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初恋の相手が義妹になった件。第24話

 無邪気にはしゃぐ百花と怜奈さんを見ている。夏の日差しに水飛沫が照らされて綺麗だ。
 僕らは水に浸からず、川辺でぼーっとしていた。

「悠人さん、入らないんですか?」

「寒いからいいよ」

「でも、夏ですよ? 入らないと勿体無いです」

 樹也はそう言うと、僕の腕を引く。

「お、男子二人も参戦か?」

「うわ!冷た!」

 水を掛けられた僕は飛び上がってしまった。

「ははは!悠人君、女の子みたい!」

 バカにされた気がした。僕は思いっきり怜奈さんに水を掛けてやった。

「ちょっと悠人やり過ぎ……」

「くっそー……もう怒ったからなぁ!」

 さらに量の多い水を僕と百花に掛けてくる怜奈さんを、苦笑いで樹也は見ていた。
 ずぶ濡れになった僕らは、仕返しにとんでもない量の水を怜奈さんに掛けた。

「ええい!このー!」

 怜奈さんは僕にダイブを仕掛ける。怜奈さんを受け止めた僕は思いっきり水に浸かってしまった。

「あ、危ないですよ……」

「えへへ……悠人君あったかいねー」

「怜奈ちゃん……彼女の前でそう言うのはやめてくれないかな」

「やば……モモ姉怒ってる!」

「え? きゃっ!」

 怜奈さんを引き剥がして百花は僕に抱き付いた。

「もう、熱々なんだから……暑苦しいなぁ」

 怜奈さんは乱れた髪を整えながら僕らを睨む。

「姉ちゃんが悪いだろ」

「もう、樹也はどっちの味方よ!」

 今度は樹也がターゲットになり、水を掛けられる。
 なんだかんだで川遊びを楽しんでいると、育代さんが呼びにきてバーベキューが始まった。
 樹也はさりげなく羽織っていたパーカーを怜奈さんに羽織らせていた。
 祖父の清次郎さんと祖母のよし子さんとその横に清太さんが座っていた。

「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。澤田悠人です」

「悠人君そんなに畏まらなくていいから。こっちがお祖母ちゃんのよし子さん。それから父の清太。今殆ど身動き取れないからね」

「わざわざ来てくれてありがとうね。百花ちゃんと仲良くしてるらしいし、本当なら僕が迎えに行きたかったんだけど、腰がねぇ」

「無理しないでください!」

 立ち上がろうとした清太さんを制して、僕は飲み物を渡した。

「情けないの……」

「仕方なかろう。普段からピーシーで仕事しよるけん、座りっぱなしじゃけぇ」

「あはは……」

 親子の会話を聞いてると、亡くなった祖母ちゃんを思い出した。

「悠人、お肉焼けたよ?」

「え、百花が焼いたの? 生焼けじゃない?」

「安心して、私が焼いたから」

 自慢げにトングをカチカチ言わせながら、怜奈さんは言う。

「それも信用できない……」

「文句を言うなら食べないでいいよ」

 百花は僕の紙皿を取り上げた。

「ごめん百花、大好きだからお肉食べさせて」

「あなた達、いつもそうなの?」

「ち、違います!」

 育代さんは呆れ気味に僕らを見ていた。

「でも難しいよね。義理の兄妹だけど、この前まで他人だったって」

「まあ僕らは特殊だと思います。お互いに初恋の相手だったし」

「でもそう思うと悠人でよかったなって思う」

 百花は僕に紙皿を渡すと、自分の分も取りに行き、僕の隣に座った。

「わしらの感覚も、百花の花婿が来たくらいの感覚じゃ。悠人君、末長く頼むな」

「もう、お祖父ちゃん、気が早いよ」

 百花は照れながらそう言うと、肉を口に運んだ。

「悠人君も食べてる?」

「あ、はい。頂いてます」

 僕はソーセージに齧り付くと、熱々の脂が弾けてその熱さが歯に染みた。

「清恵ちゃんもよかったわね。お相手の人も良い人だし、悠人君も良い子だし」

 育代さんは僕を見ながらそういった。
 バーベキューは小一時間続き、最後の締めのお好み焼きを食べ終わると、お腹はパンパンになっていた。

「ねえ、散歩行かない?」

「食後の運動? いいね、行こうか」

 その前に僕らは着替え、玄関の外で待ち合わせた。

「でも地元より涼しい気がするけど、やっぱりアスファルトの量なのかな」

「特にここら辺は傾斜だからコンクリート舗装だもんね。それもあるかも」

 僕らは昼下がりの静かな町を歩く。

「でも本当に良かった。悠人がすぐ馴染めて」

「百花と怜奈さんのお陰だよ」

「やっぱり怜奈ちゃんすごいな……昔からさ、遊びにくると、私を引っ張ってくれて親戚の輪に入れてくれたの。私はそこまでコミュ力高くないから、羨ましいの」

 少し進むと小さな公園があった。藤棚の下にベンチがあったので、僕らはそこに座った。丘の裾野に広がる街と、遠くに海が見えた。

「何か飲む?」

 僕は自販機を見つけて百花に訊いた。

「んーサイダーがいいかな。甘いやつ」

「確かに、夏っぽくて良いな」

 僕も同じのを買うと、百花にプルタブを開けて渡した。

「あ、ありがとう……」

 僕は隣に座ると、サイダーを渇いた喉に流し込んだ。

「ぷは……美味いなぁ」

「うん、染み渡るね」

 サイダーをあっという間に飲み干してしまい、僕はため息を吐いた。

「穏やかだな……確かに都会の喧騒を忘れるには丁度良い。なんならスマホの電源も暫く切っておいてもいいくらい」

 僕はそう言ってスマホを開くと、通知に久しぶりに見る名前を見つけた。

「美夜子さん?」

「え、どうしたの?」

 メッセージの内容によると、陽菜さんと美夜子さんは観光で宮島に来ているらしい。新幹線で美夜子さんは気づいたらしいけど、声を掛けなかったらしい。

「へぇ、また偶然だね」

「喧嘩してなくてよかった」

「だね、また泣きながら陽菜さんが来たら困るよ……」

 僕らはそれを思い出し笑っていた。
 夏の日差しが遠くの海をキラキラと照らしている。近所の子供達が遊びにやって来ると、見慣れない僕らを少し怪訝そうに見てからそれを忘れたかのように遊びに夢中になっている。
 その微笑ましい光景に目を細めるまるで老夫婦のような僕らは、まだ高校生であることを思い出した。
 いつか、本当に年老いてこうして公園のベンチに腰掛けながら、お互いのことを思ったり、幼い命に目を細める日が来るのだろうか。

「そろそろ帰ろっか」

 僕らが戻ると、丁度怜奈さんの運転で育代さんと樹也が車で夕飯の買い出しに出るところだった。

「一緒に行く?」

「……ううん、ちょっと部屋で休んどく」

「そっか、ごゆっくり〜」

 百花は「何をごゆっくりなんだか」とボヤいていた。

「おかえり。何もないじゃろ?」

「いえ、都会に無いものが沢山あるんで……」

「悠人君は変わっとるの。若いもんじゃったら、もっとシティーで遊びたいもんじゃろ?」

 よし子さんが冷たい麦茶を出してくれて僕らはそれを飲む。

「暑さはこっちの方がマシな気がしますね」

「まあ今日は涼しい方だから」

 腰に手を当てながら清太さんが奥から出てきた。

「大丈夫ですか?」

「うん。急に動かなかったら大丈夫」

「わしより動きが遅いの」

 清太さんののそっと動く姿に清次郎さんが笑っていた。

「父さんだって、油断してると来るよ」

「悠人も気をつけなよ。長時間座ってたりすると、なっちゃうかもよ」

「重いものは足で持ち上げるとかしないとって、テレビで見たな。あとピキって来たら躊躇せずに伸ばしたほうがいいらしいよ」

「そうなんだ……」

 清太さんはそれを聞くと俯いた。
 しばらくして怜奈さん達が帰って来ると、僕らは先にお風呂をいただくことになった。

「一緒に入れば?」

 怜奈さんはイタズラっぽくそう言ったが、百花は「じゃあそうしよっか?」と、僕を見てきた。


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