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やまだしす さいかいのとき

新大阪に降り立った私は、まず花屋を探して花籠を1つ注文した。
真っ白な花を準備してもらっている間、ショーウインドーに写った自分をチェックする。自分で見ても落ち着かぬ顔をしていた。
花籠を受取り、また電車に揺られる。

大阪のとある駅で遺骨の管理人と落ち合う約束をしていた。
管理人は彼の片割れと言っても過言ではない彼の親友で、私とは実に20年ぶりの再会である。

彼と私が別れたあと彼の周囲では私の名前が禁句になったらしい。という噂を聞いていたので、睨まれるくらいはするだろうと思っていたが穏やかな紳士である友人はそんなことを微塵も感じさせないナイスガイだった。

友人のことはBと呼ぼう。

Bと私はぎこちない挨拶を交わし、Bの家に向かう。
道中の話題はコロナに終始していてお互いに肝心なことには触れないでいるような、ふわふわと浮いているような感じであった。
ただずっと「現実味がないな…」と思いながら歩いてたのを覚えている。

マンションに到着し、Bが扉を開く。
バレないように深呼吸してから「お邪魔します」と足を踏み入れた。
洗面所を借り、手を洗いとある部屋に通される。
そこに祭壇がぽつんと置いてあった。

歳を重ねて柔和に笑っている彼の写真がそこにあった。
優しい目は変わらなくてあの頃のまんまで。
それを一目見た時、自分でも驚くほど泣いてしまった。
線香をあげることはおろか、手を合わせることも出来ずにただただ泣く私をBは静かに見守っていた。

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