海よりも空よりも青い花

 あるところにわがままな女性がいた。
 同じ色に見える物同士の組み合わせでもチグハグに見えると言ったり、家の模様替えのときも配色に強くこだわったりと、女性は色々と周りを困らせていた。

 ある日女性は、友人とのデートで木が生い茂る常緑の森林公園を散歩していた。
 二人は仲良く話を弾ませていたが、女性のある一言で気まずい空気になってしまう。

「緑の葉っぱはきれいね。ただ緑だけじゃなくて、その中にたくさんの色が輝いていて色鮮やかでキレイね。
水も空もただ青いんじゃない、雲だってそうね。
みんなその中で赤青緑、黄色紫、たくさんの色を踊らせている。そう思わない?」

 女性のよくわからない言葉に友人は、

「何を言っているの? 葉っぱはただの緑だよ。池も空もどう見たって青にしか見えないよ?」と反論。

 それを見ていた周りの人びとも「なにあいつ?」「変な人」と女性を指差してざわめき出した。
 それからというもの女性は、周りの人びとから変わり者とみなされるようになる。

 ところが別の日に突然、女性の住む村が魔女に襲撃され、村人全員がさらわれてしまう。さらには永遠に、罠だらけの危険な無人島へ閉じ込められる呪いをかけられる。女性とその友人も例外ではなかった。

 慌てふためく人びとに、村人の一人である学者は冷静に話す。

「無人島を脱出するには呪いを解くために魔女を倒す必要があります。魔女を倒すには世界で一番青い花……そう、『海よりも空よりも青い花』が必要です。

魔女にとってはその花は、唯一の致命的な弱点なのです。

その花は、この無人島のどこかへ一本だけ生えているのですが、他の種類のありふれた青い花と見分けがつきません。

そのため、その花を見つけるのは非常に難しいのです」

 青い花の事実を知らされた人びとは、みんな絶望した。
 そんな中、女性一人だけは希望を見失わなかった。

「私がいれば、その花は必ず見つけられる」

 自信満々に訴える彼女は村人のうち数人とともに、海よりも空よりも青い花を探しに冒険へ出る。

「必ず私の後ろについて来て。私には落とし穴がどこにあるかがわかるの」

 彼女の言う通りに仲間たちは彼女の後についていった。女性たちは一列になって、落とし穴の森を通った。
 しかし驚くことに、女性たちが通った道のうちどこにも落とし穴が一つもなかった。

 しばらくすると、仲間のうち一人がお腹が空いたと言い出した。

「私は毒キノコと安全なキノコを見分けられる。私に任せて」

 女性はキノコを探しに行った。
 時間が経過し彼女が戻ってきたとき、持って帰ってきたキノコをみんなで焼いて食べた。
 驚くことに、女性が見つけたキノコはすべて安全なキノコだった。

「後で村のみんなにも分けてあげよう」

 こうして、島の数々の冒険を乗り越えた末、女性らは花畑にたどり着いた。
 仲間たちにはどの花も同じような青さに見えた。しかし女性一人だけは難なく、無数の花の中から目的の『海よりも空よりも青い花』を見つけた。

「やっと青い花が見つかったね」

 これで、全てが解決したかのように思われた。が、その花を見つけられたことを知り激怒した魔女が、女性たちの目の前に現れる。

 今度は、村人たち全員が牢獄へ閉じ込められてしまう。せっかく見つけた青い花も、魔女に奪われてしまった。

 それでも女性は諦めなかった。
 がむしゃらに踏ん張った末に自分のいる牢の鍵を開け、他の人びとを救出しに向かうのだった。

 彼女は罠だらけの迷宮を突き進んでいく。一つの罠にもかかることなく。そして、囚われていた人びとを次々と助け出しながら、どんどん進む。

 それを見て魔女はやはり激しく怒った。

「罠に印を付けるのに、人間には見えない色を使ったはずだが、あの小娘にすべて突破されてしまったとは。

まぁいい。所詮、お前ら人間は最後に消える定めなのだ」

 最後に、魔女は女性に問題を出した。正解を当てられれば人間を見逃すが、不正解の場合は一人残らず消し去ってやるという。

 その内容とは、花瓶に生けられた三つの青い花のうちどれが一番青いか、という理不尽なものであった。

 人びとの心にはまたも不安と絶望が芽生えた。一難去ってまた一難。一歩間違えたら命の危機に陥るかもしれない、危険な無理難題が目の前に立ち塞がっていたからだ。

 しかしあの女性だけは、最後まで希望を失うことも、怯えることもなく、勇敢ながらに答えた。

「中央の青い花が、一番青い」

 その通り、答えは中央の青い花だった。
理不尽な問題ですら正確に答えた女性に、魔女も人間も誰もが驚いた。

 魔女から青い花を奪い返した女性は、その海よりも空よりも青い花を振りかざした。
 すると、魔女は木っ端微塵に消滅。
 人びとは魔女の呪いから解き放たれた。

 女性の活躍っぷりに驚きを隠せない友人をはじめ、人びとに対して学者は笑顔で呟いた。

「普通の人間には見えない色が、彼女には見えたのですね。彼女は人一倍、色に敏感だったのですね」

 学者の言葉を聞いて、友人ははっとした。

「だから彼女は普通じゃなかったんだ」

 こうして、人びとはみな無人島から脱出し、平和な日々が再び戻ったのだった。

おわり

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