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[小説] eternal charm ~ミア~


トワは心配そうな表情でせわしなく目を左右に動かして辺りの様子をうかがっていた。魔法使いは魔力で予知夢をみることがある。魔力が強いほど予知夢をみることが多くなり、魔力も直観も強いトワは特に予知夢をみることが多い。

だとしたら、あの夢は予知夢の可能性が高い。今日学院で何か起こるかもしれない。トワはわずかな前兆も見逃さないように目を光らせていた。セレンにも今日は周りに注意を払ってほしいとお願いしておいた。これだけ用心していれば何かあれば二人のうちどちらかが気づくはずだ。

「トワ様、どうかしましたか?」

声がした方に目をやると、ミアの不可思議そうな心配そうな顔があった。

「実は…。」

トワは昨夜の夢のことをミアに話すことにした。ミアは王族の者でも貴族の者でもないが、優秀な魔法使いだ。浄化魔法を使えることはその何よりの証拠だ。”メガロフィイア”になったばかりの頃は王族でも貴族でもないミアに抵抗を覚えたり嫌がらせをした者もいたが、トワはミアの優秀さを見抜き当初から親交を深めていた。

「あれは呪いだったのですか?」

ミアは驚きの色を滲ませていた。無理もないだろう。王国の古い内密な情報にアクセスできる王族のトワやセレンでさえ呪いをかける魔憑きなど聞いたことがなかったのだ。

「…確かに違和感を感じました。」

ミアはあの事件を思い出しているようだった。ミアもトワと同じ"メガロフィイア"で直感が強いが、トワとは魔力の源が違うからトワには感じられない何かを感じたのかもしれない。ミアの話によると、はっきり呪いの気配を感じた訳ではないが、「何か違う」と感じたらしい。

「トワ様は何も感じなかったのですか?」

トワは俯くことしかできなかった。自分が何も感じなかったから皆を守れなかったという罪悪感が拭えなかった。

「私がトワ様をお守りします!」

ミアは決意を滲ませた真剣な表情でトワをまっすぐ見ていた。ミアの突発的な宣言のような発言にトワは内心驚いたが、ミアの真剣な表情を見て協力してもらおうかと思った。しかしトワは首を横に振った。

「気持ちはありがたいけれど、ミアを巻き込む訳にはいかない。」

トワはこれ以上誰かに迷惑をかけるのは嫌だった。自分のせいで誰かが傷つくのが怖かった。トワが黒い感情に侵され始めた時、ふいにミアが口を開いた。

「私が"メガロフィイア"になった時、トワ様は私を守ってくださいました。次は私の番です。」

ミアの言葉に気概を感じ、トワは胸が熱くなるのを感じた。

「トワ様にはセレン様がいらっしゃいます。けれど、学院のクラスは別でずっとそばにいることはできません。学院では私がお守りします。」

「ありがとう。お願いします。」

トワは顔を緩ませ、いつかのような柔らかな笑顔を見せた。トワはミアを巻き込むことに不安もあったが、呪いをかける魔憑きが現れたときに違和感を感じたミアがいれば、事を未然に防げるかもしれないと思った。何より、ミアがいることは心強かった。




「それでミアが一緒にいるのか。」

その日の光の刻、セレンはミアと共に現れたトワを不思議に思った。トワはセレンに先ほどの出来事を話し、ミアにも事件解決に協力してもらうことにしたことを話した。幸い、セレンも同意してくれて、三人で事件解決に向けて動き出すことになった。

「ミアの浄化魔法は強力な武器になる。これからよろしく頼む。」

セレンもトワと同様ミアを頼もしいと思っていた。が、張本人は自分の実力を十分とは考えていなかった。

「いえ、私はお二人には遠く及びません。どうか私に手ほどきを。」

トワもセレンも呆気にとられていた。ミアほどの実力者が自分の実力はまだまだ不十分であると考え、あまつさえ手ほどきを懇願してきたのだ。しかし、「ミアの実力は十分だ」と言って引き下がるミアではない。

「それならば、私が一つ教えましょう。」

トワが立ち上がり少しひらけた場所まで歩いていった。ミアはトワが魔法を教えてくれることに心躍らせ満面の笑みを浮かべてトワの後に続いた。

「ミアほどの実力者なら、透視魔法を覚えておくと便利だと思う。」

トワはミアの方を振り返り、ミアのような満面の笑みを返して言った。

「透視魔法とはトワ様でさえ成功率が100%でないという超高等魔法ではないですか?」

ミアは恐れ多いとでも言いたそうな顔でトワに訴えていた。

「確かに透視魔法は超高等魔法だ。だが、そこに泉がある。」

セレンはどこか楽しそうに泉を指して言った。ミアは水を魔力の根とする魔法使いだ。だから、魔力の根となる水の近くで魔法を使うことで魔力が増し、普段は使えない高等魔法を使えるようになることがある。ちなみに、この泉が呪いから皆を救った"恵の水"のもとだ。

「では、まず私がお手本を見せます。」

トワは目を閉じ、ペンダントに意識を集中させた。するとペンダントが光を帯び始めトワの視界に今まで見えなかったものが視え始めた。ミアはトワの美しい魔法に思わず見入っていた。

「トワ!」

突然セレンの緊迫した声が飛んできた。トワはほぼ反射的にミアをかばい、セレンは厳しい目つきでトワを襲った魔憑きを睨んでいた。

(?!)

トワは前と同じように魔憑きに向かって魔力砲を放った。しかし、魔憑きはトワの放った魔力砲をすっと避けた。魔力砲は最も単純な魔法で威力よりスピード重視だ。トワほどの魔法使いの魔力砲を避けたということは魔憑きは相当な速さで動いているということになる。トワは基礎魔法では太刀打ちできないことを悟り、ペンダントに意識を集中させた。すると魔憑きの周りに闇が生み出された。闇はどんどん濃くなっていき、ついに魔憑きを取り込んだ。

「ミア、浄化魔法を…」

トワがミアの方を振り返ると、そこには地べたに座り込んで苦しそうにしているミアの姿があった。すぐ隣ではセレンも同じように苦しんでいた。

「ミア、セレン、どうしたの?」

トワは少し震えた声で言いながら二人のそばに駆け寄った。

「トワ様…。」

ミアは必死でトワに助けを求めているようだった。

「呪いだ。」

苦しみで声が震えながらもはっきりとした声がミアの隣から聞こえた。トワは魔憑きに関連した呪いに再び出くわしたことに混乱したが、ふとあることに気づいた。呪いということは"恵の水"を与えれば治る。幸い、"恵の水"のもととなる泉はすぐそこにある。トワは急いで泉から"恵の水"を汲んで二人に与えた。しかし、二人の様子は変わらなかった。

(どうして?)

トワは二人を早く助けなければと焦り、どうすればよいか考えを巡らせていた。その時後ろから音がして振り返ると、闇に閉じ込められていた魔憑きが闇から抜け出そうとしていた。トワは魔憑きを早く浄化しなければと思ったが、浄化魔法が使えるミアは呪いによって動けない。

魔憑きを倒す方法は二つ。一つは浄化魔法。もう一つは攻撃魔法。しかし、攻撃魔法を使って魔憑きを倒すということは魔憑きのもとの動物の命が止まるということだ。トワは心が痛むのを感じたが、攻撃魔法を使うことを心に決めた。トワが魔憑きに向かって攻撃魔法を放った瞬間、魔憑きは呻き声を上げ喘ぎながら落下していった。同時にトワの後ろで苦しんでいた気配が消えた。

「トワ、怪我はないか?」

セレンは心配そうな申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

「ええ…。」

セレンとミアを助けられたにも関わらず、トワの心は沈んでいた。魔憑きに向かって攻撃魔法を放つ直前に感じた胸を刺すような痛みがまだ消えていなかった。

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