天文館「さかなちゃん」~看板に偽り?

湯上りの身で鹿児島一の繁華街・天文館をフラフラと歩く。「本日のおススメ アサヒが二」の呼び込み文句が目に飛び込んできた。海鮮料理の店でもよしと、吸い込まれるように来店。さかなくん、ではなく「さかなちゃん」である。

看板に偽りあり?アサヒガニはなかった!

理由を店員に聞くと、「海がしけるとエビやカニ類は獲れないんです」と申し訳なさそう。アサヒガニは他でめったに食べられないからこそ、店に入ったのに・・・だったら出るか。でも面倒だ。仕方なく口明けとする。

もともと海鮮料理は思案の外だった。理由は合わせる酒にある。海の幸には日本酒と決めつけていたからだ。でも、鹿児島に来たなら芋焼酎を飲まなければならない。こだわり過ぎというか、頑固なオレ。

というわけで、芋焼酎の「鉄憲」を注文。続いて、キビナゴ焼きとナマコ酢、カツオのたたきを頼んだ。付き出しとナマコ酢を食べながら料理を待つ。なかなか出て来ない。品書きの隅には「一つずつ作っているので時間がかかるかもしれません」と書いてある。

芋焼酎は飲み終えてしまった。ここでおかわりといきたいところだが、口明けなので自重したい。申し訳ないが、お湯割り用のポットからさ湯を注ぎ、それを飲んでしのいだ。ようやく出てきた料理もそそくさと食べ、勘定を急ぐ。

「さかなちゃん」のために、言い訳をしておく。この日はちょうどクリスマスイブで、私以外の客は全員がカップルという、一人酒には何とも居づらい雰囲気。アサヒガニが無いのも店のせいではない。巡り合わせが悪かったな。

天文館「焼酎バーよかばん」~焼酎のお湯割りの作り方

バーへ行くにはやや時間帯が早いかもしれない。だが、私の心中は「一軒目で乗り切れなかった。早くテンションを上げたい」であった。そんな時に見つけたのが、「焼酎バーよかばん」だった。

この店には品書きが置いていない。なぜなのか。マスター曰く「棚を見ながら、銘柄を選んでいただいています」とのこと。バーラウンジらしいといえばらしいが、銘柄を見せられても、ちんぷんかんぷんである。

そんなわけでマスターにチョイスしてもらう。1杯目は「村尾」、2杯目は「佐藤」。鹿児島ではお馴染みの人気銘柄。ただ味は対照的。「村尾」はどちらかといえば辛口、「佐藤」は口当たりのいい甘口。飲み比べて初めて分かる芋焼酎の個性である。

合わせる肴は「豚軟骨味噌煮込み」という創作料理。郷土料理のトンコツをアレンジしたもので、これが焼酎にピッタリ。一緒に頼んだサツマイモチップスも美味い。そして、何気なく飲んでいる芋焼酎お湯割りだが、マスターに「地元の飲み方」を教わった。

「お湯→焼酎→お湯」の順!!!

以前の鹿児島旅行以来、芋焼酎にハマって自宅でも飲んでいたのだが、ウイスキーの水割りなどと同様に、酒を入れてからお湯や水を注いでいた。本場鹿児島では逆だった。さらにお湯をつぎ足すことで、マドラーなしに混ざり合う。目からウロコである。

3杯目はマスターお勧めの「鶴見」をいただく。曰く「焼き芋の香りがする焼酎」とのことで、個性の強さを感じた。芋焼酎は奥が深い。

マスターに芋焼酎はどのくらいの銘柄があるのか聞いた。が、「私も分かりません」と苦笑するばかり。少なくとも1200種類はあるという。旅行者がおいそれと飲める種類ではない。いや、地元の方でも一生かけて飲まねば、飲み切れないだろうな。

天文館「焼酎天国」~自信を持ってお勧めできる酒場

かなり飲んでいるが、まだまだ飲み足りない。「よかばん」が良かったので、それ以上の店を見つけるのは難しかろう。であれば、鹿児島では自称定番としている店に向かうしかない。店の名は「焼酎天国」である。

焼酎天国は、1997年に初めて鹿児島旅行をした時に訪れ、芋焼酎にのめり込むきっかけとなった店だった。芋焼酎と郷土料理が一緒に味わえるのがありがたいし、女将さんも気さくな感じで雰囲気もいい。

鹿児島にはもう一軒、郷土料理店「味の四季」という自称定番の店がある。郷土料理とおでんの美味しい店で、この旅行でも翌日の昼酒をさせてもらった。この2つの店は、誰にでも自信を持ってお勧めできる。

能書きはいい。さあ焼酎を飲もう。

「若松伝承」という銘柄をいただく。お湯が先の流儀にも従う。酔っぱらっていて繊細な味までは分からない。でも美味い。肴は「にがごり」、それに付き出しの「キビナゴとビナ貝の煮付け」。これで十分だ。

2杯目は「薩摩一」。これもお湯から割って飲む。1杯目との味の違いは区別がつかない。もういいや、飲んで酔うことに没頭するか。いつも満席の人気店だが、時間が遅かったので客も少なく、腰を落ち着けてじっくりと飲めた。

残念な補足だが、エッセイを書くために店情報を調べてみたら、「焼酎天国」も「味の四季」も閉店したらしい。
鹿児島の一人酒も寂しくなるなあ・・・

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2005年12月の備忘録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

★店舗情報などを載せています→ブログ「ひとり旅で一人酒」

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