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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第47回「古都にもあった!庶民の味方・大衆酒場」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第47回「古都にもあった!庶民の味方・大衆酒場」である。


はじめに

京都や奈良、いわゆる古都である。歴史に彩られたまち。古き良き伝統を守るまち。それゆえに京都に代表されるような「一見お断り」があちこちにあるのではという、飲み歩きの敷居が高そうな先入観がある。

だが心配ご無用。庶民派の店や個性派の店は古都にもあった。というか、市民が普通に暮らしているのだから、あって当たり前か。そんなわけで今回は、京都駅と奈良駅のすぐ近くにある酒場について語ろう。

ほなら、ぼちぼち行ってみましょか。

京都駅近「森帳酒店」~心配りがうれしい角打ちの店

京都は全国一の観光地。インバウンドとか言われる前から外国人観光客も大勢訪れている。その玄関口である京都駅。巨大ターミナル駅だが、そこから歩いて数分のところに、なんと角打ちがある。

駅近だが大通りからは外れた小路で、夜はかなり暗い。その一角にある「森帳酒店」。外観はごく平凡な酒屋さん。店内の光がほとんど漏れていないので、外から見ただけでは営業中かどうかわからない。だが、にぎやかな声が聞こえてくる。さあ入るぞ。

立ち飲みスタイルではなく、ビールケースが椅子とテーブル代わり。すでにサラリーマンたちがワイワイと楽しく飲んでいる。乗り遅れないように瓶ビールで手酌乾杯だ。ちなみにマスターは人気グループのリーダーにチョイ似ているが、どうだろうか。

この店は「正統派」の角打ちらしく、料理した肴は一つもない。乾き物かカンヅメ・・・ならば、イワシのオイルサーディンをいただこう。注文を受けたマスター、おもむろにカンヅメの中身を皿に空けたと思ったら、レンジでチンしてくれた。

これはなかなかの心配りじゃないか。

そればかりではなく、温めたカンヅメに一味をサッと振りかけて出してくれる。これも嬉しい。カンヅメそのまま「ハイっ」と出されるより、ほんのちょっとの心遣いで、美味しい肴に早変わりする。人気があるはずだ。

京都駅近にある「隠れ家」のような角打ち。また来よう。

京都駅近「味勢」~座敷に一人座ってゆるりと飲む

角打ちの森帳酒店で十分楽しめたのだが、食べるほうも酒ももう少しいけそうだ。今度は大通りに面したところにある酒場を訪ねてみよう。

看板に「あ!!じせい」とあるが・・・

屋号がよく分からないまま、地下にある店舗へと歩を進める。入口まで行ってみれば中の様子も少しは分かるだろう。が、階段を途中まで下ったら、いきなり「ピンポーン」という呼び鈴が鳴り響く。これは後には引けないぞ。

店員さんに座敷へと通してもらう。個室っぽくなっているので、一人酒の場合、落ち着いて飲めそうで飲めない。注文を聞く前に店員さんは「本日は混みあっていてお時間がかかります」と前振りをしたが、本当だろうか?

詮索はやめて注文しよう。ハイボールと筋の煮込みをいただく。ハイボールはかなり濃い目。これは酔いそうだ。チビチビと飲みながら、付き出しの鶏肉の煮つけを味わう。筋の煮込みもほどなく出てきた。これも結構美味い。

はしご酒の最後に寄った店で、しかも座敷で座って飲んでいるので、油断するとウトウトしてしまいそうになる。周りにお客さんがいたり、店員さんが見えたりしていれば、眠くなることもないのだが。まあ、いいか。

ウトウトしそうだとかなんとか言いながら、さらにいいちこ(麦焼酎)のお湯割り、シメの焼きおにぎりまで追加。最後まで本当に混みあっていたのかどうかわからないまま、店を後にすることとなった。

ちなみに屋号は「味勢」。看板の「あ!!」が小粋な店だったな。

奈良駅近「波道」~個性派のマスターと愉快なご常連

京都の翌日、今度は奈良で飲み歩き。口開けは奈良駅ビル内にある酒場で、生ビールなど軽く頂戴する。駅を出てから小路に入って数分、静かそうな住宅街のなかにある居酒屋「波道」を訪れた。

店内はカウンダ―中心でそれほど広くない。カウンターにはお客が数人。一人で切り盛りしているマスターは帽子をかぶっている。なんかクセがありそうだなとの予感。注文の前にマスターからおしぼりが手渡された・・・

「あちちちち」と思わず声を挙げてしまった!

すかさず隣のご常連に「この店の名物ですよ」と笑われた。一見のお客に熱々のおしぼりを渡して、リアクションを見るのが楽しみなのだとか。これは相当手ごわそうだ。

気を取り直して注文する。奈良葛城酒造の百楽門とアジのなめろう。魚料理がメインということで、なめろうは美味かった。マスターは茶目っ気ばかりでなく、魚の目利きも腕も確かなようだ。カウンターもいつの間にか席が埋まっている。

マスターは一人で切り盛りをしているため、一気にお客をさばけない。そのせいか、いちいち「すみません、ちょっと待ってください」と言葉がけをしている。お客にすると、こういう気配りが嬉しいものだ。

ご常連さんも多そうで、あちらこちらで別々のお客同士が語らいあっている。一見の私も会話の中に混ぜてくれたので、どんどん店になじんでくる。奈良県御所市の地酒「櫛羅(くじら)」をおかわりし、さらに話の花が咲いていく。

すっかり酔ってきた。

同年代のご常連とは、エッセイでは書けないようなエロ話にまで発展してしまう脱線ぶり。こんな愉快な酒を飲んだのは久しぶりだ。あまり料理を注文せず、マスターには申し訳なかったが、すっかり長居をさせてもらったよ。

京都、奈良・・・古都にはまだまだ隠れた大衆酒場があるに違いない。


今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2016年2月の備忘録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

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「ひとり旅で全国を巡ろう!旅道楽ノススメ」→note連載中の「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」もヨロシク!


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