少し前のこと、 まだ灼熱の名残りが湿った布のように、 べったり身体に張り付いている 少し目線を上に向けると、 ビルのすぐ側の空間が歪んでなびいているようにみえる 向こうの空で鳥は自由に線を描き、 そのまた向こうを工学の鳥が、 ぎこちなく通りすぎていく 後からやってくる大きなうねりの音の中で、 変哲を忘れてしまった灰色の群れが、 辛うじて有機性を手放すことなく、 剥き出しの渇望を傍らに、 それぞれ同じようなリズムで浮遊している 街が暖色に塗り替えられようとしている
あの日、 掌を射す陽、 足元に横たわる陰、 遠くで揺れる青白い街、 僕はその静寂の喧騒に 眩しくて目を細めた
雨の中、傘もささずに歩いてる 特に理由はない ずぶ濡れになるわけでもないし 溺れるわけでもないから 今は気にならない 耳を少しすませば 雨音が聞こえてくる パラパラ、ポツポツ ことばにできない音 とにかくそれは、 静かで優しくて、そして、悲しい音 君は、雨、好きなんだっけ あの頃の雨を思い出す 雨の日が多かった 僕が変わったのか 季節が変わったからなのか 今のとは、ちがう感じがする 空が暗さを増していく もうすぐ夜が来る 早く晴れたらいいのにな
僕の足らなさがゆえに 今までいろんなものを失ってきたんだろうと思います。 最近も本当に大事なものを失ってしまった。 今は仕方のないことだけど、 眠れない日々を過ごしています。 後になって考えれば、容易に分かることも その時には気づけない。 手の施しようのないアホなんでしょうね。 このことを良い機会と捉えて、 自分を省みるのもいいんでしょう。 でも、そんな余裕は今の僕にはない。 とは言え、きっと時間が僕を助けてくれると 信じて生きていきます。 たぶん僕は、この先も
2021年9月5日、 確かに僕はここにいた。 始まりの場所。 何の縁もゆかりもない、いつもはただ通り過ぎるだけの場所。 ただそこには、思い出がある。 抗うことのできない想いを、その景色を見ながら語った。 花壇の脇に腰掛けて、冷たい潮風が吹く中、ぬくもりを感じた。 今、僕はそこに一人で立っている。 少し歩いて、橋の上から、この川の向こうに想いを寄せる。 ノゾミアルものに向けて。 始まりの場所に、別れを告げよう。 今が終わりであり、それは始まりでもある。
会いたい人と会えなかった時、 話したい人と話せなかった時、 それはとても寂しくて、空っぽな時間だ。 どうしようもないくらいに。 でもそれは大切な時間なんだよと、 内なる僕が言う。 なぜなら、その人の大きさについて知ることができるから。 なんて素敵なことなんだろうと、僕は思う。 今宵はその空っぽを優しく抱いて、眠ることにしよう。
初老の男は、平坦な日々を過ごしていた。 何も変わらない日々。 昨日が今日、あるいは明日であるかのようだった。 もし日記をつけるとすれば、1年分を今日書いてしまえるだろう。 色のない世界。 目の病気を患っているわけではないが、 男にはそう感じられた。 ♦︎ 今日もいつものように、 いつもと変わらない朝がきた。 いつも通りに身支度をして、 いつもと同じ時間に、 いつもの靴を履き、 ドアノブをひねり外に出る。 いつものように。 そ
目の前にある壁をじっと見る。 僕は乗り越えられるだろうか。 高くそびえ立つこの壁を。 物理学では、確率的に通り抜けることもできるらしい。 でも、ほとんどゼロに近いというではないか。 であれば、乗り越える方が容易いのかもしれない。 中学の頃だったか、 遠い国の人々が、破壊された壁を前に喜ぶ様子を、 ブラウン管越しにぼんやりと見ていたことを思い出す。 当時はよくわからなかったが、 歴史的に何かが変わったのだということだけは、雰囲気から伝わった。 ぼんやりとだけど。 のち