小さな火の玉

 はるか大昔……世界にはまだ、光も空間も時間もなかった。

 ところが、ある時、ひとつの火の玉が生まれた。

 それはとても小さく、とても熱く、そしてとても眩しかった。

 やがて火の玉は大きく膨らみ、一瞬にして世界中を光と熱で満たした。

 ひとつの小さな火の玉から、ひとつの大きな生命体が生まれた。

 たった一秒にも満たない、一瞬のできごとだった。

 長い間、彼はひとりぼっちだった。世界には彼しかいなかったからだ。

 冷たい暗黒の世界で孤独に暮らす彼は、苦しみも悲しみも喜びも、何も知らなかった。

 しかし、火の玉が現れてから何年もの時が経った頃、彼のからだに変化が起こりはじめた。からだに突如、仕切りができたのだ。

 かと思いきや、彼のからだから片割れが分離し、もう一つの生命が産声を上げた。

 彼とそのままそっくりな姿形をした片割れは、彼の最初の友だちとなった。

 友だちができてからというもの、真っ黒だった彼の世界に変化が起こりはじめる。

 時にぶつかり合って、時に仲直りして、時に泣いて、時に笑って……片割れとの時間を過ごすうち、彼の心にたくさんの色が生まれる。

 片割れのからだも彼と同じように二つに分かれ、二つに増えた。そこから生まれたものも、さらに二つに分かれていく。

 四つ、八つ、十六、六十……と、彼の友だちはどんどん増えていく。

 何万から何億へと、生命は増えるのを繰り返し、世界中に広がりあふれていく。

 彼らは、おたがいに悲しみと喜びを分かちあい、そして友だちになった。

 そしてやがて、それぞれ役割分担をするようになる。

 あるものは赤い星となり、あるものは白い星となり、そしてあるものは青い星となり、その光で暗黒の世界を照らしはじめた。星たちはみんな一緒になっていつまでも、踊り、回り、遊びつづけた。

 今でも星たちは、それぞれ違う色に輝き、暗黒の夜空を照らしている。

 もちろん、空の向こうにはきっと、彼もいるはず……。

おわり

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