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初恋の相手が義妹になった件。第19話

 風呂上がり、冷たい牛乳を一気に飲み干す僕と、テーブルの上で管を巻く母の姿があった。

「私ダメだぁー。初日から何してるのよー」

「ああなったら長いから早く上に行くよ」

 僕は百花に手を引かれて二階に上がる。自室のベッドに腰掛けると、隣に百花が普通に座った。

「本当、これから大変ね」

 百花はため息を吐く。そして僕の方を見て微笑むと、僕の太ももに手をやる。

「絶対お母さんには渡さないからね」

 そう言ってすぐにキスをすると、百花は部屋に戻った。
 僕は少し悶々んとしながら、ベッドに横たわるとスマホを見ていた。
 誰からも反応のないSNSとニュースポータルサイト、何度も見た記事を見返しそっとスマホを閉じた。

「そういえば……夕飯……」

 僕は思い出して一階に降りた。

「あ、悠人」

「母さん、夕飯どうするの?」

「えー、前みたいに名前で呼んでよー」

 酔った母に絡まれて僕はよろめいた。

「き、清恵さん……それより夕飯どうするの?」

「ん? 悠人」

「は?」

「私の晩御飯は悠人に決まりー」

 僕は抱きつく清恵さんを引き剥がしてソファーに押し倒した。

「あ……ごめんなさい」

「……来て」

 清恵さんはクイっとシャツの胸元を引き下げて僕を誘うが、僕はその瞬間、百花の顔が思い浮かんだ。
 僕は百花を裏切ってはいけない。そう約束したし、今まさに上に百花がいる。

「ダメです。百花を裏切ることはできない」

「そうよね……ごめんなさい」

 僕はそう言った清恵さんの服を整えて座らせた。

「そういう優しいところ、もてるでしょ?」

「だったら、いつまでも初恋を引きずってないよ」

 僕は隣に座ると、清恵さんは僕の肩にもたれかかると、目を閉じた。

「少しだけ、こうさせて?」

 僕は何も言わず前を見ていた。清恵さんは小声で「ありがとね」と呟いた。

「さ、そろそろ夕飯の準備しよっかな」

 そう言って立ち上がる清恵さんの足元がグラついた。

「気をつけてください。それから、しばらくお酒は全部やること終わってからにしてください!」

「は、はーい……」

 叱られた清恵さんはしょぼんとしていたが、その雰囲気はどこか百花と似ていた。
 エプロンを着けて台所に立つ清恵さんは、母親のようで、僕は少し安心した。
 僕は部屋に戻って少し教科書を流し読みしていた。

「悠人……」

「ん? どうしたんだ百花」

 僕は突然入ってきた百花にそう訊いたが、百花は少し黙ってから口を開いた。

「明日なんだけど、動物園、行かない?」

「別にいいけど……どうしたんだ急に」

 僕の問いに答えることなく、百花は僕の背中に手を置いた。

「私、悠人と二人で思い出を作りたい。前は陽菜さんと美夜子さんがいたから、今度は二人きりで。動物園ならそこまでチケット代高くないし」

「なるほど、それじゃあ行こうか。動物園」

 椅子に座る僕に後ろから抱きつく百花。僕は倒れないように耐えるだけだった。
 百花はそれを解くと、椅子を回転させて唇を頬に付けた。

「あんまりキスばっかりだとキス魔って思われたら嫌だから……」

「別に思ってないけどな……」

 僕の一言を聞いて、百花は唇にキスをして部屋を出ていった。
 最初と比べて、僕らは慣れ過ぎてしまった。恥じらいというものがなくなってしまったことに、僕は少し寂しさを覚えていた。
 ただ、もしかしたらその初めての時の感覚をもう一度味わう為に何度もキスをするのだろうか?
 それはまるで、最初に空を飛んだ鳥の気持ちを推察するようだった。
 不毛な考え事をやめてから、僕は伸びをして、一階に降りた。

「あ、丁度よかった、百花も呼んできてくれない?」

「わかった」

 僕は階段を上がり、百花の部屋の扉ををノックした。

「百花、夕飯できたぞ」

「わかったー」

 声がしてからすぐ百花が部屋から出てくる。

「どうしたの?」

「いや……何でも」

 どうしてだろうか? 僕は百花に見惚れていた。
 その後普通に食事をしてから自由時間になったが、風呂も済ませてしまっていたので、本当に勉強をするか、何か動画でも見るかの二つだった。

「ねえ悠人、私の部屋来てくれない?」

「え、どうして?」

「いつも私が悠人の部屋に行ってるし……偶にはいいじゃない」

 僕は承諾して百花の部屋に入ると、百花は教科書を開いていた。

「勉強、一緒にしない?」

「そうだな……」

 僕は自室から教科書を持ってきて百花の隣に座る。
 狭いローテーブルにひしめき合うようにノートと教科書を広げた。

「……百花?」

「悠人、お母さんと何してたの? 夕食前」

「何もしてないよ」

 僕がそう言うと、百花は僕の上にのし掛かる。

「嘘だ。絶対何かしてた。ちょっとだけ聞こえてたよ? 声」

「本当に何もなかったよ」

「……信じていいのね」

「ああ」

 僕はそう言うと百花にキスをしようとした。

「ごめん、勉強に集中したいから……」

「そうだよな……ごめん」

 なんだかいつもと調子が狂う。
 沈黙に包まれて勉強は進んでいく。今日は現代文だ。同じところを往復するように、僕は教科書とノートを確認する。
 百花はノートを写したり、補足を書き足したりしていた。

「明日の動物園、何時から行く?」

「開園とともに入りたいから、そうね、出発は八時半くらいかしらね」

 十時開園なので妥当な出発時間だ。僕はスマホのアラームの設定を見たが普段の学校へ行く時間のままでよさそうだ。

「見たい動物とかいる?」

「悠人」

「僕以外で」

「それじゃあ、狸とか」

「そんなんでいいのか?」

 僕がそう聞くと、百花は首を縦に振るだけだった。

「そっか、さっき言ってたもんな。二人だけの思い出を作りたいって。それがメインか」

「そう。だから、動物は次いでみたいなもの」

「可哀想だな……動物達も」

 そう言うと百花はまた僕にのし掛かった。

「私より、動物の心配?」

「ど、どうしたんだよ急に……って」

 僕はベッドの下にあったアニメのパッケージを見つけた。
 この作品は、高校生の男女の話で、付き合い出してから彼女がヤンデレ化するものだった。
 まさかとは思うが、これに感化された、とでも言うのだろうか……。

「ヤミデレ見たからか……」

「バレたか……ヤンデレやってみたくてさ。流石に包丁持って来るのはまずいかなって思ったけど」

「正直、やられると面倒くさいなって感じたよ」

 僕は笑いながら百花の頭を撫でた。

「なんで撫でるのよ」

「いや、可愛いなぁって思ってさ……」

 ひたすらに、ただひたすらに僕は百花の頭を撫でた。

「急に態度変えられたら怖いなぁ」

「ごめん……」

「いいよいいよ。それに、母さんとは本当に何もなかったからね? ただ、酒に酔った母さんの介抱してただけだから」

「わかってるよ。悠人は優しいからなぁ」

 百花は僕の胸に飛び込んでくる。まるで甘える猫のように僕に頬を擦り付ける。

「猫みたい」

「にゃーぁ」

 百花は僕の腹に顔を乗せる。

「暖かくて気持ちいい……」

「どうしたんだ、甘えモード?」

「そうかも……お兄ちゃんに甘える妹モード」

 僕はすごく忘れていたけど、百花は義妹だった……完全に忘れていて、恋人という肩書きが勝っていた。

「全く、困った妹ができたもんだな」

「お兄ちゃん大好き……」

「……もう一回言って」

「お兄ちゃん大好き」

 僕は興奮のあまりガッツポーズを決めてしまった。百花は、しばらく僕の腹枕で寛いでいたが、流石にトイレに行きたくなったので退いてもらった。
 トイレから戻ると、次は私の番と言わんばかりに、ベッドの上で自分の腹を百花は叩いていた。

「そこは膝枕でいいんじゃないか? それか胸とか」

「胸は折角大きくなってきたんだから、潰したくない」

 僕は百花の腹に頭を乗せる。

「……そっち向きだとシャツの隙間から胸が見えちゃわない?」

「見えるねぇ……絶景だよ」

「見物料五千円。払えなかったら、身体で払ってもらおうかな」

「生憎、売春の類いはやってないから」

 僕はそういうと、百花の腹を指で突いた。

「……」

「何よ。何が言いたいのよ!」

 僕は頬を抓られた。

「太ったって言いたいんでしょ!」

「そこまで言ってないだろう!」

 確かに今日一緒に風呂に入った時に気づいていた。身体に厚みが増したなと。
 でもそれに付随して胸も大きくなってたので、女性はそんなものなんだろうと思っていた。
 僕は極端に痩せているより、肉付きの良い健康的な体型の方が好みだ。

「僕の好み的にはもう少し太っててもいいけどなぁ」

「それは私が嫌なんだけど。あ、お母さんとか……悠人だからお母さん好きなんだ」

「好きとか言ってないだろう!確かにああいう体型は好きだけど」

「お母さんの歳であの体型は色っぽいけど、私がなるとただ太った人になるからなぁ」

 確かに百花の言うことにも一理ある。俗に言う熟女というジャンルのなかでも、少しぽっちゃりした女性が多い。

「まあ、悠人がどうしてもって言うなら……でも、夏終わってからね。水着は綺麗に着たいし」

「なら今くらいが丁度いいよ。水着でも恥ずかしくないと思う」

「そうかな?」

 僕は柔らかい百花の白い肌の上で、お餅のようにな軟肌に触れて遊んでいた。

「……ごめんもういいかな?」

「ご、ごめん……」

 僕は起き上がると、百花は恥ずかしそうに僕をみていた。
 そして、シャツを胸の上まで捲り僕に上半身を見せつけた。

「どうかな?」

「うん、いいと思う。これ以上はだらしなく見えるけど、今だと中々健康的だなって感じ」

 百花はほっとしたのか、胸を撫で下ろす。

「明日、動物園でめっちゃ歩こ!そしたらダイエットも一石二鳥じゃん!」

 百花は張り切って僕を巻き込んで掛け布団を肩までかけた。

「何で僕まで……」

「いいじゃない。一緒に寝ようよ」

「別に構わないけど……」

 百花の手が忍び寄り、僕の顔を胸元に押し付けた。

「どうかな。柔らかい?」

「うん、柔らかいよ。大きくなってるんじゃ……」

「太っただけだと思う。あーあ、痩せたら萎んじゃうんだよね」

 百花はそう言うと、ギュッと胸を寄せた。

「谷間もできるよ?」

「どうしたんだ、百花」

「私は悠人を取られたくないからだよ」

「そっか……僕も百花を誰にも取られたくない」

「悠人、好き」

 僕らはキスを何度かした後、眠りに就いたのだった。


 

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