クォークのスープ

 この世界の人間は、様々な種類の食材を使って作ったスープを食べる。

「嫌だ、残す」

 ある家族の、ある日の食卓。
 何人もいる兄弟のうちの末っ子は夕食のスープを食べたくないといい、残そうとする。
 理由は、スープに大嫌いな野菜が入っていたからだ。その野菜は緑色の気持ち悪そうな見た目をしていたので、末っ子は嫌がって食べようとしない。好き嫌いする末っ子を見かねて、母は言った。

「野菜も、人間や動物と同じ生命なのよ。好きなものも、嫌いなものも、ぜんぶ同じ生命で平等。同じところから生まれたのよ」

 そう母に説得されて、末っ子ははっとした。恐る恐る、嫌いな野菜を口にしてみる。意外と、思ったよりも、すごくおいしかった。
 それからというもの、末っ子は好き嫌いをしなくなり、なんでも食べるようになった。

 別の日、末っ子はふと、ある疑問を抱いた。それは「人間がスープを作る。スープを人間が飲むと、スープの栄養が人間の体をつくる。そしてまた人間がスープを作る」という繰り返しに対して、「じゃあ人間とスープ、どちらが一番最初なのか」という素朴な疑問だった。

 その夜、末っ子は兄たちを呼んで、質問してみた。まずは、現実的な長兄から。

「人間が先に決まってるだろ。スープは人間が作るものだから、もし人間が存在しなかったらスープも存在しなかったことになる」

 続いて、次兄。

「そうだ。人間はスープから生まれるわけじゃない。人間は人間から生まれる」

 他の兄たちも、長兄や次兄に賛成した。

「そうだ、そうだ」
「兄さんの言う通りだ」
「でも……」

 兄弟の中で一人だけ、違ったものがいた。末っ子の二番目に年下の兄だった。

「でもって、どういうことだよ」

 その場にいた兄弟全員が、彼に注目した。

「最近、宇宙が生まれたときの話を聞いたんだ」

 兄弟は全員、彼のふしぎな考えに興味を持ち、話を聞くことにした。

「僕たちがいる宇宙は、とても広い。でも、最初の生まれた頃は、人間よりもホコリよりもとても小さくて、すごく熱かった。
そこに、クォークと呼ばれる物質でできたスープがあった。スープは混ざり合い、そこから様々な種類の物質が生まれた。そして、小さく熱かった宇宙は長い長い時間をかけて、徐々に大きくなり冷えていった。
すべての生命は、最初はみんな同じスープから生まれてきた。そこからみんな、それぞれの道を歩んだ。だからみんな、姿かたち、やり方考え方、できることできないことも違うんだ。そこから人間と動物と植物がいるんだね」

 彼が話を終えた頃には、末っ子はすでにぐっすり寝てしまった。

「お前、ちびのくせによくそんなこと知ってるな」
「でも、すごく素敵な話だった」

 兄たちはみんな、彼の話を面白いと言ってくれた。

「僕たち兄弟は、ママとパパの愛から生まれた。僕たちこの星に生きる全ての生命は、同じスープから生まれた。だからこれからずっと先も、みんなでお互い支え合って生きていきたい」

おわり

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